小学校初日
桜並木を抜けた先にある『国立初等教育機関・本校』の正門は、まるで軍事基地のゲートのようだった。
厳重な警備の検問を抜け、無事に入学式を終えた俺は、真新しい教室に足を踏み入れた。
「……ここが、ボクたちの教室だね」
隣を歩く静が、俺の袖をちょんと掴んで囁く。
静も俺と同じ、濃紺のブレザーに身を包んでいる。
少し大きめの制服が小動物的な可愛らしさを際立たせていた。
「うん。静ちゃんと同じクラスで良かったよ」
俺が微笑みかけると、静はパァっと顔を輝かせた。
「わたしも……! たつやくんといっしょじゃなかったら、こわくて学校これなかったかも」
幼稚園の頃に比べれば、随分と喋るようになった。
ただし、その対象は俺限定だ。
桜さんの根回しに感謝である。
どうやらこの学校でも、俺と静の席は隣同士になるよう調整されているらしい。
教室には、既に他の生徒たちが集まっていた。
生徒数は二十人。
公立の小学校なら三十人以上はいるはずだから、随分と少ない。
少数精鋭のエリート教育、あるいは俺というVIPを守るための配置なのだろう。
「……あ」
俺が教室に入った瞬間、ざわついていた空気が一変した。
十八人の女子生徒たちの視線が、一斉に俺に突き刺さる。
その瞳の奥にあるのは、好奇心、羨望、そして隠しきれない独占欲。
幼稚園時代と変わらない、いや、年齢が上がった分だけ理性が加わり、より狡猾さを帯びた捕食者の目だ。
「きゃあ! 東条様よ!」
「生で見ると更にかっこいいわ!」
「ごきげんよう、東条様! わたくし、西園寺財閥の……」
ドヤドヤと群がってくる女子たち。
挨拶もそこそこに自分を売り込もうとする者、さりげなくボディタッチを試みる者、遠巻きに品定めする者。
幼稚園児のような無邪気な突撃ではないが、圧迫感は変わらない。
「うぅ……」
静が俺の背中に隠れ、怯えたように体を震わせる。
大丈夫だ。この程度、想定の範囲内だ。
「みんな、はじめまして。東条龍弥です。これから六年間よろしくね」
俺は笑顔を崩さず、しかし一定の距離を保ちながら対応した。
質問攻めにしてくる子には「それはヒミツ」、触ろうとしてくる手には「握手ならいいよ」とさらりと躱す。
幼稚園での数年間は伊達じゃない。
俺は既に、この女だらけの世界での処世術を身につけていた。
「あと、この子は静ちゃん。ボクの大切な友達なんだ。仲良くしてあげてね」
俺が背中の静を紹介すると、女子たちの視線が一瞬だけ鋭くなった。
嫉妬だ。
だが、俺が「大切な友達」と明言したことで、露骨な嫌がらせは出来ないという牽制にもなる。
「……よろしく、おねがいします」
静が勇気を振り絞って頭を下げる。
女子たちは不満げながらも「よろしくね」と返してくれた。
やれやれ、初日は乗り切ったか。
これから始まる小学校生活も、この調子で冷静に捌いていこう。




