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蛮族の王とわたし(仮  作者: 明日葉
5/9

 次の日の昼過ぎに、王都の川のそばにある鍛冶場に二人はいた。

 背は低く、炉の火に当てられ続けた初老の男は真っ黒に焼けて、長いひげの先は焦げていた。

 男はパーンの大きな剣を片手で持ち上げて検分していた。

 「こいつはもうダメだな。いつ折れても不思議じゃない。」

 「いい剣だと聞いた。」

 「はっ!?鋳鉄を研いだだけの馬鹿でかいのが取り柄の剣だ。」

 「なんだと!?俺は騙されていたのか?」

 「まあ、奴隷に持たせるには十分なのかもな。お前、奴隷の王パーンだろう。よくこんなもんで化け物を相手に毎日戦っていたな。」

 「なんと…」

 「奴隷の王って?」

 「……」

 急にクメルから目を逸らしたパーンだったが、クメルは鍛冶屋のオヤジに問いただした。

 「こいつはな、王都の闘技場で連戦無敗の奴隷戦士だ。獣人族や獅子、熊、人が連れてこれる魔獣、たとえば大人を丸呑みできるくらいの大蛇や火吹き鳥などを相手に決して負けることなく生き延びてきたんだ。こいつが出ると面白くないというやつもいるが、俺は好きだったな。」

 「もういいだろう。それよりこの剣は直らないのか?」

 「使わんほうがいいな。お前にあう剣を見繕ってやろう。」

 鍛冶屋はパーンの剣を放り投げ、奥に引っ込んだ。


 パーンは騙されていた事実を知り、憮然として立っていた。

 「お前の短剣はどうなんだ?」

 クメルは鼻をスピスピと言わせながらクリスを抜いて見せた。

 「二度目の親猫からもらった。いい剣。」

 うねるように波打った刃は鍛冶屋に投げ捨てられた黒い鋳鉄の剣とは違い、顔が映るほど磨き上げられた銀色の美しいものだった。

 「吸い込まれるほどの美しい剣だ。どうしたんだ。」

 「むかし、黒猫族の先祖がジョイリアス王国から持ち帰ったと言われている。わたしの力でも簡単に心臓を貫ける。手入れは大変だけど。」

 「もうひとつもか?」

 クメルは頷いた。

 「チッ。」

 面白くないのか、舌打ちをしてパーンは足踏みをしながら鍛冶屋が出てくるのを待っていた。 


 しばらくして、鍛冶屋が油のしみた布で刃を覆った大きな剣を抱えてきた。

 パーンが持っていた剣よりもさらに大きく、柄の部分には握りこぶしほどの大きさの猫目石が埋まっていた。

 「こいつは宝の剣と言ってもいいぞ。」

 誇らしげに布をとると、中から刃の付け根から切っ先に向かって炎のようにたなびく波状紋の刃が現れた。


 「噂によると東にあると言われる大陸からジョイリアス王国が手に入れたと言われている。だが実際のところ、誰もわからねぇ。

 俺の親父の代に、渡り職人って言われるあちこち旅をしながら仕事をする鍛冶師が行き倒れて、それを看取った礼にもらったらしい。

 使えそうな腕のやつがいねえから、眠らせていたんだが、どうだ?」

 パーンは鍛冶屋から差し出された柄を握った。彼の大きな手にしっくりと馴染む太さであった。持ち上げると思いの外、軽い。

 「試し切りをしたい。」

 「おう。」


 鍛冶屋の店の裏庭にまわった三人は鍛冶屋の弟子が連れてきた一匹の黒い雄ヤギを目にした。

 クメルよりも大きなその黒ヤギはパーンを見るなり頭の上のネジ曲がった角を彼につきたてようとし、弟子が必死にその首輪に繋がる縄をおさえた。

 「離していいぞ。」

 パーンの一声で弟子の少年は両手を離した。押さえ込んでいた勢いで弟子の少年は尻餅をつき、黒ヤギは恐ろしい勢いでパーンに向かっていった。

 次の瞬間、どんと地が響き黒ヤギは胴体が二つに離れていた。

 「すごいな。」

 「何のためらいもなく、罪もない動物を試し切りするパーンもすごいよ。」

 呆れたようにヤギに背をむけるクメルに褒められたつもりのパーンが笑顔を見せた。

 「これを入れる鞘も欲しい。あと、お前も何かいるか?」

 「普段使いのナイフがあるといいな。あと砥石と。」


 クメルは一人で店に戻り、手のひらほどの大きさの刀身のナイフを見ていたが、ふと店の奥に立てかけられているものに気がついた。

 大きさはクメルと同じか少し小さいくらい。幅も彼女が隠れることができるほどの厚い板に見えるが、長辺の縁と上の短辺に鳥の鋭いくちばしのような突起と反対の縁は反対には鋭利に研がれた刃がある。板の下の方には穴が開けられ、掴めるようになっている。

 クメルは食い入るようにその黒曜石のように磨き上げられた斧から目を外すことができなかった。恐る恐る手を触れようとした時、裏庭から戻ってきた鍛冶屋が声をかけた。

 「こいつは嬢ちゃんじゃあ、無理だろ。」

 「どうして。」

 「これは鳥人族の戦士が持っていたやつだ。奴らの戦斧だ。」


 鳥人族はクメルと同じように獣人族の一部族で人族よりも大きな体をして、くちばしのような鷲鼻をしている。禿頭に冠のような羽が頭に生えているのが特徴で、誇り高いが融通が利かないと有名な部族で有名である。鳥族と言っているが、空は飛ぶことができないものたちだった。彼らは傭兵団として砂漠を転々としている。


 「これ、いい。」

 「子猫のおもちゃにしては大きいな。」

 「遊び道具じゃない。いろいろと広がる。買う。」

 結局、二人は大剣と戦斧、そしてクメルの日常使いのナイフを金十二枚と銀十五枚で購入した。 

 革紐を通して、盾のような戦斧を背負ったクメルは誇らしげだった。パーンもいい買い物ができた満足感が顔に出ていた。

 二人はその足で露天市に出た。


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