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マスカブレード  作者: 黒野健一
第六章 裏/霧
107/120

107解き放たれた意思

 対魔刃部隊の拠点から抜け出し、その足で駆け抜ける黒藤。

片手にはかつて魔刃の王と戦い共に眠りについた、人類の救世主である『解放』の魔刃の仮面と、その『破損した箇所とぴったり合う仮面の破片』がもう片方の手に。

彼女の両手はそれでふさがり、魔刃と戦うための武器、『saverシステム』は持ち歩いていない。


救世主、解放の魔刃の能力により古代の戦いの記憶を継承しつつあった彼女。

『真実』と『計画』を知った彼女だが、解放の魔刃の体験したそれは、彼女自身が心の底から共感するものへと変貌していた。

……いや、正しくはそうさせられているのだ。

彼女自身、自分がこれから何をしようとしているのか、その『悪性』を理解しつつも、この手の中の仮面の体験が、彼女の意思を歪めている。


「これが、破損部分です」


彼女が対魔刃部隊に入ったある夜のころ、研究員の真木が渡してきたのが、かつて魔刃の王との闘いで失われた仮面の部位であった。

不完全ゆえに、蘇りつつある王の力に対抗できない。

これで人類は再び救えると、黒藤はそれを受け取るまで思っていた。


だが、違った。

破片を受け取った瞬間、いつもの頭痛が起こった。

破損により会話ができない解放の魔刃が、自分の体験を彼女に見せ、意思疎通を図ろうとするのである。

今まで見てきたのは、人類を守り、共存するために立ち上がり、王と共に倒れた記憶。

しかし、その時に見た記憶はその王との対話の記憶だった。


そして、古代ではない、現代の記憶まで彼女の脳内に入ってくる。

それは普通の少女、黒藤忍が偶然仮面を手にするまでの記憶。

修復されていく解放の魔刃と、その作業を行う見慣れた研究者の姿。


「真木……さ、ん。 解放の魔刃、あなたたちは、本気なの……?」

「……すべては今あなたが追体験した解放の魔刃の記憶の通りです」


 ……これは端的に言えば裏切り、それも人類単位のものだろう。

だけど、どうしてだろうか。

解放の魔刃の記憶を追体験したことによる洗脳だろうか。

いや、どうでもいい。


破損した下あごの部位を仮面の断片同士くっつけると、まるで傷など最初からなかったように復元される。

そして、ついに解放の魔刃自身のの声で、黒藤に意志を伝える。


「人は人であるべきだ」

「……」

「今から私たちが起こすこととは矛盾すると思うかもしれないが、私は思う。 我々『魔刃』こそが人より人らしい形であると」

「私は……」

「黒藤忍よ。 お前にもあるはずだ。 誰かが造った偽りの『ヒト』の概念に束縛された心が、望が」


黒藤は、いつの日かの教室で感じないはずの人のぬくもりを感じていた。

感じていたいと思った。


「夕河さん」

「彼女もまた、お前と同じく束縛された人であろう。 私は、私たちはそれを『解放』する」

「……だから」


黒藤が立ち止まり、仮面を被る。

彼女の正面にあるのは、最近活動を再開したばかりの喫茶店。

扉を開けると、少女が訪れた客に元気よく挨拶をしかけたところで、彼女の仮面を見て、声がでなくなっていた。


「黒藤……さん?」

「夕河暁……」


偶然だろうか、運命のいたずらだろうか。

その場に、もっともいて欲しくない人物がいた。

だが、関係ない。

目的を実行するだけだ。


「もう少し、まってて……ね?」


完全な形となった解放の魔刃の仮面を被ったその少女は、店の真ん中で固まって動けなくなっていた少女を抱え、そのまま、すさまじい勢いで姿をくらましていく。

その場に残された数人の客、彼女の祖父、そして夕河暁達は何が起きたのか理解できなかった。

だが、確実に良くないことが起きていることだけははっきりわかり、そしてこの時どうすればいいのか、その場で解決手段を見いだせたのは夕河暁ただ一人だった。


 向かう先は対魔刃部隊の拠点。

昨日から詩朗への連絡がつかないことには不審に思っていた。

メールで喫茶店バタフライで会おうと送ったが、そこに現れたの凶行にでた黒藤忍。

何が起きているのか、黒藤の行方を追うという選択肢はない。

仮に彼女に追いついたとして、無力な自分になにができるだろうか。

夕河にできるのは、対魔刃部隊にいる黄鐘や青井に知らせることだ。


「どうして……彼女を」


いつの日か、校舎の屋上で黒藤が語っていたことを思い出す。

彼女はとてつもない力をもった刃覚者であると。

魔刃との戦いが激化する現状、刃覚者の存在は一人でも多く保持したいのは対魔刃部隊の思惑なのかもしれないが、

隊長の黄鐘のことだ、まだ幼い彼女を戦場に立たせるはずはない。


「……罪滅ぼしの夏休み」


詩朗と夕河が起こした騒動へのケジメ。

戦闘能力を持たない夕河はあくまで安全圏での情報処理を任された。

詩朗は、真木から自分の両親のことを聞いて戦うことを選んだが、それは自発的なものであった。


「いや、不審ね」


いくらなんでも普通の少年を、開発したばかりのSaverシステムの実戦実験のようなことをさせるだろうか?

……なぜ今まで不審に思わなかった?

罪の償い?たしかに魔刃の存在を公にするきっかけとなった。

だが、だからと言ってその罪滅ぼしに戦闘をさせる?

一般人を?刃覚者でもない彼を?

自分のように、後方のバックアップなどならともかく、いくら彼が自分の両親の意思を継ごうと思っても、たかだか半年の訓練をした素人を戦いに駆り出す。

戦いが、魔刃の王の復活が近づき戦いが激化したから、少しでも人手が欲しいから?

だとしても、使用者は根吹のような戦闘経験豊富な一般人が適切だろう。

実際、罪滅ぼしの期間が終わった後に、破損していた仮面の力を補うため、黒藤に譲渡されていた。


「激化したから、人手が欲しいから彼にシステムを渡したんじゃない?」


むしろ逆じゃないのか?

彼がシステムを手にしてから、戦いが激化したのではないか?


今、信用できるのは対魔刃部隊だけだ。

そう思いつつも、不信感が湧いて、走る速度がだんだん落ちていく。


「私たちみんな、あの夏休み、何かの意志に導かれていた……?」


拠点への入り口がある、建物が見えてきたところで、彼女の足が完全に止まる。

その代わり、その入り口が開き、そこから現れた人物がこちらにやってくる。

彼女……青井凛子は片手に、月村詩朗が守るための力として利用していた仮面を持ちながら。

そして、彼女の背後からは、ワラワラと、蟻の大群の様に刃の足を動かし、地面を這う生きた仮面たちが街へ解き放たれる。


「青井さん……?青井さん!!黒藤さんが……」

「夕河ちゃん、これ」


彼女が差し出した復讐の魔刃の仮面。

それが青井の言葉を代弁した。


「俺を被って、こいつを殺せ」


物語の齟齬や違和感は全部仮面のせいだったのです。決して2年間ちんらたら書いてて設定忘れたり、先の展開を変えたりでわけわかんなくなってるわけではありませんよ。ホントですよ、ホントホントワタシウソツカナイ。

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