第6話 昼の出来事
「失礼いたします。」
控えめなノックの音とともに扉が開き、村人の女が一人入ってきた。
蓮花は一瞬、ルーンかと期待したが、そこに立っていたのは茶色の髪をした綺麗な女だった。
「娘のフレイです。」
グレッグがそう言うと、フレイは丁寧にお辞儀をして、木製の深皿をテーブルに置く。
その顔を見て、蓮花はすぐにフレイが昼間に助けた女だと気付いた。
「先ほどは本当にありがとうございました。」
「レンカ様、私からも改めて御礼申し上げます。」
グレッグも頭を下げたが、蓮花の興味は既にフレイが持ってきた皿の中だった。
深皿の中身は薄黄色のスープで、湯気とともに香りが部屋中に広がり、蓮花の腹に昼から何も食べていなかったことを思い出させる。
「あまりご用意できるものが無く恐縮ですが...」
「いえ、ありがとうございます。運んでくれて、ありがとね。」
蓮花に声をかけられ、フレイは頬を赤らめながら部屋の隅へと下がる。
蓮花は早速手を合わせ、スプーンで一口頬張ると、野菜のポタージュのような素朴な味と、具材のサイコロ状の肉の旨味が舌で交わり、深い風味が口いっぱいに広がった。
蓮花は思わずのけ反り、天を仰いで喉を鳴らす。
「…ホンマに美味しいです。」
「はっはっはっ、お気に召していただいたようで何よりです。それで、食べながらで結構なのですが…」
そう言って、グレッグは昼間の出来事を喋り始めた。
この村は狼人族の村で、住民はおよそ三百人程度。
わずかに農耕と牧畜をしているものの、大部分は近くの森での採取と狩猟により生活を営んでいるらしく、いつもと変わらない平穏な昼過ぎ、突如として男たちが現れ、村を襲い始めたとのことだった。
賊の人数は全部で四十人ほど、ほとんどの若い男たちは、蓮花の意識が無くなった後に森から戻ってきたので、先ほどまで残った賊が居ないかしらみ潰しで探していたそうだ。
「どうやら、賊の狙いはルーンだったようなのです。」
生き残っていた賊の何人かを拷問にかけて分かったようなのだが、その目的までは分からなかったそうだ。
「お代わりはいかがですか?」
二杯目のお代わりを受け取っても、グレッグの話は続いていく。
この村が森の奥から流れる豊富な水を引いていることや、二百年前に先祖が開拓したこと、村には現在二つの派閥があることなど、グレッグはとにかく良く話した。
蓮花はそれを聞いて認識を深めるほどに、現代の日本から程遠い場所まで来たのだと改めて実感した。
「お代わりはいかがですか?」
「いえ、もうお腹いっぱいで...ありがとうございます。」
「お口に合ったようで良かったです。レンカ殿、それで今回の報酬の話なのですが。」
二時間ほどの会話で、三人の距離は随分と縮まっていたが、グレッグが再び固い表情でそう言うと、フレイが空気を察して家の中から出て行く。
話の内容は、村人が殺した賊の男たちの装備や着衣、魔石については、村のものにしたい、というものだったが、正直、蓮花はあまり興味が無かった。
「ってか、別に僕は要らないんで…しばらく村に置いてもらえません?できれば衣食住付きで...」
村長のドレイクと助役のグレッグは驚いて互いに顔を見合わせると、大声で笑った。
「「ガハハハハハッ!」」
蓮花としては、この時点で不自由はしておらず、むしろこの村から追い出される方がリスクと考えたからこその提案だったが、グレッグはすぐに表情を引き締めて口を開く。
「レンカ殿、ご自身の手柄はちゃんと受け取ってください。それは、ここで生きていくための掟とも言えるでしょう。」
グレッグの後に、ドレイクが続く。
「交渉事の際に選択肢は多いほど良いでしょう。それに、"祝福"を授かられた方が村に留まると言って、反対する者は居やしませんよ。」
「いずれ商人がくるでしょう。それまでレンカ殿の分はこちらで責任を持って預かりましょう。代わりにいくらか手数料をいただければ。」
グレッグが話を爽やかに笑っで話をまとめた。
「あ、ありがとうございます。じゃあ、しばらくは村に居っても?」
「もちろん、お好きなだけ。村はまだ混乱しておりますので、"祝福"を授かった方がいらっしゃることは大変心強い。」
蓮花は"祝福"という言葉の意味を理解し始めていた。
それは、身体に刻まれた模様のことなのだと。
そして、親友の海が彫った、蓮花の胸の中央にあるタトゥー、赤い鎧を着た銀髪の武者と漆黒の日本刀。
これもまた"祝福"の一つなのだと。
「それでは、我々はこれで失礼いたします。いかがでしょう?村の娘をお連れしますが。」
「いえ、結構です。それより、ルーンは?」
走って出て行ったことが気がかりで口にすると、グレッグはニヤリと笑った。
「お気に召していただいて恐縮です。すぐ呼びます。」
「あっ、いや…」
グレッグが足早に出ていき、ドレイクがぽつりと口を開く。
「"祝福"を授かった方からのご寵愛は大変喜ばしいものです。あの娘は苦労も多く...至らぬ点ばかりかと思いますが、どうか寛大な御心で...」
「あっ、いや…」
蓮花は、そんなつもりではなかったが、ドレイクも家から出て行くと、しばしの静寂が訪れた。
まるで、ホテルでシャワーの女を待っている時のように蓮花はそわそわと、トイレを済ませたり、口をゆすいだりと、緊張した面持ちでルーンを待った。
「失礼いたします。」
その声に扉を向くと、再び、銀色の髪を靡かせたルーンが家の中に入ってくる。
「今夜、ご一緒させていただきます。」
ルーンは、家に上がったところで膝をついて頭を下げた。
「あー、いや、さっきごめんね?ちょっと気がかりで...」
「とんでもございません。先ほどは取り乱して本当に失礼いたしました。」
そう言うと、ルーンは部屋の横にある扉を開き中に入って行く。
蓮花も付いて行くと、中にはクイーンサイズほどのベッドがあり、揺れるランタンの光が淫靡な雰囲気を醸し出していた。
「どうぞ...」
ルーンがそう言うと、蓮花はベッドに倒れ込む。
『このまま寝てしまいたいな...』
蓮花が目を瞑ったので、ルーンがランタンの明かりを消すと、ふっと暗闇が広がる。
遅れて聞こえてきたのは衣擦れの音ーー蓮花の目が慣れる間もなく、ルーンがベッドに潜り込んできた。
『吸印を開始します。』
『そうやったね...あと、どれくらいかかるん?』
『丸一日程度です。体液を再び注ぐことで回路を強化し、時間を短縮することができます。』
蓮花は、理由が出来てしまったと思ったが、同時にルーンが言葉を発した。
「先ほどは本当に失礼いたしました。」
「...何かあったん?」
「気持ち良すぎて我を忘れてしまい、終わった後に、大変失礼なことをしてしまったと...」
ルーンはそう言うと下を向いて顔を隠す。
「いや、全然大丈夫やで...」
蓮花がルーンの顎を上げると、恥ずかしそうに目を逸らす。
「もう一度して欲しいです...」
蓮花は、この美しさから出るこの言葉に耐えられる男は存在しないだろうと思った。
蓮花も服を脱ぐと、きめ細やかな肌が触れて、寝てしまいたい気持ちが吹き飛んでいく。
二人の距離は前回よりも滑らかに近付き、ルーンが蓮花の首に手を回して迎え入れると、ぎこちないながらも蓮花に合わせて応えつづけた。
豊かな胸を揺らし続けるうちに、ルーンの苦悶に満ちた表情からは徐々に声が漏れ出て、その声に艶が溶け出していく。
「かわいい...」
蓮花が思わず口に出すと、ルーンは解き放たれたように声を上げた。
その声は夜に朝が混ざるまでーー快楽が生きてる喜びに変わるまで、途切れること無く二人は何度も身体を重ねた。
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