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マスカブレード  作者: 黒野健一
第六章 裏/霧
101/120

101遭遇

 月村詠をスト―キング、もとい魔刃おびき寄せ作戦はまだ続いている。

彼女の跡をつけて以来、新たな被害者は出ていない。

本来の捜査は上司に任せきりに、女の尻を追い続ける様は客観的に見てどうかと思うが……。

だが実際新たな事件が起きていないということはその成果が表れているのだろう。

そしてそれは次の標的が村上刑事である可能性を高めている。


 仮面の怪人、人間の常識外の存在。

そんなモノとの接触、果たして自分は上手くやれるだろうか。


「詠さん……」


これまでの事件はみな、ストーカー加害者と被害者が共に死亡している。

ゆえに彼女を危険に巻き込むおそれもある。

だが、彼女のそばには『彼』がいる。

もしも、自分が仮面の怪人に襲われ、彼女の命に危機が及ぶときは彼に……。


「本当に、無力だな俺は」

「刑事さん?」


 不意に声を掛けられる。

今日も古本屋で働く彼女を見張っていたはずだったが、いつのまにか店の外に

それも彼の背後に立っていた。


見逃した……?出入口は一つしかないはずだが?


「あ、また会いましたね……はは」

「そうですね、最近よく会いますよね」


彼女は近くのスーパーのレジ袋を手首にかけている。

古本屋の老婆の代わりにおつかいにでも出たのだろうか。

だが、その外へでる様子を村上は見ていない。


「では、私はこれをおば様に届けますので……刑事さんもお仕事頑張ってくださいね」

「え、ええ……」


 村上が彼女を追い回してほんの数日だがあきらかに抹消面から遭遇する回数が多い。

刑事として、尾行には慣れていると村上は思っていたが、これでは少し自信を失ってしまうだろう。

そもそも、ストーキングをしている時点で刑事失格にも思えるが……市民を守るため、怪物をおびき寄せるためなのだから大目にみてあげてほしい。

もちろん、彼自身につきまとわりたい欲望などはない。と思われる。


 正直なところ、彼には月村詠に対する異性へのあこがれの意識があるのは否定できない。

しかし、彼は自分がこの街に潜むおそろしい化け物の存在を知りつつも、それになすすべがない自分は、彼女に恋する資格はないと思っているのだ。

こうした行動を起こしているのも、少しでもあの化け物たちに抵抗しようとする、一種の悪あがきなのかもしれない。


「……醜いな、本当に」


 自己嫌悪に浸りながらも、時は進み、時刻は月村詠の仕事終了時間となる。


「今日はたしか甥の詩朗の高校では文化祭が……いや、あれは最近の騒動で中止になったのか」


どちらにせよこれから夕食の買い出しにスーパーに寄るのが日課なのは把握している。

すこし先回りをし……。


「あら、刑事さん。またお会いしましたね」

「……!!」


古本屋での仕事を終えてすぐ来たとしても村上より先に来れるはずがない。

だが村上の目の前には、買い物をすでに済まし、店から出てきた彼女がいた。

仕事がいつもより早く終わったなら、古本屋から出るところを目撃していたはずだ。


つまり、月村詠は刑事より後に古本屋からスーパーに行き、買い物を済ませていたことになる。

……奇妙だ。

あきらかにおかしい、ここ最近、後を追いかけているはずが、目の前にいることが多い。


「あの、刑事さん……最近、物騒です……よね?」

「……え、ええ」


唐突に話題を振られ、動揺する。

彼女は少し膨らみの大きい買い物袋を持ち上げて言う。


「今日はお鍋なんです。いっぱい買ったので少し食べていきませんか?」

「……」


つまりは誘っているのだ、向こうから。

村上の脳内に一つの仮説が浮かんでくる。


ここ最近の詠の挙動。

不自然なほど、先回りや直面する機会の多さ。


『後』を追いかけていたのではない。

『追跡』されていたのは……『村上』だったのでは?


だとすれば、今話している彼女は『仮面の怪物』である可能性がある。

もしもこのまま放ってしまえば、甥の詩朗が知らぬ間に魔刃に精神を侵された彼女に危害を加えられるおそれがある。

それは最悪の結末、なんとしてでも防がなければならない。


「わかりました。お邪魔していいですか?」


村上が返事すると、パッと花が咲くような笑顔を浮かべる詠。


「ありがとうございます。一人じゃ心細くて……」


その笑顔が、彼女の本心によるものなのか、刃の仮面によって造られたものなのか、それはまだ村上には判断する術がない……。

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