一 [2/3]
「一体何の用だ?」
ティアはその問いをしてほしかったのだろう。愛らしくにっこり笑った。
「無転は精霊って知ってる? スノーみたいな天力でできた生き物」
「『天力』? 何だそれは?」
何となく分かる気もするが、一応尋ねておく。
「うちらの纏っている、光のことだよ。『天が与えてくださった力』略して『天力』。中にはダサいからって『魔力』とか『神通力』とか色々呼ぶ人もいるけど、うちは『天力』って呼ぶなぁ。友達がそう呼ぶから」
結局その呼び名も正式なものではないのか。しかし、これ以上言葉を重ねると話が長くなりそうだ。
「理解した」
そういう事にしておこう。
「よかった」
ティアはほほえんだ。そして、また話し始める。
「精霊たちはね、天力でできているから、天力濃度が低いところじゃ生きられないの。――分かる?」
「例えばカエルは、水のないところでは干からびてしまうということか?」
「うん。悪くない例えだね。精霊はそのもっと極端な例」
女は大抵カエルのようなヌメッとしたものを嫌うので、その例を出したのだが、ティアはひるむことなく精霊であるスノーの首をペシペシ叩いた。
スノーは羽根よりは濃い薄青の瞳で無転を見ている。
「世界には、部分的に天力の濃いとこるが存在するんだよ。無転の知ってそうな単語でいえば、竜穴ってやつ? うちらは、東岸出身の友達に倣って、『煌』って呼んでるけど。まぶしく光って見えるからね。
精霊はね、その『煌』の天力が凝縮して生まれるんだけど、生存にも大量の天力がいるから、生まれた狭い『煌』の中を離れられないの。そこを出ると、体を作る天力が空気中に逃げて、融けちゃうんだって。
それってかわいそうじゃない? せっかく生まれてきたのに。
天力でできているからできる特殊能力だってあるんだよ。精霊って、天力の結合が弱いって欠点もあるけど、その代わり自由に姿を変えられるの。もっと精霊と人間が協力できたら楽しいのに……」
「そのスノーとか言う奴は、自由に出歩いてるじゃないか」
ティアの幼い子どものような無邪気な説明に、無転は疑問を投げかけた。
「スノーはうちと契約してるもん。うちがスノーに生存に必要な天力を供給してあげる代わりに、うちらの手助けをしてもらうの」
急な質問に気分を害した様子もなく、ティアは答えてくれる。
「でもね、契約を嫌う精霊も多いんだよね。どうしても、天力を供給している人が上になっちゃうから。人によっては無理難題を使役した精霊に聞かせる人もいるんだ。
だからね、うちらは精霊たちが自由に生活できる世界をつくろうって同志を集めてるんだよ。天力使いの人間達の中には、普通の人が持たない能力のせいで迫害されてる人もいるし。精霊も人間も天力を扱える人は少ないからね。……まぁ、気づいていない人ってのが多いんだけど。
精霊も人間も気兼ねなく暮らせる世界。
素敵だと思うでしょ?」
夢を追うもの特有の熱い口調でティアは言う。