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マスカブレード  作者: 黒野健一
第二章 静寂/父と母
17/120

17部屋

前回までのあらすじ!


夏休み前の高校生、月村詩朗は美術館でしゃべる仮面、魔刃と出会う。

魔刃は彼が住む街での都市伝説的存在、仮面の人間達の正体だった!

美術館で襲撃を受けた彼は、魔刃の一人である『復讐』を被り、力を得て襲撃犯

『癒し』の魔刃を撃破するが戦闘の傷と能力のリスクで気を失う。

眼を覚ますと、魔刃に対抗する人間の組織『対魔刃部隊』に保護されていた。

詩朗は対魔刃部隊の黄鐘に、組織と魔刃の情報を外部に漏らさないことを約束に

家に帰ることになるが……?

いつもより重く感じる扉をゆっくり開ける。

足音を消し、靴を脱いで家の中に上がろうとしたそのとき。

「……おかえりなさい」

のろい動きで振り返ると、涙を浮かべながら怒る詠がいた。

「…………ごめんなさい……ただいま」


少しばかり、彼女のお説教を受けた詩朗は食卓へついていた。

山盛りのそうめんをすすりながら今までの事を振り返る。

今こうして普通に食事をしているのが不思議に感じる。

ほんの数時間前には血まみれになりながら、傷だらけになりながら

命のやり取りをしていたからだ。


「それにしても……」詩朗が咀嚼しながらぼんやりと考える。

痛みや傷を恐れないあの感覚、自分があきらかに別のモノに置き換わっているような

そんな感じがしたのはやはり、魔刃の力なのだろうか。


「復讐、か……誰かを恨むことができたのなら自分も今より少し……」


食事を済ました詩朗は自室で携帯電話を眺めていた。

画面に送信という文字が表示されるとすぐ、電話の着信音が鳴る。

話すほどでもないから文面で無事を告げたのだが……

「もしもし……」

「家に来なさい、場所は前に教えたわよね」

「…………」

その一言だけで会話は終了した。


「……だよな……」

詩朗はすぐさま玄関の靴に足を入れた。




「あの~」

インターフォン越しで夕河に話しかけると彼女の家の

ドアがガチャガチャ音を立て始める。

一体いくつ鍵をかけているのだろうか、しばらくまってやっと開いた。

「今日は父も母も帰ってこないの」

「……夕河さん、夕河さん、お前さんさぁ……」

「家には私一人なの……」

わざとらしくもじもじしている。

「ご飯用意されてなくて、お腹が空いたの……」

「恥ずかしいな」


ひきこもり生活を続け、都市伝説調査や最低限の登校日数稼ぎで外に出るのに

何故だか自分の昼飯を買いに行かないのだ。

「と、いうことで」

「行かないぞ、俺は」

玄関先で言い合いになっているうちに近所の人たちの視線が集まってくる。

夕河のわがままではなく周囲に負けた詩朗は徒歩5分で行けるコンビニで激辛ラーメンを購入した。

食べ物なら何でも良いというのでわざと選んだのだ。

もちろん飲み物は買わずに店を出た。


「お帰り、ようこそ」

「ただいま、どうも」

家の中に入れてもらった詩朗は袋を夕河に押し付ける。

「おお、これ私が好きなやつじゃないか」

「……ちっ」

「何故舌打ちしたのかね?」

次があったら逆に甘すぎるものにしよう、と考えて舌打ちしたのだ。

激辛ラーメンにお湯を注ぎに、台所のポットのある方へ向かった夕河は

詩朗に自分の部屋に行くように指示した。

部屋の場所を知らされた詩朗は階段を上り、奥の部屋を覗く。


「うぇ……」

女子の部屋、などではないこれは。

掃除好きでもなんでもない詩朗の部屋でもここまでひどくない。

「私、両親の前では家庭的な娘で通ってるのよね」

「通ってないだろ、これ」

今日、食事を用意されてなかったのは、自分で作って食べると言ったからそうだ。

彼女が料理できるかどうかは、この部屋を見ればわかると思うのだが……


「お前、親と仲悪いんじゃあないのか?」

「そなことはあるものか」

ラーメン片手に足場のない部屋に入っていく。

パソコンのライトのみの暗い部屋を迷うことなく進んでいく。

足元にものだらけだが、丁度歩けそうな場所を進んでいる。

モノの間を歩いているというより足跡のようにできた彼女専用の道だ。


「よっこらせ、っと」

モニターの前にラーメンを置いてイスの上に座る。

出入口の前で立っている詩朗に入るように言い、自分のベッドの上に座らせようとする。

他に座れる場所はないからだ。

床に転がっている紙だとか置物だとかをどかせば座れそうだが、夕河はそれを認めなかった。

どうやらこの汚い部屋は、彼女なりに配置された部屋だそうだ。


「じゃあ、しつれいして……」

踏むなと命じられた詩朗はできるだけ努力するが、何度か足元のよくわからない物を踏んでいた。

つま先立ちで歩いていて、バランスを崩した詩朗は勢いよくベッドの上に飛び込む。

「女子の部屋でテンション上がるのはわかるが、ダイブはよしたまえ」

「上がるかッ!こんな汚い部屋で!!」





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