1
俺は...あれだ。前世の俺としての記憶はもう殆ど残っちゃあいない。
今は、シンという名前だ。
新しい父さん下で仕事をして、結構不自由なく生活してる。
......ま。父さんは魔王なんだけどね。
俺は人間。だけど、魔物ばっかりの国で生きてるのは、魔王の性格のおかげ。
当時、俺は赤ん坊で、山に捨てられてたらしい。親も誰か分かってるらしい。会ってはないけど。
で、そこは魔王の散歩コースだったらしく、俺は拾われた。
魔王は、人間の国を占領しようだとか、滅ぼそうだとか。ましてや、世界征服なんて、微塵も考えてない、ただ、平和に暮らしたいだけの優しい魔王だったんだ。
まぁ。ある程度育てて貰ったら、身を守る為の訓練をやらされたけど。まるで鬼のようだった。....魔王だけど。
魔王は、人型の魔物で、人間と区別がつかない。でも、身体能力。魔力量。そして、魔術の才能は、やっぱり人間とは違う、魔物のものだった。
そして今。俺は、人間の国に潜入して、魔王についての噂を調べてる。
どうも、嫌われてないか心配らしい。
.......魔王なんだから嫌われてそうなものだけど。
まぁ、前世の考えで判断するのは良くないと、冒険者ギルドに来てはみたんだけど....................。
「魔王?そりゃあ倒すべき対象だろ?魔物を操ってんのは魔王なんだから」
「そうだよな。おっさん、ありがとうな」
.......困った。
聞く人皆これだ。どうやって父さんに言えっていうんだ。
もう戻るか......冒険者ギルドの出入口の扉汚いな。
「あの、どうかなさいましたか?」
「え?」
いくら落ち込んでるからって、俺が普通の人間の気配に気付けなかった!?魔王に鍛えられたんだぞ!一体どんなやつなんだ!
「.......あぁ」
そうか。認識阻害の魔術がかけられてるな。
というか、かけられてるのに俺に話しかけたのか。
え~と。女で多分17,8歳くらい。身長は167㎝くらいで髪は赤色寄りの茶色か?ピンク?分からないな。まぁ、長い。腰の辺りまであるんじゃないか?切ってないのか?服は薄いピンクのドレス。......ドレス?
「あなたは、かなり身分の高いお方なのでは?」
「あ...やってしまいました。つい話しかけてしまいました」
「やっぱり認識阻害をかけてたんですね。俺は何も見てませんから、早く立ち去ったら良いでしょう」
あぁ面倒臭い。
貴族の娘か何かなんだろうな~。貴族っていう時点で、前世の記憶が全力で拒否してる。前世の俺はどれだけ貴族を嫌ってたんだか。
「あ、あのっ。お名前を、教えて下さいませんか?」
.......なんだ?身元を突き止めて、お家の力で俺を消すってか?まぁ、戦いになれば俺の方が強いはずだし。そもそもここに住んでるわけじゃあないんだから問題ないか。
「シン。それが俺の名前」
「シン...様......」
......ん?何で様を付ける?癖か?まぁ、覚え方は人それぞれだしな。
「では、俺はこれで」
『待て、待つのだシン』
え?父さ......魔王様?
『どうしたんです?』
『シンよ。話は聞かせてもらった。恐らく、シンが話している娘は王族の娘だ』
王族の!?.......た、確かに、認識阻害等の魔術を常時発動させておくには、その効果を服やアクセサリーに付与しなきゃならない。それは、並大抵の魔術師じゃあ出来ない。となると、専属の魔術師がいるはず。そんなのを雇えるってことは.....成る程ね。
『シン、その娘と話して、王族は私の事をどう言っているのかを聞き出すのだ!』
まぁ、そうだろうね。やっぱり気になるんだね。
王族が、魔王を嫌ってないとなると、協定を結べるし。
「あの、シン様?少し、お話しをしませんか?」
「え?あぁ......わかりました」
『とはいっても、その娘が魔術師だった場合私の存在がバレてしまうので、一旦切るぞ』
『わかりました。魔王城へは、明日戻ります』
『よし、じゃあな』
..........切れたか。電話みたいでいいな。慣れないと難しいけど。
さて、魔王様の言ったように、魔術師である可能性もあるのか。
とは言っても、1万人に1人くらいだろ?
....................あ、俺がその1万人分の1人だ。