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男女比1:100の世界で生き延びる  作者: 功刀


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プライベート旅行②

 自動ドアが滑るように開くと、そこは別世界だった。

 天井を埋め尽くすクリスタルのシャンデリア。

 足音が吸い込まれるような深紅の絨毯。

 そして、壁際にずらりと整列した数十人の従業員たち。


「お帰りなさいませ、麗華お嬢様」


 一糸乱れぬ動きで深々と頭を下げる彼らの姿は、まるで映画のワンシーンのようだ。

 先頭に立つ初老の女執事が、恭しく歩み寄ってくる。


「お待ちしておりました。島の警備状況、及び館内の清掃、全て完璧に整っております」

「ご苦労様、セバスチャン。お客様をご案内してちょうだい。最高のホスピタリティでもてなすのよ」

「御意に」


 麗華は当然のように頷き、テキパキと指示を出していく。

 学校での麗華もリーダーシップがあるが、こうして本拠地での姿を見ると、やはり生まれながらの支配者階級なのだと思い知らされる。

 俺と静は、ただポカンと口を開けて、キョロキョロと首を回すことしかできなかった。


「たつやくん、ここ、お城みたい……」

「ああ……ボクたちの知ってる『別荘』とは定義が違うみたいだね」


 案内された客室エリアも規格外だった。

 廊下の幅だけで、俺の家の廊下の三倍はある。

 飾られている壺や絵画は、鑑定団に出したらとんでもない値段がつきそうな代物ばかりだ。

 俺がおそるおそる壺を避けて歩いていると、セバスチャンさんが微笑んで言った。


「どうぞお気になさらず。万が一割れても、代わりの品は蔵に幾らでもございますので」


 そういう問題じゃない。庶民の精神衛生上、非常に良くない。


「こちらが龍弥様のお部屋でございます」


 通されたのは『ロイヤルスイート』と銘打たれた部屋だった。

 リビングだけで教室より広い。

 キングサイズのベッドは、大人五人くらい寝られそうだ。

 窓からはコバルトブルーの海が一望でき、バルコニーにはジャグジーまで付いている。


「すっげぇ……」

「お気に召しましたでしょうか?」

「最高だよ。住みたいくらいだ」


 俺がはしゃいでベッドにダイブしようとした時、後ろから桜さんが静かに入ってきた。


「荷解きはこちらで行います。龍弥様は少しお休みください」

「あ、ありがとう桜さん。桜さんの部屋は隣?」

「いいえ。私は龍弥様と同じこの部屋を使わせていただきます」


 桜さんは当然のように言った。


「えっ、同じ部屋?」

「はい。不慣れな場所での単独行動は危険です。就寝中も含め、二十四時間体制でお守りいたします」

「で、でも、ベッド一つしかないよ?」

「問題ありません。私はソファ、あるいは床で仮眠を取りますので。龍弥様はベッドを広々とお使いください」


 プロ根性は凄いが、年頃の男子(中身アラサー)としては、メイドさんと同室というのは別の意味で心拍数が上がる。

 まあ、桜さんに邪な気持ちを抱こうものなら即座に関節技を極められそうだが。


 荷解きが終わり、一息つこうとしたところで、部屋の内線が鳴った。

 麗華からだ。


『龍弥! 休んでいる暇はありませんわよ! 窓の外をご覧になって! あんなに綺麗な海が呼んでいますわ!』


 バルコニーに出ると、眼下に広がるプライベートビーチが太陽の光を浴びて輝いていた。

 確かに、これを前にして部屋に閉じこもっているのは野暮だ。


『水着を用意してありますの。ロビーに集合ですわ!』


 ロビーに降りると、そこには既に水着に着替えた麗華と静が待っていた。

 そして、俺用の水着も用意されていたのだが……


「……これ、サイズぴったりなんだけど」


 渡された水着は、俺の体型に完全にフィットしていた。

 色も俺好みのシンプルなネイビーだ。


「ふふん、龍弥のサイズくらい把握していて当然ですわ。さあ、着替えてらっしゃい!」


 更衣室で着替え、再び合流する。

 そこで俺は、思わず息を呑んだ。


 麗華は、鮮やかな赤のビキニ姿だった。

 小学生離れしたスタイルの良さが際立ち、パレオを巻いた姿は南国の姫君そのものだ。

 自信満々にポーズを決める姿が眩しい。


 対する静は、白を基調としたワンピースタイプ。

 フリルがあしらわれていて清楚で可愛らしい。

 恥ずかしそうにタオルで体を隠しているのが、守ってあげたくなる破壊力を生んでいる。


「ど、どうかしら? 似合ってまして?」


 麗華が少し頬を染めて聞いてくる。


「……うん、すごく似合ってる。二人とも可愛いよ」


 俺が素直に答えると、二人は顔を見合わせて嬉しそうに笑った。


「た、たつやくんも……かっこいいよ」


 静が蚊の鳴くような声で言ってくれる。

 俺は照れ隠しに鼻の下を擦った。


「よーし! じゃあ海に行こうぜ!」


 俺たちはサンダルを脱ぎ捨て、白い砂浜へと駆け出した。

 足の裏に伝わる砂の熱さと、波の冷たさが心地よい。


「きゃっ! つめたーい!」

「待てー!」


 俺が海水をかけると、麗華が「無礼者ーっ!」と叫びながら倍の量の水をかけ返してくる。

 静も最初は遠慮がちに波打ち際に立っていたが、俺が浮き輪を渡して引っ張っていくと、すぐに満面の笑みで水遊びを始めた。


 誰もいない海。

 監視の目は桜さんや警備員たちだけだ。

 学校のプールみたいに、女子たちの視線を気にしたり、変に気を遣ったりする必要はない。

 ただの子供として、友達とはしゃぎ回る。

 こんなに解放感のある時間は、転生して以来初めてかもしれない。


「龍弥、見て! カニがいますわ!」

「ほんとだ。捕まえてみようか」

「たつやくん、あっちにお魚もおよいでるよ!」


 透き通った海の中には、色とりどりの魚が泳いでいる。

 俺たちはゴーグルをつけて海中を覗き込んだり、砂浜で巨大な城を作ったり(麗華の指示でベルサイユ宮殿並みの設計図が引かれたが、波にさらわれて崩壊した)して、時間を忘れて遊んだ。


 パラソルの下では、桜さんが冷たいドリンクを用意して見守ってくれている。

 その横には、黒服の警備員たちが不自然なほど真剣な眼差しで海を監視しているが、まあそれはご愛嬌だ。


「はぁ……たのしい……」


 一通り遊び疲れて、俺たちは波打ち際に並んで座った。

 水平線に夕日が沈み始めている。

 空と海がオレンジ色に染まっていく光景は、息を呑むほど美しかった。


「ありがとう、麗華。こんな素敵な場所に連れてきてくれて」

「……ふふ、礼には及びませんわ。わたくしも、こうして友達と海で遊ぶのは初めてですもの」


 麗華が少し寂しげに、でも嬉しそうに微笑む。


「わたしも……一生わすれない」


 静が俺と麗華の手をそっと握る。

 三人で繋いだ手の温もりが、夕暮れの風の中でじんわりと心に染みた。


 修学旅行には行けなかったけれど、俺は今、世界で一番贅沢で幸せな時間を過ごしている。

 この瞬間が永遠に続けばいいのに。

 打ち寄せる波の音を聞きながら、俺は心からそう願っていた。

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