100百聞は一見にしかず
100話達成!!ここまで読んだあなたは相当なもの好きですね?
秋の季節にしては今日は暖かい。
お天道様がきれいな青空から街を眺めている。
『捜査』日和だ。
「今日の詠さんは……どこへ?」
『捜査』を続けているストーキング刑事、村上は今日も彼女のあとを付け回している。
いつもの仕事先ではなく、人の多い街中を歩いているため、見逃さないように必死でいる。
「剣之上の街の中心まできて何を……? うおっ!子供の群れがッ!!」
詠の背中を追う彼の目の前を二列でぞろぞろと歩く子供の集団が遮る。
この近くには、この街一番の大企業『イエローチャイム』がある。
楽器などを中心に販売している日本でも有名な企業の本社だ。
地元の子供たちはよくこのイエローチャイム社に企業見学に行く。
よりにもよって、そんな日に遭遇するとは……村上はため息をついて、踏切が開くのを待つ気分でいる。
「……あれ?刑事さん?」
「……えっ?」
意外。
自分が追いかけていたはずの彼女が、自分の背後に立っていた。
彼女はどうやら近くの服屋から出てきたようだ。
手には何着分かの膨らみの袋を手首にぶらさげている。
「あっ……今日は企業見学の日ですかね? 私も子供の頃見に行ったなぁ」
「へぇ……そそうなんですか。 わ、わたしもちょうどどど、子供たちが安全に行けるように
パトロールしてたんだすよ」
またもや咄嗟にごまかす。
今日はパトロール兼ストーカー刑事の村上だ。
「最近、物騒ですからね。 お仕事頑張ってくださいね」
「えぇ、そうですね……で、では」
そう、魔刃。
この街には奴らがいる。
子供たちの行列の背と、詠の背を見て決意を固める。
自分は無力だとしても、自分にできることを。
「それにしても……」
意外。
彼女は普段、よく言えば清楚、悪く言えば地味。
そんな雰囲気の彼女には似合わないような、少し派手気味な服が販売している店から出てきた。
彼女もそんな服を着るのか。
「ふむ……俺もまだまだ彼女のことを何も知らないな」
不意に夏の一瞬を思い出す。
彼女の白いハンカチ。
自分が汚してしまったあのハンカチ。
彼女の心を形にしたようなあれからは彼女があの店の服を着ている姿を想像できない。
「人ととは、一面ではないということか」
「さぁ着きましたよ」
子供たちの行列の戦闘に立つ大人、引率の教師だろう。
彼が手を叩くと、騒がしくしていた児童たちが徐々に静かになっていく。
皆が教師の方へ視線を集める。
「これからこちらのイエローチャイム社の見学をさせていただきます。皆さんお仕事の邪魔をしないように静かに見て回りましょう」
「あぁ、どうも。私はこの会社で働く山本と申します。今日は一日よろしくお願いしますね皆さん」
一同は企業が用意した子供向けの、事業紹介プロモーションビデオを眺めていた。
イエローチャイム社といえば、この剣之上の自慢ともいえる大企業だ。
戦前は軍事開発に関わり、戦後は楽器を中心とした音楽業界を世界的に担うようになった。
「それでみなさん。お昼の休憩の後はイエローチャイムで作っている珍しい楽器の演奏を楽しんでもらおうと思っています」
山本という社員がビデオの終わった後にすぐ、事務的に淡々と話す。
なんとなく、子供が好きというわけではないことがわかる態度だ。
「はぁ~退屈だったなぁ~」
「……」
「ねぇ、赤木さんもそう思わない?」
「えっ?」
転校してから友人ができなかった彼女は不意に話しかけられたため、うまく返事ができずとにかくうなずいてみた。
話しかけてきたのはクラスでは大人しめだが、割とみんなと打ち解けている男の子だ。
「だよね~あっ、でも午後の演奏は面白そうだよ」
「なんの楽器……なのかな?」
会話を続けようと、霧香は必死に話題をひねり出す。
すると彼はニヤリといたずらな笑顔を浮かべ、その口角の上がった口先に指を差し出し言う。
「それは、午後までのお楽しみ」
「えっと……」
「僕は、六月香。香って同じだよね?」
「ごめんなさい。名前を忘れてしまってて……」
「まだ転校してきて1,2ヵ月でしょ。無理ないよ」
どことなく、他のクラスメイトより大人っぽい印象を霧香に与える。
「六月くんは知ってるの?」
「うん。結構音楽が好きでね、ここの珍しい楽器といえばたぶんあれだろうね」
六月は何やら弦楽器を引くような真似をしている。
チェロ……、バイオリンだろうか?
だがそれは珍しいというような楽器でもない。
「うーんなんだろう」
「ふふ、実は僕もそれを演奏したことがあるんだ」
きっと驚くと思うよ。
そう言うと、他のクラスメイトの集団に六月が呼ばれる。
お昼ご飯を一緒に食べようと誘われているのだろう。
「あっ、じゃあ……」
「赤木さんも行こうよ」
六月は赤木の手を取り、集団の中へいれる。
彼女は転校してから初めて、にぎやかな昼食を楽しんだのであった。