獣耳っ娘はお菓子がお好き
そんな掛け声も新たにバス停から少し歩いて店内に入ると、いつも通りの賑わいようで、それなりに人が多い。大混雑というほどではないが、余所見して歩くと確実に他人とぶつかってしまいそうだ。
行き交う人々に注意しながら買い物カゴを手に取って、最初に向かうのは日用品売り場。
「えっと、まずは歯ブラシにコップだな。好きなの選んでいいぞ」
「ほ、本当ですか!? え、えっと……じゃあこれで!」
花梨がそう言いながらカゴに投げ込んだのは、自分の髪と同じ栗色の歯ブラシとコップ。歯ブラシは最近人気の毛先が細かいタイプ。歯と歯茎の隙間の歯垢まで落とせて虫歯が予防できるというので、俺もここ最近使い始めているやつだ。
ちなみにコップには犬のマーク入り。いいセンスだ。
「では、私はそれの色違いを」
「うちもそうするにゃ!」
それに続き神楽と百合も各々のコップと歯ブラシをカゴに入れた。色はというと、神楽は黄色で百合は茶色と白のツートン。神楽はともかく、百合は髪の色が花梨とかぶってしまう為か少なからず妥協が窺えた。
「よし、んじゃ次はお前達の部屋の家具だな。会計済ませて二階に行くぞ──ってどうした?」
何やら袖をくいくい引っ張られたので振り向くと、百合が何かをねだるような眼でこちらを見ていた。
「あの、ご主人様……″これ″も買って欲しいですにゃ……」
俺に却下させるのが怖いのか、百合は恐る恐る脇に抱えていたソフトさきいかを差し出した。恐らく隣の食料品売り場から持ってきたのだろうが、一体いつの間に。
「え、確か猫ってイカの匂い嗅ぐと腰抜けるんじゃなかったか?」
俺が前に見たアニメでは、猫の悪魔がクラーケンに飛び付いたら腰が抜けて戦線離脱していたはず。直後にサブキャラが言ってた説明でそう言っていた気がするんだが。
「そんなこと無いにゃ。うち結構発明品作ってる最中に食べてるけど、一度たりとも腰抜けた事無いですにゃ」
「あぁ、そうか……。なら別にいいぞ。どうせなら他にも持ってきていいが」
「「「持ってきました」」」
「はええよ」
俺がお菓子類購入を了承して僅か2秒、目の前には山ほどのお菓子を抱えた3人の姿が。やはりこいつらは飢えた獣だと再認識せざるを得ない。というかその素早さをもっと別の所で使え。
間違っても俺の貞操を喰らうなんて事がないのを祈る。
「こんなに買うって事は、お前らお菓子好きなのか?」
「それはもちろん大好きですよっ」
「美味しい物は美味しいんです。食わず嫌いなど勿体ないので」
「あ、つまり食ったことのないお菓子があるわけか。結構チャレンジャーだな。俺だったら結構悩むけど」
「お菓子は美味しいに決まってます! 美味しい物を嫌う理由がありますかっ!?」
何やらお菓子について熱弁を始める花梨と神楽。どうやら二人はお菓子に対してただならぬ拘りがあるようだ。
てか「チョコは控えたい」とか言って花梨のやつ、カゴに大量のチョコ菓子を入れてるが大丈夫なのか? あの時の言葉、あれは見せ掛けだったのか。
「ま、まぁ、お前らがお菓子を好きなのは分かった──って、このウィスキーボンボン誰のだ?」
「不束ながら私のです」
「え、神楽のなのか? ちょっと意外だな」
見た目が大人びているのは分かっていたが、こういった物を食べるのはクールな外見とギャップがあって驚きを隠せない。
「本当は神酒が飲みたいのですが、この姿故に酒が手に入らないので代用に……」
「いやその姿じゃ無くても手に入んねぇよ」
神酒なんて神社とか行かないと手に入んないんじゃねぇのか。しかも結構本格的なとこ。
というか神酒の代用がウィスキーボンボンなんかでいいのか。
「普通の酒ならまだしも神酒は無理だ、諦めろ」
「うぅ、残念です……」
神酒が手に入らないのがよっぽど残念だったのか、神楽は気落ちした表情で更にウィスキーボンボンの袋をカゴに入れた。どう足掻いてでもこの狐は酒を摂取したいようだ。
「んじゃ、会計済ませるか」
流石にこれ以上お菓子を持ってこられても困るので、俺はそそくさとレジに向かい会計を済ませた。
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