契約ミスったー!!
どうも
「人族に勇者を召喚されたのならばこちらも召喚して契約すれば良いと考えるとは……流石魔王様、我々では到底思いつかない智謀ですぞ」
荒々しい模様の空に荒れ果てた大地。そこに聳える大きな城。その城の中で多くの僕を従える魔王と、その部下が話していた。
「フハハハハ!! そうだろうそうだろう。我ながらあっぱれであったぞ、フハハハハ!!!」
部下に褒められて気分良くなっている男。そう、彼が魔王だ。魔族の王である彼は人類と敵対している。その目的は、世界を我が物にするというものだ。うむ、実に分かりやすい。
「ふむ、それではそろそろ行うとするか。今に見ておれ勇者よ。とんでもない者を召喚してやるからな。覚悟しろ!!」
そういうが否や、魔王は魔法陣に魔力を注ぎ始めた……人族が行なっていた時よりもかなり多めに。
「アイツらは魔力が少ねぇからな! 魔法陣にも対して魔力を注ぎやがらねぇ!! だったら我が大量に注ぎ込んでやろうぞ! そして世界を滅ぼせるぐらいの化け物を呼んでやろう! フハハハハ!!」
魔王は知らなかった。人族はわざと魔力を注ぐ量を調節していたという事を。規定の量を圧倒的に変えてしまった為に、もはやナニがやってくるかすら分からないという事を。
故に現れた。だから呼ばれた。来た。来てしまった。それは確かに応じたのだ…
「皆様、初めまして。私はマナー講師をしている者です。以後お見知り置きを」
魔法陣から現れたのは、メガネを掛けてスーツを着ている細身の男だった。彼は突然召喚されたことに取り乱すこともなく、平然とそこに立っていた。
「なんだ、とんでもなく弱そうなのが来ちまったな……まぁ、仕方ねぇ。人族みたいだし一度ブチ殺してもう一回召喚してみるか」
「その通りですね、魔王様。次こそはきっと強そうなのが来ますよ! ……ほら、お前達!とっととそいつを始末しなさい!」
その言葉に従い、魔族の兵達はマナー講師を殺そうと近づいてくる。
「グヘヘ、運が無かった自分を責めるんだな」
その言葉と表情には甚振りたいという苛虐的な気持ちが抑えきれていなかった。ああ、哀れなるマナー講師はここで無残にも殺されてしまうのだろうか……?
――否!!
「ふむ、自分で呼び出しておきつつも放置どころか殺そうとするのですか。これは……大きなマナー違反ですねぇ!!!」
そういうが否や、マナー講師は姿を消した。いや、その表現は正確ではない。本当の答えは魔王が知っている。
「コイツ、とんでもない速度で移動してやがる!?」
そう、マナーの力を足に込めたマナー講師は韋駄天のような速さで走ることができるのだ。では、そのマナーの力を腕に込めればどうなるのだろうか。
「な、なんじゃこりゃあ!?」
なんとマナー講師に投げられ、魔族一人一人がゴミのように宙を舞うのだ。これには魔王も慌てふためくことしかできない。
そもそも、本来魔族とは人族が太刀打ちできる者ではないのだ。圧倒的力。その凶悪なまでの闘争心。腕が千切れた程度では簡単に再生してくるほどのとんでもない生命力。
それらは人族にはどうすることもできない。だからこそ人族は勇者を召喚するのだ。その前提が……今、狂う!!
「魔王様、ちょっと煩いですよ! 少し黙ってください!」
その魔族の最高峰である魔王が赤子を捻る様にねじ伏せられた。しかも、少しの間話せなくなるオマケ付きである。
もはやマナーとは一体なんなのだろうか。理解に苦しむ。
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数分後。マナー講師の前には魔王を含めた魔族達が全員地に伏していた。マナー講師が彼らに語りかける。
「さて、皆様。拳で殴り合った後は仲直りするのがマナーです。ですので、貴方達の契約に応えましょう」
は? と城の中の意見が一致した事だろう。なにしろマナー講師が召喚されてから契約の話なんて一度もしていないのだ。どうして知っているのか。それを一人の魔族が尋ねると、マナー講師はこう応えた。
「ふむ、分からない事はきちんと質問して理解しようとするのがマナーです。貴方はよく分かっていますね……それで質問に答えるのならですが、『この世界に来た時に学習しましたので』としか言えませんね。」
もう何も言うまい。魔族も皆突っ込むことを諦めたらしい。
「ですから、滅ぼしましょう。この世界を。全てはマナーの導きのもとに…」
魔王様ももう疲れてしまったらしい。召喚する前の元気はどこかへ消えてしまった。
「ああ、もう勇者とかを倒してくれるのならそれでいいや……ってちょっと待て!? どうして滅ぼす事になっている!? 我は世界を征服したいだけだぞ! おい、聞いてるか!! おーい!!!」
魔王様の受難は続く。頑張れ魔王様!! 負けるな魔王様!
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