会場の様子
会場へ一歩踏み入れた瞬間ー
(……人が多い)
それが、ヴィクトリアの最初の感想だった。
先に会場へ入ってしまったダニエルの姿を思い浮かべながら、ゆっくりと視線を巡らせる。
だが視界に広がるのは、色とりどりの華やかな衣装、素顔を覆い隠す仮面、そして絶え間なく行き交う人の波。想像していた以上の人の多さに、わずかに息を呑んだ。どこを見ても、似たような背丈、似たような装い。その中から、たったひとりを探し出すということの難しさを、今さらながらに実感する。
幸い、まだ会場の照明は落とされていなかった。おそらく国王からの挨拶があるまでは、この明るさを保つのだろう。人の顔や衣装の細部まで見て取れるほどの光量は、探し人を見つけるには好都合だった。
ヴィクトリアは歩みを進めながら、改めて会場全体へと目を向ける。
天井からは、いくつもの巨大なシャンデリアが吊り下げられている。無数の燭台に灯された光は、まるで夜空に散りばめられた星のようにきらめき、その輝きを受けて大理石の床が淡く光を返していた。磨き上げられた白い床は鏡のように人々の姿を映し込み、空間そのものをさらに広く、幻想的に見せている。
会場の中央には、大きく円形に空けられた空間があり、舞踏会が始まればここで人々が踊るのだろう。その周囲を取り囲むようにして、長いテーブルがいくつも並べられていた。色とりどりの料理が所狭しと並び、香ばしい匂いや甘い香りが漂ってくる。
そして会場の最奥には、数段高く設けられた壇上に、豪奢な玉座が据えられている。そこにはすでに、国王と王妃の姿があった。堂々とした威厳を纏い、静かに場を見渡す国王と、優雅に微笑みながら、招待客たちへ柔らかな視線を向ける王妃。
だが、その隣にある王太子の席は空白のままだった。招待客たちも王太子の不在にざわついているようだった。
(…まだ戻っていないのね)
つい先ほどの衛兵の言葉が脳裏に蘇った。
『殿下とクラウス様はどうぞお入りください』
扉の前で助けてくれた銀髪の青年の姿が思い出される。落ち着いた声に、揺るぎない物言い。
そして、あの場の空気すら変えてしまうような存在感。
(あの人が…王太子だったのね)
今さらながら、その事実が胸に落ちる。
さらにその隣にいた青年もまた様付けで呼ばれていた。衛兵のあの態度からしても、ただの貴族ではないのだろう。おそらく王家に極めて近い血筋か、あるいはそれに準ずる立場の者だと推測される。
(随分と大それた方々に助けられてしまっのね)
思わず、苦笑が零れそうになる。
開始早々、ダニエルに話したい話題ができたヴィクトリアだった。
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本日の18時に続きを上げる予定です。




