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森さん、ウサギの爺さんに教えられる

 午後少し遅くようやく帰ってきた森さん、まずゴミ捨て場の前を通りかかり、自分が出したはずの缶だけが残されているのを見つけて足を止めました。

 黄色いネットの下、空き缶の詰まったプラ袋が、大きな黄色いシールでぐるりと不格好なカタマリに留められています。

 そのまま引きずり出してしげしげと眺めておりますと、そこにウサギが一匹やってきました。

ゆっくり、ゆっくり歩いてくる小柄な姿は、細かく震えていました。

 怖くて震えているのでは、なさそうです。それを証拠に、近づいてきた表情はとても穏やかでした。

 朝、窓から飛び出した時見かけた稲葉上いなばうわさんとそっくりですが、毛は灰色がかってもう少しくたびれた感じ、耳も少し傾き、どうも、もう少し年配者のようでした。ウサギ用らしき黒ぶちの眼鏡の奥で目がうるんでいます。

「何と書いてあるか、分らんのかね」

 震えは、どうも、いつものことのようです。

 話し方はとても優しく、ひとりで小刻みにうなずいていました。声もかすかに震えを帯びていました。

「『収集日がちがいます。ルールを守りましょう』というふうなことが書いてあるんじゃよ」

 森さんがいぶかしげに缶の袋を持ち上げ、透かすように眺めていると、またウサギが言いました。

「いつ出すのか、知りたいのかね」

 森さんが考えていたことが分るようです、森さんはウサギに目を戻しました。

「月に一度、第二火曜日じゃよ、フネンブツの収集日じゃ。後でまた紙を持って行ってやるからの」

 紙を見ても分らないかも、と思いながらも親切な言い方に森さんはぺこりと頭を下げました。

 それから赤いレンガ作りの家を指して

「あそこに引っ越してきたのじゃろ?」と聞くので森さんは

「うぅふ」

 とうなずいて、前脚をウサギに向かって伸ばしました。ウサギはその前脚を自分は両前脚でかかえると

「ずいぶんでかいんじゃな、利き手で蜂蜜を採るんじゃな、オオカミとはまたずいぶん違うんじゃな、木の実のにおいがしみついとるんじゃな、ほお」

 などと一通り感心してから、ひっくり返したり撫でまわしたり、ためつすがめつして見ておりました。

 しばらく森さんの前脚をいじっていたウサギは、急にぱたんとそれを離して、はっ、と気づいたように棒立ちになりました。

 家とは反対の、どこか遠くをみています。森さんも同じ方を見てみました。けれど、何もめぼしいものは見当たりません。

「まだまだ、帰れんのかのお」

 ウサギはぽつりとそう言ってから、その後も何ごとかブツブツつぶやきながら、顔を向けた方と歩を進め、やがて森さんの前から姿を消しました。


 しばらくウサギが帰って来るのを待っていた森さんでしたが、やがて諦めて、黄色いシールに覆われた缶を抱え直し、家へ帰って行きました。



 それから数日後の真夜中。

突然森さんは揺り起こされて目が覚めました。

「ちょっと、起きなさいよ」

 寝ぼけ眼をこすってみてびっくり、そこには人間の少女が立っていたのです。



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