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男女比1:100の世界で生き延びる  作者: 功刀


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33/35

木を隠すなら森の中

「いい写真がたくさん撮れましたわね……ふふ、眼福ですわ」


 撮影会が終わり、スマホの画面を眺めてうっとりしていた麗華が、ふと顔を上げて爆弾を投下した。


「ねえ龍弥。せっかく可愛く変身したのですもの。このまま街へお出かけしませんこと?」

「……は?」


 俺は耳を疑った。


 今、なんて言った?

 街へ? この格好で?


「正気か!? 絶対に嫌だ! 家の中で着るのは百歩譲って許すとして、外に出るなんて自殺行為だろ!」


 知り合いに見られたらどうする。

 いや、知り合いじゃなくても、不審者として通報されるかもしれない。

 それに何より、俺は「男」だ。

 男が一人で外を出歩くことのリスクは、この世界では常識中の常識だ。


「あら、自殺行為だなんて大袈裟ですわね」


 麗華は涼しい顔で人差し指を立てた。


「よく考えてごらんなさい。龍弥が外出を禁じられているのは、なぜですの? あなたが『希少な男の子』だと一目で分かってしまうからですわよね?」

「そ、そうだよ。だから危ないんじゃないか」

「ええ。ですが、今の龍弥はどう見えまして?」


 麗華が手鏡を俺に向けた。

 そこには、フリルのワンピースを着た、栗色の髪の可憐な美少女が映っている。


「……女の子、だな」

「そうですわ! 外見は完全に女の子。つまり、今のあなたなら、ただの『女の子同士の仲良しグループ』にしか見えませんのよ。これこそ究極のカモフラージュ、完璧なステルス迷彩じゃありませんこと?」

「……」


 一応は理屈は通っている。

 男を探している誘拐犯やストーカーも、まさかフリフリの服を着た少女がターゲットだとは思うまい。

「木を隠すなら森の中」理論だ。


「桜さん! 止めてくれよ! こんな滅茶苦茶な理屈、通るわけないよね!?」


 俺は最後の砦である桜さんに助けを求めた。

 この人なら警備のプロとして、このふざけた提案を却下してくれるはずだ。


 しかし、桜さんは顎に手を当てて、真剣な表情で考え込んでしまった。


「……いえ。一理あります」

「嘘だろ!?」

「通常、龍弥様の外出には大規模な警備体制が必要となります。黒塗りの車列、十名以上のSP、交通規制……それらは逆に『ここにVIPがいる』と宣伝しているようなものです。対して、女装による偽装工作を行えば、敵の目を欺き、ロープロファイルでの移動が可能になります」


 桜さんの目が、軍師のように鋭く光った。


「女性と誤認させることで、襲撃リスクをかなり低減できると推測されます。これなら、近場のショッピングモール程度であれば、少人数の護衛で対応可能です」

「そ、そんな馬鹿な……」


 俺の希望は打ち砕かれた。

 プロの目から見ても「女装外出」は有効な戦術だと認定されてしまったのだ。


「やったぁ! さっすが桜さん、話が分かりますわ!」

「やったね、リュウちゃん。デートできるね」


 麗華と静がハイタッチをして喜んでいる。

 俺はガクリと項垂れた。

 デートって……俺は男だぞ。


「ですが、さすがにその『聖天使ドレス』では目立ちすぎます。外出用の衣装に着替えましょう」


 桜さんがテキパキとラックから服を選び出した。

 選ばれたのは、パステルブルーのオフショルダーブラウスに、白いフレアスカート。

 頭には麦わら帽子風のキャペリンハット。

 清楚なお嬢様風の夏コーデだ。


「うぅ……足がスースーする……」


 着替えさせられ、玄関に立たされた俺は、羞恥心で消え入りそうだった。

 鏡に映る自分は、どこからどう見ても、麗華や静のお友達の「可愛い女の子」だ。


「あら、とっても似合ってますわよ! 歩き方はわたくしがレクチャーしますから、内股気味に、小股で歩くのですわよ!」

「手をつなげば、こわくないよ」


 麗華が右腕を、静が左腕を組んでくる。

 二人の体温と、甘い香りに包まれて、俺は観念した。


「……わかったよ。行けばいいんだろ、行けば」


 重い扉が開かれる。

 外の世界へ。

 俺は深呼吸をして、一歩を踏み出した。

 東条龍弥としての外出ではない。

 謎の美少女「リュウちゃん」としての、初めての街ブラが始まろうとしていた。

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