119/ローグ
とあるオカルトサイトを運営する男が一人、界隈を賑わす例の街にやってきた。
そして、彼は噂のかつて秘密の組織が存在したという崩壊した地下通路を発見し、その場を探索していた。
そこには無数の刃、赤い鉱石、まさに奇妙な光景だった。
それらを写真に収め、満足した男は、帰ろうとしたが、薄暗い地下で足で何かを蹴飛ばしてしまう。
「なんだ……?」
手に持ち、近くで灯りを当てて見ると、それは奇妙な仮面であった。
噂の街で、噂の仮面。
「これは……持って帰って、じっくりと……そうすれば最近できたあのサイトにだって負けない……」
「……待て」
「ッ!?誰だ!?」
後方で別の男の声がした。
それは年老いた男の声だ。
だが、振り向いた先には誰もいない。
「なんだったんだ……? あっ!?」
男が驚いたのは、振り向くまでその手に持っていた仮面がいつのまにかどこかに失われたことだった。
周囲を探しても、見つからない。
落したわけではない。
おそらく先ほどの謎の声の人物に奪われたのだろう。
「くそッ!!くそぉおおおおお!!」
男の声が、薄暗い地下で響く。
彼の怒りの叫びにかき消された足音。
彼から仮面を奪い去った老人は、地上へ出ると、手に持っている奪い取った仮面とは別の、どこから取り出したのか、またもや奇妙な仮面を被る。
すると、その場にいたはずの老人は姿を消し、近くのビルの屋上へとその身を瞬時に移動させた。
「……傍観者だったかのう?権限付与、魔刃の王。少し感想でも聞いてみるか」
「……あれぇ?私は……どうして?」
ただの仮面と化したはずの傍観者の魔刃が、自我を取り戻す。
そして見慣れぬ老人の手に抱えられていることに気づく。
だが、彼女はその老人を襲おうとは思わなかった。
正確には、その老人からはただならぬ、通常の人間とはことなる異質な雰囲気を感じ取ったからである。
「あなたは……だぁれ?」
「ふむ、そうか、はじめましてになるのか。おぬしたちを作り出した王、支配者の魔刃、及び魔刃という存在そのものを作り出した者……
いかんな、混乱させてしまうだけじゃ、わしのことはおぬしの祖父とか先祖とでも、あるいは神や創造主でもなんでもいい、とにかく偉いじゃと認識すればよい」
そう語る老人であるが、神だとか創造主というにはあまりにも小汚い姿をしている。
「……まぁ、いいわ。私はどうして生きているのかしら?」
「おぬしは傍観者じゃっただろう?だからのう、一連の、王と救世主それから現代までの流れを見て感想を聞いてみたいとわざわざ蘇らせたのじゃ」
「それじゃあ、答えたらもう用なしで廃棄されるのかしらぁ?」
「おぬしが生き延びたいというなら、方法は考える。まぁ『魔刃』というものは失敗じゃったからの、改造……生まれ変わってもらうがのう」
「……いいわ、話す。といっても、私の主観だけど」
「それでいい、ワシではない、舞踏会を間近で見ていたおぬしの言葉を聞きたい」
そう注文を承った傍観者は、長くならないように一言でまとめることにした。
「結局、私たちも、人間もあまり変わらない存在だったわね。力があるか、無いか……まぁそれすらも、人間は技術で力を得ようとしていたのだけど」
「ふむ、そうじゃな。やはり失敗じゃったよ、おぬしらは」
「……なんだかぁ、失敗作扱いは不快なのだけどぉ?」
「ほほほっ、まぁ怒るな、間接的とはいえ創造主じゃ、残ったのはオマエと『アレ』じゃが、あっちはあの小娘にくれてやろう。
オマエも、もう少しだけ眠れ、次に目を覚ますときは、きっと今よりも完成された存在になっておろうよ」
王の力、削除。
そう呟くと再び、命が宿っていた仮面から意識がなくなっていく。
そのわずかの間に傍観者は不敵に笑う。
「また、面白いモノを見させてね、おじいちゃん」




