第3話 揺れる火の剣
「目立つかな?」
蓮花の白いシャツは返り血と砂埃で赤黒く染まっていた。
「このようなもので良ければ。」
女から渡されたローブを借りて羽織ると、中に刀を隠して広場へと向かう。
家を出る時、視界の端に映った扉の村人は満足した表情で既に事切れていた。
『頼まれたわ...』
歩みを進める蓮花の目に、鼻に、そして耳に、惨状が届けられる。
焼け焦げた家、倒れている村人たちの呻き声、そして既にその命を終えたのであろう、無惨な姿、それらが至るところに点在してた。
土の地面は血と涙が滲み、焦げた木材と鉄の匂いが鼻を突く。
「地獄やな…」
蓮花の胸の中を渦巻く感情は、怒りか、悲しみかーーそれとも無力感だろうか。
えもいえぬ感情を引きずりながら、蓮花は広場へと進んでいく。
「おらっ!いけよっ!」
目的地の広場であろう場所が近づいて来た時、あまりにも場違いな、まるでお祭りのような活気のある声が聞こえてきた。
そこでは、ニ十人程の男たちが輪になって、わいわいと騒いでいる。
蓮花が後ろからそっと加わると、輪の真ん中では二人の男の戦いが繰り広げられていた。
片方の男はこの村の者なのだろうーー背は高く、頑強な体つきで、他の村人と同じく獣の耳と尻尾の特徴を持っていた。
剣を持ちながら肩で息をしているところを見ると、どうやら状況は芳しくないらしい。
そして、もう片方の男ーーゆらゆらと揺れる赤く染まった剣を片手で振るう男。
蓮花は最初、剣が燃えているのかと思ったが、どうやら違うらしい。
剣自体が炎で出来ていて、それがゆらゆらと揺れているようだ。
「おいおい!!もっと頑張れよっ!」
近くで一人の男が叫び、皆がゲラゲラと笑う。
『どうしよか。』
蓮花が悩んでいると、村人の男は、大きく声を上げて剣を振り上げた。
そして、勢いそのままに相手に向かって振り下ろす。
だが、男はにやにやと笑いながら、村人が振るう剣を簡単に避けると、周囲の男たちは大笑いする。
「ぎゃはははっ、どこ見てんだ!」
「目ん玉付いてんのかぁ?」
周囲を囲む男たちの不快な笑いが耳をつんざく。
振り下ろされた剣は地面を抉り、当たりさへすれば、その男に致命傷を与えるのであろうが、当たる様子は全く無い。
捕らえられた動物のように囲まれ、その中心で戦わされている村人の姿が蓮花の目に焼き付けられていく。
「もう終わりか?」
「ハァ、ハァ、、、」
「居場所も言わねーみたいだし、そろそろ幕締めだな。」
次の瞬間、火の剣の男が一瞬消えると、村人の体は炎に包まれ、膝から地面に崩れ落ちた。
「カシラッ!」
いつの間にか倒れた村人の横に立った男に向かって、わっと周囲の男たちが歓声を上げて駆け寄って行く。
どうやら、中心で戦っていた男がこの男達の首領だったらしい。
「流石だぜ!カシラッ!」
蓮花も他の男達に紛れて、真横からジリジリと近付いていく。
「よーし、お前らこいつを吊るせ。この村で"祝福"があるのは、こいつくらいだろう。」
「「へいっ!」」
威勢の良い返事と共に、周りの男たちが倒れた村人の方に集まっていく。
それに紛れて、蓮花は首領のすぐ隣まで近づいた。
「んっ?」
刀の射程に入った瞬間、首領が一声漏らす。
蓮花はすぐに一歩を踏み出し、迷いなく刀を下から上へ縦に振り抜く。
紛れもなく、最短距離で命を刈り取る一振りだったが、その瞬間、首領は驚くほどの反応速度で後ろに飛んで、蓮花との間に距離を取った。
「ちっ...!」
吐き捨てたその一言は、蓮花の一撃が命までは届かなかったことを示す。
蓮花は、上に伸びた身体の勢いそのままに、刀を横に回転させると、周りにいた数人の部下たちの肩や首から上を刎ね上げ、盗賊たちは血しぶきとともに力なく地面に崩れ落ちた。
「クソッ、騎士団には見えねぇが...獣人の味方なんぞ、酔狂なことで。」
首領が蓮花を鋭く睨みつける。
蓮花の攻撃は完全に外れたわけでは無く、その左腕からはかなりの血が流れ落ちていた。
『"鬼月"による"吸印"を開始します。』
蓮花の頭に活路となる文字が響く。
「なんだ?」
首領は、何かを感じ取ったのか、左腕の傷口を一瞥した。
「何をした?...邪魔するなら殺す。」
首領が再び臨戦態勢に入った時、頭に文字が流れた。
『"敏捷"を獲得しました。』
『適応性ありのため、刻印可能です。刻印しますか?』
蓮花は既にこの意味を理解し始めていた。
『ああ。』
『承知しました。"敏捷"を刻印します。』
すぐに右の胸から熱を感じる。
その場に居た全員が次の動きを感じ取った時、倒れていたはずの村人が突然起き上がり、首領の腰に抱きついた。
「クソっ!?てめぇっ!!」
その隙を見逃すはずが無かった。
「"敏捷"...」
呟いて一歩、蓮花は全身の異様な軽さを感じる。
そのまま、二歩目で大きく蹴り出し、首領との距離を一息で詰めると、真横に胴を切り裂いた。
『"剣術"と"焔心"を獲得しました。』
『"剣術"は刻印済みのため統合されます。』
『"剣術"が"剣術Lv.Ⅱ"になりました。』
『"焔心"は"鬼月"へと統合されます。』
蓮花の頭に文字が響く。
統合の意味は理解できなかったが、鬼月は分かった。
蓮花が右手で握り締めているこの黒い日本刀のことだ。
「なに...しやがった....」
首領は最後の力で蓮花の足を掴み、恐ろしい形相で睨みつけたまま瞬く間に息絶えた。
「ひっ!?」
周りの男たちが一斉に静まり返る。
「カ、カシラ....?」
崩れ落ちた首領の身体から流れた血が地面を赤く滲ませるーー静寂が訪れた広場の中で、蓮花は先ほどまで立っていた場所を振り返った。
「ば、化け物だっ....」
誰かのその一声で盗賊達が一斉に逃げようと踵を返すが、蓮花は一瞬で男たちの背後に回って次々と首を刎ねていく。
「たっ、助けてくれー!!」
残った数人は腰が抜けて、地面に座ったまま泣き叫ぶのみだった。
蓮花がその男達へと向かう途中、地面に倒れた村人が視界に入るーー首領と戦っていた男だ。
男たちは、頭を地面に擦りつけながら命乞いを始めていたが、蓮花は容赦することなく、その全ての首を刎ねた。
「楽に死ねるだけええやろ?」
男たちを全て始末し、広場の中央に戻ると、村人の男は首領の足を抱きかかえたまま息絶えていた。
「お陰で助かったわ...。」
日差しはやや傾き始めていた。
「ふーっ。」
静寂の中で、蓮花はようやく腰を下ろすと、途端に意識は無くなり、その場に倒れ込んだ。
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