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序 [1/1]

 ――この世は腐っている。


 彼は限りなく黒に近い青のマントをなびかせて歩きながらそう思った。道行く人が彼を見ると道を空け、深々と頭を下げる。


 ――こいつらも無能だ。


 彼は自分が通り過ぎるまで頭を下げ続ける人々を、眉を寄せて不快げに一瞥(いちべつ)した。眉の間のしわは長年そうしてきたために、深く刻みこまれている。

 人々のほとんどは染色も縫製(ほうせい)もされていない布に穴を開けて身に(まと)い、少し金のある人は革で、それ以外の人はボロ布で腰の辺りを縛って体にあわせていた。足は布を巻いている者もいるが、大抵ははだしだ。


 ――ここの文明は遅れている。


 彼の身につけている服は体に合うように筒状に縫われており、袖もある。首や腕には、高度な技術で加工された貴金属が重いほどにぶら下がっていた。


 ――これなら、まだ俺が生まれた東岸の方が発達していた。


 彼は大陸の東岸に稀有(けう)な能力を持って生まれ、その力を使って妹と共に時の権力者に仕えていた。

 しかし、いつまでたっても数多(あまた)ある国を統一する事ができない男に見切りをつけ、何百年もの間色々な文明を渡り歩いてきたのだ。この文明の遅れぶりはよく分かる。三百年前に東岸のとある大河付近で栄えていた文明の方が、農耕技術も発達しており、文字もあってよかった。


 ――そろそろ別のところへ行くか。


 特に最近は――。


「っつの、王の犬がぁぁぁ――!」


 いきなり、彼のそばで頭を下げていた男が、尖った石を握りこんだこぶしを振り上げた。


「――王の座を狙う反乱分子たちが、俺にまで手をあげて来るからな」


 うんざりした口調で言い、振り下ろされる石を易々と手を触れずに止め、男の額を右手の人差し指で突く。

 次の瞬間、さきほどまで男がいた所には何も無くなっていた――。


 これが彼の持つ稀有な力。物体を別の空間に飛ばす事ができる。物でも人でも液体でも、何でも。

 彼同様に稀有な力を持つ妹も同じような事ができるが、一度に消せるのはせいぜい自分と同じ位の大きさで、動物は無理だ。

 生物だろうと、どれだけ大きかろうと、飛ばす事ができるのは彼特有の能力。そのために東岸でついたあだ名は「無転(むてん)」だったか。


「骨も残さず消えたくなければ、俺には手をあげないようおすすめする」


 震えながら頭を下げ続けている通行人に、彼は冷たい声で言って、何事もなかったかのように立ち去った。

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