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マスカブレード  作者: 黒野健一
第一章 詩朗/魔刃との遭遇
11/120

11切裂

「……これでいいか?」

「ガキとかジジィとか、言葉遣いをだな……」

言い方にいろいろと文句を言いたいがそれを許すほど敵は甘くなかった。

仮面の女……いや、もう完全に女の体を乗っ取った癒しの魔刃が乱入者を睨む。


「あなたたちぃあたしのジャマ、しないでくでるぅ?」

「ハッ、悪いがお前の能力は便利だからなァ、俺の糧になれ」


先に動いたのは詩朗だ。拳を相手の腹部に叩きつける。

結果は昨日と同じく、相手にダメージはほとんどなく自分の拳が裂ける。

詩朗は覚悟していたが痛みで少し顔を歪める。距離を一度取ると復讐の魔刃が語りかける。

「魔刃は宿主と適合すればするほど強くなる、お前じゃ相手を殴っても逆に傷つく……だが」

だが、それこそが狙いなのだ。


傷を負う、そしてその傷口から刃が生み出される。

他者を斬る前から血に濡れたそれは傷が深いほど強くなる。

自身の体を奪った王へ誓った復讐心の具現化、反逆のための刃。


「斬れ、躊躇なく斬れよ!」

「……ああ」

昨日は必死だったから詩朗はそれを行うまでためらいは無かった。

だが一晩ベッドの上で敵を倒すことを考えて、冷静になっていた彼はもう一度覚悟しなければならない。

人の形をしたモノを斬る。

昨日の首を落とす感触はまだ腕に残っている。

骨を断ち、肉が刃でつぶれるあの感触だ。


「魔刃に乗っ取られた、殺さなければ他の人間が大勢死ぬことになる……」

誰かの笑顔が奪われる。

「やる、俺はやるッ!!」

「……フンッ!」

拳から生えた小さな刃を敵に向け構える。

店の中央にいる魔刃は巨大な刃でそれに応じる。


刃の大きさが違いすぎる、それは引き出される魔刃の力が違う事を表している。

二つの刃が衝突するたびに小さな刃は折れる。

そして傷は広がり、そのたびに少し長くなった刃が生える。


何度目かの衝突、癒しの魔刃が刃を押し返される感触を覚える。

それは詩朗の刃が巨大な刃と同等の耐久力を持つほど成長したことを意味する。

もちろん彼の拳はその代償としてボロボロだ。

指がぶらさがっている状態でかろうじてくっついている。

手首から上で皮膚が残っている部分の方が少なく、血と肉の色で真っ赤である。

刃を振るい、空気に手の肉をぶつけるたびに自身の手の状態を詩朗に思い出させる。


「これなら……ッア!!」

癒しの魔刃に飛びつき、その胸に刃を突き刺しながら壁の方へと進む。

「グッ……ウゥウウ!!」

仮面から漏れる女のうめき声、そして昨日と同じく反撃のために重い刃と一体化した片腕を振り上げる。

「それも……予想済みだ……」

「ヤレェ!!今だァ!」

「……くっ、そぉおおおお!!」

刃を女に突き刺したまま、刃はそのままで手に力をかけて振り抜く。


中指が吹き飛んだ。血が店の白色の天井に赤い染みを作る。

痛いだけでなく、全身に冷たい水を注入されたかのような感覚が襲う。

思わず片目をつぶり、歯を食いしばる。

足が震えるが無理やり動かすしかなかった。

そうでなければ巨大な刃が詩朗を襲う。


傷口はすぐに新たな刃で塞がる。

突き刺さったモノより鋭く、それは床に転げ落ちた中指の部分も刃の一部となる。

痛みで叫びながらのたうち回るのは後にしなければならない。

すぐに詩朗は新たに生やした刃で次は頭を狙う。

女を支配する仮面ごと貫こうとしているのだ。


だが意外なことが次に起きた。


「ダァアアアアアアッ!!」

詩朗の体が一瞬止まるほどの叫び声。

癒しの魔刃は振り上げた腕で、今は自分のモノになった女の肉体を真っ二つに裂いたのだ。

刺さった刃より高い位置にあった女の上半身はまな板の上の野菜のように下半身と分断された。

そして勢いのまま壁に刃が食い込むと、腕が一体化しているためぶら下がる。


壁に刺さった腕の刃を支えに、もう片方の腕の先の鋭い爪を壁に叩きつけた。

ドンッ、と店全体が震えると女の上半身が床へと落ちる。


「壁が……崩れた」

そしてすぐに女の上半身はあるべき場所に戻る。

癒しの魔刃、その名の通り傷を修復する。

壁が崩れた時に壁から刃が抜け、自由に動けるようになっていた。

自分の肉体からもそれを抜こうと手をかけようとした時、魔刃は前方から近づくもの注意がそれる。

身をそらせなければ首を刈り取られたかもしれない。


「くっ……」

詩朗が振るった刃は皮膚にも触れることなく空を斬っただけだった。

仮面の女は痛みで震える彼の足を確認すると動くのに邪魔な片腕の刃を、もう片方の爪でもぐ。

もいだ腕の部分を持ち手にするとそれを全力で詩朗めがけて投げる。


「避けろォ!」

「ああッ!!」

避けるという表現はすこし見栄を張っている。

それは足の力が完全に抜け、その場に倒れるとういうようのが正しい。

彼の上を通り過ぎた刃は奥の壁に大きな傷を作り、刺さった。


「さいしょからぁこうすればよかったわぁ……」

巨大な刃を失くした魔刃は足で壁を蹴ると崩れた壁の穴が広げ、そこから外に出る。


「くっ……そォ!!」

「おいッ!!逃がすなァ!!」

震えた足でなんとか立つが、女の軽くなった足に追いつくことはできなかった。





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