荷物整理も気が抜けない
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──ピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロゴーウィゴーウィゴーウィテッテッテーテッテッテテーゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリデデーンミョミョミョミョミョミョミョミョミョミョミョミョシャキーンシャキーンッ……。
「一体百合のやつどんな作業やってんだ……?」
2階で花梨と神楽と共に物置の整理をしながら、俺は1階から聞こえてくる怪音に率直な疑問を吐露してみる。
ショッピングモールから帰ってきて早数分で仕事を開始した百合だが、開始40秒でこの怪音。何やってんだ本当に。
「何を言ってるんですかご主人様。地下室を作ってるに決まってます」
「お前らの頭ん中では穴掘るときに"こんな"気の抜ける音がすんのか?」
使ってる工具が100均で仕入れた工具紛いの物とはいえ地面削ってるんだから普通は掘削音しかしないはずなのに、なんかのアニソンの出だし部分とかモン◯ンのSEとかその他諸々の電子音が混じってきて、非常に気になることこの上ない。寧ろ掘削音が余計に聞こえる程だ。
見た感じ真面目そうな百合の事だから音ゲーなんかして仕事サボってる事はないと思うが、本当に仕事してるのか心配になってくる。
「気にしたら負けですよ、ご主人様。百合は昔っから物事をちゃんとこなす性格ですから、心配はいりませんよ。私達は私達で物置の片付けを済ませちゃいましょうっ」
「昔からって……お前ら、捨てられるより前から一緒にいたのか?」
「「………………………………………………」」
ふと気になった事を口に出した途端、2人は段ボールを持ちながらその場に硬直した。冷や汗をかいている辺り、何か痛いところを疲れたのかもしれない。
「…………………………ご主人様」
「なんだよ」
「…………神は言いました。『今はまだその時ではない』と」
「うん、今晩辺りじっくりと聴かせてもらおう」
犬、狐、猫のコンボから一晩で獣耳っ娘になった時点で人外──いや、獣外なのは眼に見えている。これからの事を考えて、その辺りをきっちりと聞き出しておきたい。
もし仮に「この世界の存在ではない」とか言われても、特に気にしない。深く考えず一緒に暮らしていけばいい話だ。
とにかく、美少女と毎日を過ごせれば、俺にはそれでいい。
「ほらほら、固まってないで作業続けるぞ」
「わ、分かってますy──んんっ?」
俺が手を叩いて作業を再開させたとほぼ同時、花梨の視線が1つの段ボールに注がれた。
その段ボールの側面にはマジックペンで書かれたと思われる、「奈央ちゃんへ、彼女ができたら使ってね♡」の文字。恐らく母が書いた物だろう。
というか1ヶ月と少し前に母親が帰ってきた際に置いていった物だ。文字と母親の性格からしてどうせロクでもない物だろうと物置にしまいっぱなしだったのだ。
「ご主人様、これちょっと中身見てもいいですか? 絶対盗ったりしないので」
「私も中身が気になります」
「あー、うん。別に構わないが……多分ロクなもん入ってないぞ? 母さんの事だから多分避妊具かなんかだと思うけど」
「もしかしたら愛する息子のために買い与える予定だったエロ本かもしれませんよ?」
「どこにキャッキャしながら1冊のエロ本を見るカップルがいるんだよ」
というかエロ本なら既にベッドの下に……ゲフンゲフン。
ま、まぁとにかく開けてみよう。
ビリビリ剥ぐのが嫌なので、1階からカッターナイフを持ってくると段ボールに沿って切れ目を入れていく。
「「「………………………………………………(ごくり)」」」
生唾を飲み込みながら3人で覗き込むような形になると、意を決して段ボールの蓋を──開けた。
──年季の入った大人の玩具だらけだった。
パタン。
「さぁさぁ、いろいろ怒られるからしまっちゃおうねぇー」
数多の人間のトラウマを呼び起こす台詞を呟きながら、再び段ボールをガムテープで密封する。こんな災厄しか入っていないパンドラの箱なぞ、厳重に封印するに限る。
万が一うちの獣耳っ娘等に渡ったりでもしたら絶対に悪用されるのはほぼ確実。使われでもしたら俺の貞操がマジでdieする5秒前だ。
明日が確か不可燃ゴミの収集日なので、他のゴミと一緒に捨ててしまおう。母さんには悪いが、それが俺の貞操を守る一番の手なんだ。許してくれ。
「ちょっ、捨てるなんてもったいないですよご主人様っ! 捨てるくらいなら私が貰い((ビシッ))おぅふ!?」
「盗ったりしないって自分で言ったばかりだよな?」
「盗るんじゃなくて貰うんですよ……」
「お前らの手に渡ること自体が危険なんだよ。どうせ夜這いして俺のベッドの中で使う気だろうが」
「な、何故分かったんですか!?」
「使う気満々だったのかよっ!?」
冗談半分で言ったのに当たってて自分でもビックリだ。やはりこいつらに渡すわけにはいかん。
「じゃあ、神楽。花梨と一緒に片付け続行しといてくれ。俺はこれを下に置いてくる」
「分かりましたご主人様。段ボールは中身を見て小分けしておきますので」
「この段ボールの中身みたいなのを盗ってたら──お仕置きだかんな?」
「「ら、らじゃー………………………………」」
去り際に凸ピン発射形態にした指をチラつかせると、冷や汗を滝のように流しながら2人は作業を再開した。出来る時に少しでも杭は打っておかねば。
「さて……これ置いたら百合の所行ってみるか」
5/22 一部改稿しました。