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マスカブレード  作者: 黒野健一
第七章 終幕/仮面/舞踏会
114/120

114復讐者へ

 イエローチャイム本社から走り、数分。

その間、対魔刃部隊拠点から逃げ出したと思われる魔刃達が人間の身体を奪い、己の欲望のまま暴れていたり、王に忠誠を誓う者と人間との共存を求める者の争いが繰り広げられていた。

復讐者の魔刃は、視界に入った魔刃達は皆、無差別に、例外なく、仮面を砕き、その刃片を喰らい、己の力へと変換させた。

これはイエローチャイム社から対魔刃部隊拠点までのわずか数分間の出来事である。


 拠点に行くと、案の定荒れ果てていた。

地下に降りるにはエレベーターでは行けず、階段、もしくは床を破壊するしかなかった。

下って行った先にあったのは、いつか天野からSaverシステムと両親のことについて話を聞いた彼の研究室についた。

そして、その研究室の戸棚の一つの裏には下り階段が暗闇に続いていた。

この下に、強い復讐心を感じた復讐者の魔刃は階段を下りていく。


 階段を下りた先には赤い鉱石が電灯代わりに発光している不思議な空間が広がっていた。

先に進むと、巨大な、およそ人間が使うようなものではない、まるで巨人用の大剣が存在していた。

そしてその大剣の柄の部分には、先ほどまでの道に転がっていた赤く光る鉱石を加工して作られた結晶の中に、閉じ込められた少女の姿。

ここに案内してくれた、心の奥底に強い復讐心を隠し持つ彼女、赤木霧香だ。


その巨大な剣の刃には何やらコードが突き刺さり、そのコードの元をたどると、またもや見慣れた物体があった。


「Saverシステム?」

「いいえ、もはやそれはSaverシステムではありませんよ」


声のした方向の闇から現れたのは誰でもない、天野博士。

そしてその後ろには完全に修復された解放の魔刃の仮面を被った黒藤の姿が。


「これはOverloadシステム……救世主のための者ではなく、王の力を取り出すための装置です」

「天野博士、あなたはいったい何を……それに黒藤、おまえも!!」


黒藤……という言葉に、すこし遅れて反応して、仮面の少女は声を発した。


「解放の魔刃の記憶、復活した人格汚染能力。それらも要因の一つでしょうけれど、私は彼らのなすことを肯定するわ」

「……オマエは、俺の敵でいいのだな?」

「えぇ、現にそこの少女、強大な刃覚者としての能力を持つ彼女を連れてきたのは解放の魔刃ではなく、私の意思」


黒藤はそれを伝えると、声色が変わる。

ここから話すのは被っている仮面、解放の魔刃の声だ。


「こうして話すのは久しいな、人よ」

「かつての救世主さまと、人々を守る組織の研究員が、少女さらってこんな地下深くでなにやってるんだ?」


復讐者の質問には天野が答える。


「我々は王の復活を阻止、もしくは復活した際対峙できる力を求めて戦ってきました。だが、魔刃と戦えば戦うほど王の目覚めは早まっていく……」


質問に答えながら、彼は懐から目を疑うようなモノを取り出す。

黒と金、どこか神々しくそれでいて禍々しい。

一瞬でそれが何なのか、復讐者は理解した。


「王の仮面……?」

「正しくは支配者の魔刃の仮面です。王は今はまだ眠ったままでありますが、彼を発掘した際に、私にあるイメージを見せました。そしてそれは、私が思い描いた理想の世界でもありました」

「……発掘だと?お前は、すでに王の、支配者の魔刃をッ!元凶をその手に掴んでいたのか!?いつからだッ!!」

「そうですね……君のご両親が亡くなる直前だったでしょうか……」


天野は何年も昔から、組織を欺いてきた。

王が見せた、理想の世界の実現のために。


「んで、救世主様はなんで博士の手助けをしている?」

「私は彼の手伝いではない、支配者と、かつて対峙した際にお互い理解しあった彼の理想を共に叶えるために行動しているだけだ」

「目的は同じかよ……」

「もっとも、王の配下である、魔刃達は彼の真意を知らずに人間を支配することが王の理想だと思い込んでいたようだが……」


用は王も、救世主も、天野博士も、皆をだましていたのだ。

何も知らない対魔刃部隊と、王の配下が争う中、彼らだけで別の思惑で事が進んでいたということ。


「……その王の本当の理想、私達にも聞く権利があるでしょうねぇ?」

「王の配下、か」


復讐者はここに来てから、まっすぐここに来るもう一つの復讐心の塊を感知していた。

だが、ここに現れたの二人の魔刃。

一人は露出の高い派手な姿の女、もう一人は無表情ながらも、心に今にも爆発しそうな復讐心を抱く少女。

彼が完治していたのは、後者の少女の姿をした魔刃だろう。


「当然、君たちにはいろいろと協力してもらいましたからね……」

「人間の、裏切り者……」


少女が天野博士をにらんでいる。

対魔刃部隊の知らない間に、天野と魔刃の配下たちはつながっていたのだろう。

裏切りに重ねた裏切り行為。

そこまでして叶えたい、天野がみた理想の世界とは?

解放の魔刃が、今はまだ眠りについたままの王に代わって答える。


「完成された世界、それが私と王が対峙した際に見出したこの世界のあるべき姿だ」

「何……?」

「理解しにくいかね?私、解放の魔刃と、王、つまりは支配者の魔刃。相反する存在が刃を交えた際に視えたのだ、この世界のあるべき姿を」


解放の魔刃がいうには、自分と対になる存在、それと一つになることでこの世の者は完成していくという。

+には-を、凸には凹を、全て例外なく当てはめていくことで、すべてを内包した世界が完成する。


その話を聞いた露出の高い女、傍観者の魔刃はため息をつく。

まさか自分の主がそんなバカげた理想を掲げていたなどと。


「すべてを内包した世界なんて存在できないに決まってるわ、それはただ矛盾まみれの世界になるだけよ」

「果たしてそうだろうかな?確かに、共存することが不可能な概念はあるだろう。だがそんなものは小さな問題でしかない。全てが存在するのなら

 矛盾を解決する存在すらもあるのだから」


「狂ってるわ、王様も、救世主様も……」

「まさかお前たちと同じ感想を抱く日が来るとはな」


復讐者の魔刃が彼女にそう呟いたが、彼女は皮肉たっぷりにこう返す。


「あなただってもはや私たち側の存在じゃない?もうあなたは人間ではないでしょうに」


復讐者の魔刃。

月村詩朗という少年が死に、彼が生まれた。

いくつもの魔刃達を喰らい、復讐心を抽出して存在している怪物。


「まぁ……だが、お前ら二人とは俺の目的は違うと思うが?」

「私たちの目的?」

「王を喰らい、王の力である魔刃の生存能力を引き継ぐ。お前たち二人のどちらかが、およそそんなところだろ?」

「じゃあ、あなたの目的はなんなのかしら?」


復讐者の魔刃。

怪物と化した彼の目的、ここに来た理由。


「笑顔のため、そのためなら、ここで王の仮面を破壊して、自分も消えてもいい」

「あら、そう……じゃあ、『とっておき』は彼には伝えないほうがいいかしらね?」


何か引っかかる言葉だ。

その意味深な言葉を発した彼女は、天野博士の方にその仮面の顔を向ける。

無機質な眼が博士を見つめる。


「何のことだ……?」

「私の傍観者の性質上、戦いの力はここでは最も劣るのでしょうから、あの二人を倒すには戦力として利用する、にはいいのかもしれなけれど……」


もったいぶるな、そう怒りをぶつけそうになった復讐者を、天野の一言が遮る。


「話せばいいではないですか」

「あらいいのかしら?彼の復讐の力と、この状況下だとあなたが不利になると思うのだけど」

「あなたこそ、彼の暴走を危惧して、王の破壊を恐れているからためらっているのでしょう?ご心配なく、我々は完全なる者へと至るため、その程度の障害なんのこともありません」


復讐者の魔刃を置いて、二人で会話を進める。


「……だから何のことを……!!」


詩朗が傍観者に向けて苛立ちを含めた言葉を発したと同時に、彼女は後方にいた、糸の魔刃に戦闘開始の合図を送る。

すさまじい速度で天野の方へ向かう糸の魔刃と、それを食い止める解放の魔刃。


その二人の攻防、刃がぶつかり合う音が響く中で、復讐者の魔刃は、月村詩朗は、彼にとってもっとも知ることのなかったさらなる真実を伝えられる。


「あなたのご両親、事故で死んだことになってるけど、本当は、あの男、天野正次が殺したのよ」

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