はだかのおうさま
好む好まざるに関わらず、人の気持ちは透ける事がある。
つかれていた。自分の駅についた時、エスカレーターすら億劫になりエレベーターを使った。降りる時に、目の前の女性が動かない。
彼女はチラリとこちらを見る。
私が気づくと黙って「開」を押し続ける。先にでろという意思だ。
そして困った事に私は考えてしまうのだ。
オマエが先に出ても私は暗い夜道、オマエをストーキングはしないのに。
どうにもひねくれているとは自分でも思う。
軽く頭を下げながら、私は歩き出す。
私にできるのはもはや、早く家に帰ろうとする男を装うだけである。
なんとも惨めだ。
私はストーカーではないにも関わらず、疑いをかけられ、その男が同じ立場であったならとるであろう行動で帰る。
あぁ、何故私はこうなってしまったのだろうか。
私には爽やかさというものが欠落している。
目に光がはいっていない。
溌剌とした口調で喋らない。
ピンと背筋を伸ばさない。
軽やかな足取りをとらない。
その結果が先の被害妄想に繋がるのだ。
いつでも自分を客観的に見るとため息が漏れる。
家に着くと自慰をした。
文字通りの意味だ。
とにかく怠惰にひたりたかった
ふと、頭に前の彼女がよぎる。
三年前に別れたのに未練たらしくも考えてしまう。
必至に振り払うと今度はエレベーターの女がうかんだ。
妄想の中ではいつだって、私は「王」であった。
二つの意味で「裸の」がつく。
間違っていないと必死に口を開くのだ。自分に。
今日あった女は謝っていた。
そんなつもりは無かったと言った。
しかし私は止まらなかった、止められなかったのだ。
裸の王様のように。
事が終わるといつも罪悪感が襲う。
名前も分からない女に羞恥心が沸く。
今度からは偽名でもいいから名前のついた女にしようと思った。
嫌悪感と格闘していると電話が鳴った。
前の彼女からだった。
「ひさしぶり。」
本当に久しぶりだった。最後に喋ったのは一年前である。
彼女のひさしぶりは、
漢字を使ったような苦しさは無く。
片仮名のような硬さも無かった。
私は意を決すると口を開いた。
「久シブリ。」
彼女は少し間を開けた後に
「・・・泣いてるの?」と言った。
現実の私は裸の王様になれない。
好む好まざるに関わらず、人の気持ちは透ける事があるから。
この話はノンフィクションだったりします。
誰の話かというと・・・(ニヤリ)。
誹謗中傷お待ちしております。