一 [3/3]
だが――。
「そんなこと可能なのか?」
彼女の言うことは夢物語にしか聞こえない。新しい世界を創るなど不可能だ。
「うちらはできると思ってるよ。無転が協力してくれれば」
「俺が?」
「そう!」
ティアは期待に満ちた目で無転を見てほほえんだ。
「無転って、どんなものでも異世界に飛ばせるんだよね?」
「まぁ……、大きすぎる物は無理だが、確かに、な」
無転は、少しでも気に入らないものは全て消してきた過去を思い出し、苦々しい顔で答えた。
しかし、無転の答えにティアはいっそう目を輝かせる。
「気に入らない王国を丸々消しちゃった、って噂は本当なんだね」
「いや……」
本当のことでも、こんなにキラキラした目をして言われては認め辛い。しかも、それは思い出したくもない最大の汚点だ。
無転は内心で悶えた。
現在、その場所には大地さえなく海にも負けないほど大きな湖になっている。そして、消えた国の人々は今でもどこにあるのか分からない無転の異世界の中で暮らしているのだろう。
一度消したものでも、無転の意思で出し入れ自由なので、消した物体が消滅するわけではないということは分かっていた。
「…………」
もう無転のやるべきことが分かった気がする。
「それだけの力があったら、大陸くらいちゃんと補助があれば何とでもなるよね?」
やはりそうきたか。
「いや。この大陸は無理だろう」
できそうにないことは即否定する。
「この大陸の七分の一位のと、十分の一位のと、十二分の一位のは? まだ人の住んでない大陸を見つけたんだ」
ティアは無邪気に言う。
「七分の一は無理だろうが――」
「あとの二つはできるんだね! ねっ、協力してくれるでしょ? 協力してくれたら、無転は天地創造の神様だよ!」
天地創造の神――。
悪くない響きだと思ってしまった。
特に今まで物を消す事ばかりしてきて、『無に転ずる』なんて意味のあだ名で呼ばれてきたのだ。その逆、『天地創造』なんて夢がある。
ただ、気になるのは――。
「俺の妹はどうなる?」
何百年もいっしょに生きてきた妹と離れるわけにはいかない。
「妹がいるの? じゃぁいっしょにおいでよ。ちなみに妹の能力は?」
「予知だ」
「いいね、役に立つ」
「お前たちは?」
こちらだけ能力を知られて相手の能力を知らないのは、不平等な気がする。
「うちらは大体何でもこなせるよ。得意なものはないけど、何でもできるのがうちらの能力。スノーは天気を変えられるよ」
なるほど、色々あるらしい。
「来てくれるの?」
ティアは念を押すように尋ねた。スノーもじっと無転を見つめている。
「行こう」
無転は答えた。