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マスカブレード  作者: 黒野健一
第一章 詩朗/魔刃との遭遇
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1少年の休日

6話まで日常パートです。

戦闘シーンは流血シーンが多いのでご注意ください。


「ありがとうございました!」


夕暮れの喫茶店、今日は日曜で客がよく訪れていた。

一人、一人と客の数が減っていき、店内に静かに流れるBGMがはっきり聞こえるようになった。

テーブルの上のケーキの皿とコーヒーカップを回収し、また一人帰る客を見送る。


「月村くん!ありがとう、悪いね休日に」

「いえいえ」

店の奥から白髪の紳士が出てきて声をかけた。

この店の店長の彼は今日、病欠で休んだアルバイトの代わりをしてくれた詩朗に、しわだらけの顔を

さらにしわくちゃにして礼を言う。

「そうだ、これアルバイト代と今日のお礼」

今日一日の賃金とべつに授かったのは、この店の名物である店長手作りプリン。

「ああ!詠さんが食べたがってたんですよ!」

「うれしいね……二つあるから二人で食べておくれ」


持ち帰り用の箱にいれてもらった詩朗は大事に家に向かう道を歩く。

ちょうどいい具合に冷えた店内とは違いじめじめとした熱を感じる。

7月の最後の日曜日、あと数日で夏休みという時期だ。

詩朗の通う高校はもう午前授業だけなのでとても気が楽である。

午後が自由に過ごせるので、今日のように休日をアルバイトでつぶしても気にならなかった。

夏休みの予定も決まっておらず、暇を持て余していた彼にはちょうど良かっただろう。

「店長の笑顔も見れたし、詠さんもきっと喜んでくれるし」

そういう詩朗も店長のプリンは好きであった。


早く帰ろう、きっと詠さんが夕食を用意してるはずだ、食後にプリンを食べよう。


すこしだけ早足になった詩朗であったが家の近所にある公園の前で足が止まる。

夏の夕日は沈むのが遅くまだ明るいが、子供たちはの多くは今の詩朗のように夕飯を楽しみに家に帰っていた。

だがその寂しい雰囲気の公園で独りでブランコに腰を掛けうつむいている少女がいた。


……一人だと危なくないかな?でもこの辺は人通りは多いし大丈夫か……


そう思い、再び自宅に向かう足を動かそうとした。

だが、彼は気づいてしまった。

長い髪が彼女の顔を隠してはっきりとした表情はわからなかったが、彼女の小さな。

小さな涙で震える声を。


「……っ…………う……」

「……大丈夫……?」

彼女の前でしゃがみ、同じ高さの目線で声をかける。

昔、中学ぐらいの家庭科の授業で小さな子に話しかけるときは恐がらせないようにこうした方がいいと教わったことを思い出いした。


「え……えと、ごめんなさい……っひ……ぐ」

「ああ、ごめん恐がらせちゃったかな」

「……いぇ、そんな……ことないです……」

彼女は詩朗と話し始めてから必死に涙をこらえようとしている。

なにがあったか、詩朗にはわからなかったが無理に抑え込ませるぐらいなら声をかけずに

涙を流しきらせてあげた方がよかったかもしれないと、少し後悔する。

「余計なおせっかいだったかな……ごめん」

「いえ、わたしがこんなところでめそめそしてるのがいけないんです……」

ブランコから立ち上がると少女は詩朗に頭を深く下げて言う。

「ブランコ……どうぞ!!」

「……いや、ブランコに乗りたくて声をかけたわけではない」


詩朗は彼女が泣いていた理由が気になったが、彼の経験上こういうときに理由は無理に聞くものじゃないと想いながらゆっくり立ち上がる。

「何か悲しいことがあったときは甘いもの食べるんだ、いつも」

彼は持ってた箱からプリンを一つ取り出し、プラスチックのスプーンと一緒にブランコの上に置く。

「あっ……駄目だよお兄さん、私は大丈夫だから……」

長く伸びた前髪の間から詩朗を見上げて言う。

「大丈夫、二つあるから……じゃあ」

「……あ、あの!……ありがとうございます!!」

また深く頭を下げた少女を背に彼は公園から出ていく。

少女が頭をあげる。

すこし気持ちが落ち着いた彼女はせっかくだからもらったプリンを食べようとする。


「……あ、このプリン……」



「……うーん、やっぱりおせっかいだったかな……?」

彼の住んでいる家が見えてきたところでさっきの少女のことを思い浮かべている。

「プリンも……喜んでくれるといいんだけど」

彼はよく、自分の性格が他人のおせっかいになることを自覚している。

それでも彼は自分勝手ながら見たいものがある。

「……あの子が少しでも笑顔になってくれるといいんだけどな……」


ああ、でもあの子がもし卵とかダメだったり嫌いだったらどうしよう。


「ああ……やっぱ……いやでも……」

「なにぶつぶつ言ってるの?」

後から聞きなれた女性の声が聞こえ、驚く。

「あ、詠さん」

買い物袋をさげている女性は彼の唯一の家族で、詠という。

「晩御飯の準備はできてるわ……早く家に入りましょう?」

「え?……あっ」

いつのまにか家の目の前まで来ていた。


「そうだ、これ店長に貰ったんだ、詠さんが食べたがってたプリン」

「あら……うれしいわ、デザートにしましょう……でも一つしかないわね」

詩朗は眉間に手を当てる。

「自分のぶんもあったんだけど……我慢できなくて公園で食べてきた」

「……ふぅん、そうなの……今日はそうめんよ」

「あ、やった俺そうめん大好き!」

「……さすがに3日連続そうめんは飽きるとおもったけど……」

詩朗は何かを誇った顔になると、両手を腰に当て宣言する。

「夏はそうめんさえあれば生きていけますよ!」

「あ、あはは、あたしも好きだし、楽でいいんだけどね……そうめん」

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