森さんと望月さんとの酒盛りは続く
それから冬が本格的になるまでには、森さんは日中は家の内外を片付けたり壊れた外壁に板を打ちつけたりして過ごしました。
そして夜も更けた頃、二日か三日にいっぺんくらいは、望月さんが訪ねてくるようになりました。
いつも第四のビールを持ってきます。夜中遅くまでふたりでゆっくりと缶ビールを傾け、最後には森さんがソファで寝入る頃、望月さんがよろめきながらアパートに帰って行く、という感じでした。
話すことはとりとめもなく、ほとんどが望月さんの一人語りで、森さんは聞き役でした。
いつも飲み物を持ってきてくれる望月さんに、ある晩、森さんがお金を差し出すと
「いいよ、こないだの稼ぎが思ったよりあってさ」
照れたように頭をかいています。何のシゴトをしているのだろうか、聞いてみようとしたのですが先に
「ま、今はちっとばかり、休憩中なんだけどね。ま、たまには、ゆっくり休んでエイキを養わないとな」
と、笑いました。
エイキとは何だろう、と思いながらも他のナニカを育てながら暮らしている望月さんはすごい、と漠然と思いながら森さんはうんうんとうなずいていました。
「ところでさ」ふたりで飲んでいたある晩、唐突に、望月さんが聞いてきました。
「隣のウサギ野郎に会ったかい?」
うんうん、と森さんはうなずいてから「チビ、いっぱい」と答えました。
望月さんはははっと笑ってからこう教えてくれました。
「五ひきだよ、五。いっぴきたりとも食えないさ。あのオヤジはちゃんと自分の子どもの数を把握してやがる。女の子が二、男の子が三だ、ってね。白い石を二個、黒い石を三個玄関先に埋め込んでね、よく子どもらがバラけると、おふくろが悲鳴をあげてその声で子どもが戻ってくるように仕込んでる、そんでその石の上に一匹ずつ座らせるんだ。数が合っているか、ってね。
それによ、せっかく文明の中で暮らすんだ。なんでわざわざ生の子ウサギなんて無理して食う必要がある? それにオレはウサギなんて喰ったこ……いや、喰ってみたいなんて。なあ?」
特にウサギを食べたいと思ったことのなかった森さんは、それでもうんうんとうなずきながら話を半分飛ばし聞いてもう半分は夢の世界に入り込んでおりました。
霜がおりるようになった頃の朝(ありがたいことに、雪はほとんど降ることのない土地でした)、目ざめてソファから降りようとした時に、森さんは空き缶の中に脚を突っ込んで目をぱちくりさせました。
ふたりで一緒に飲んでいたビールもどきの缶がいつの間にか部屋中いっぱいになっています。
それに、この家の食糧倉庫にあった保存食などもそろそろ品切れだというのも思い出しました。
望月さんが教えてくれた店をいくつか見に行ってみようかと、森さんは缶を拾い集めてその辺に落ちていたプラ袋に詰めて小脇に抱え、家の外へと出て行きました。