プライベート旅行①
旅行当日。
我が家の前に横付けされたのは、黒塗りのロングリムジンだった。
庶民的な住宅街に全く溶け込んでいないその威容に、近所の奥様方がざわついているのを横目に、俺と桜さんは車に乗り込んだ。
中には既に、満面の笑みを浮かべた麗華と、緊張でカチコチになっている静が待っていた。
「ごきげんよう、龍弥! 最高の天気ですわね!」
「お、おはよう……これ、本当に車?」
車内にはふかふかのソファがあり、シャンパン(中身はノンアルコールのスパークリングジュースだが)が冷えている。
俺と静は顔を見合わせ、苦笑いするしかなかった。
空港に到着すると、一般ターミナルではなくVIP専用ゲートへと直行した。
そこには、純白の機体に西園寺家の家紋である『百合』のマークが入ったプライベートジェットが鎮座していた。
「うそでしょ……」
「ひこうき、かっこいい……」
俺と静が呆然とする中、麗華は自分の家の玄関に入るような気軽さでタラップを登っていく。
機内はさらに凄かった。
座席というよりはリビングルームだ。革張りのシート、大型モニター、バーカウンターまで完備されている。
「さあ、くつろいでちょうだい。到着まで空の旅を楽しみましょう!」
麗華に勧められ、俺たちは王様のような気分でシートに身を沈めた。
専属のフライトアテンダントさんがウェルカムドリンクを持ってきてくれる。
これが上級国民の世界か。
俺のVIP待遇も凄いが、西園寺家のそれはベクトルが違うというか、純粋に富の暴力だ。
しばらく窓の外を眺めつつ空の旅を楽しんだ。
「よし、映画でも見ようか」
俺がモニターのリモコンを手に取った、その時だった。
『当機はまもなく着陸態勢に入ります。シートベルトをお締めください』
機内アナウンスが流れた。
えっ?
時計を見る。離陸してからまだ二十分ちょっとしか経っていない。
「もう着くの? 映画の予告編すら見終わってないよ」
「ふふ、セレスティア島はここから近いですもの。それに、このジェットは最新鋭の超音速機ですのよ」
窓の外を見ると、眼下にエメラルドグリーンの海と、ぽつんと浮かぶ緑豊かな島が見えてきた。
島の中央には専用の滑走路が伸びている。
ドン、という衝撃と共に着陸し、機体が停止する。
タラップを降りた俺たちを迎えたのは、南国の風と――
「……これ、別荘?」
俺は目の前の光景に言葉を失った。
椰子の木が並ぶアプローチの先にそびえ立っていたのは、ログハウスのような可愛らしい別荘ではない。
白亜の宮殿だ。
あるいはドバイあたりの超一流リゾートホテルと言われても信じるレベルの、巨大で豪華絢爛な建造物だった。
「ようこそ、我が家の隠れ家へ!」
麗華が両手を広げてドヤ顔を決める。
「か、かくれが……?」
「大きすぎて、かくれられないよ……」
静の小さなツッコミが、波の音に吸い込まれていった。
俺たちの「修学旅行」は、想像を遥かに超えたスケールで幕を開けたのだった。




