草原の町アイモーゼン①
名物――その言葉を聞いて、僕もお腹が減っていたことを思い出した。
――グゥゥゥ。
相変わらず、隣ではじいちゃんの腹の虫が鳴り続けている。
正直、少し静かにして欲しい。
でも、それよりも名物のことが気になる。
「じいちゃん! その名物ってなんなの?」
「それは町に着いてからじゃな!」
涎をすすり、ニヤけた顔で、名物の名前を言わずにもったいぶる感じ……これだけ揃えば僕の期待値も自然と上がる。
「ふふっ、楽しみじゃの~♪」
「そんなにかー! 早く食べたいなー!」
「じゃのう!」
「うん!」
そんなやり取りをしながら、僕達はシュタイナー公爵が治めるアイモーゼンという町に向かっていく。
徐々に町の入口が見えてきた。
領主がいる町ということだけあって、道の先には僕ら以外にも、旅人や行商人たちが町へと入っていく様子が伺える。
「活気があるね! じいちゃん!」
「ああ、ここは比較的安全な地域だからのう!」
頭をぽんぽんとするじいちゃん。
その周囲は草原に囲まれており、その後ろには大きな山々があった。
ここからなら、五分ほどで着きそうな距離だ。
ちなみにスレイプニルはお留守番。
というか、よっぽど周辺に生えている草が美味しいのか、それとも何か特別な理由でもあるのか、僕の言うことはおろか、じいちゃんの言うことすら聞かない。
いや、もしかしたらじいちゃんと一緒に居たくないという可能性もあるのかも知れない。
実際スレイプニルは、時々じいちゃんにだけ悪態をつくことがある。
声がうるさかったら、「ブルゥ」と注意をするように鼻息を鳴らしたり、腹の虫が長かったら、フルフルと頭を振って、その場を離れる。
まるで、人間みたいに。
本当に不思議な馬だ。
とにかく理由はどうであれ、その場を動こうとしないので、彼は馬車と一緒に近くの木陰へ置いてくることになった。
本来であれば、荷馬車と馬をこんなあまり人の気配がない草原に置いておくなんて、盗賊や魔物からしたら、いいカモに違いないのだけど、じいちゃんが言うには全く心配ないらしい。
まぁ、じいちゃんがそう言うなら、きっと大丈夫なのだろう。
それにスレイプニル本人が動きたがらないのだ。
僕も彼の意志を尊重しようと思う。
すると、じいちゃんが歩みを止めて声を掛けてきた。
「よおっし、着いたぞ!」
「えっ! もう着いたの?」
あ、本当だ。
大きな石造りの門に、アイモーゼンという看板が掛かっている。
周りは、門と同じような材質でできている感じだ。
白くて硬そうな岩が塀の役目をしているようにも見える。
草原の町と言われるだけあって、塀には草が生い茂っている。
なんというか、不思議な光景だ。
「さては……また、考え事しておったんじゃろう?」
「な、なんでわかったの?」
「なんでもクソも、お主の顔に書いておるじゃろう……スレイプニルが心配じゃとな」
「バレてた!」
「当たり前じゃ! ワシを誰だと思っておる。お主の祖父だぞ? とにかく大丈夫じゃから。ほれ、入るぞ」
「う、うん!」
まさか、あんなに大雑把に見えるじいちゃんが、考え事していることに気付くなんて……少し驚きだ。
「ほれ、手を――」
「えっ、あ、うん……」
そして僕は、じいちゃんに手を引かれながら、目的の町――アイモーゼンへと足を踏み入れた。




