⑨町へ
地獄がそこにいた。
「どうやったらこうなりますの?」
一応餓鬼がああ言ったので、
馬車の中に来てみれば、、、
バラバラではないですね、はい。
それより面倒くさいことになってる。
どうやらヤってる最中に始末したらしく、それは別にいいけど。
何で中途半端に、アレがまだ彼女の中の状態で切り落としたのか。
さっぱりわからん。
理由を訊ねたら、
「女がそんなに激しく動いちゃだめって言ったので、
ならそこを切れば後々効いてくるではないかと」
もうどう取り繕えばいいのか、、、いや無理だね。
確かに効いたよ、悪い方へな。
お嬢さん、完全にptsdになってる。
俺がみた時、まだ引っこ抜いてなかった。
ただじっと馬車の天井を見つめてぶつぶつなにかを言ってる。
隣りにいる女性は餓鬼をみた途端青ざめて「殺さないで殺さないで」と言う。
この娘たち皆十代半ばにしか見えない。
それなのにエログロを一気に経験してしまった。
かわいそうに。
「どうすればいいの?」
少し後悔してる表情を浮かべた餓鬼。
コイツにも感情らしいものがあるんか、てっきりサイコパスだと思った。
「うーん」
俺は地面に降ろされて、彼女の中の多くて7歳の幼女をじっと見つめた。
鮮やかなオレンジ色のショットの髪に、少し汚れた亜麻の服。
不思議な娘だ。彼女だけは餓鬼に悪感情を抱いてないようだ。
見る限りまだ大丈夫のようだ。連中もそこまではやってないな。
「お姉ちゃん、名前はなんですの?」
「あたしですか?」
「はい、そう聞いてます」
「名前、覚えてない。」
「そうですか。ちょっと聞きたいですが、
お姉ちゃんは、このおにいさんのこと、怖がらないんですか?
おにいちゃんが何をしたのか、見ましたよね?」
「見た。凄く楽しそうだった。
もっと見たかった。」
これは。。ガチサイコかもしれんな。
それとも小さい頃から歪んだ環境にいたのか。
今後のために使えそうではある。
「そうですか、、、
ね、お姉ちゃん。
私のお姉ちゃんになってくれませんか?」
「貴女のお姉ちゃん?」
「そう。
私ね、家族みんーーな、殺されてしまいましたの。
このおにいちゃんが、私を助けてくれました。
私の唯一の家族なのです。
もしお姉ちゃん宜しければ、私の家族になってくれませんか?
私、シュヴィと言います」
「シュヴィちゃんか、可愛い名前だね。
うん、いいよ!」
隣りで顔を顰める餓鬼、俺が何をしてるかよくわからないようだ。
こうするんだよ
俺はもうひとり、恐怖でパニックで座り込んだ娘に近づいた。
「だいじうぶですよ、私のおにいちゃんは、無意味に人を傷つきません。
おにいちゃんと私も賊から逃げてきた身です。
だからだいじょうぶ、だいじょうぶですから」
短い腕でその頭を抱きしめ、優しくつぶやく。
「もう家に帰れます、こんな所にいる必要はありません」
「、、かえ、れる?
私、家に帰れますの?」
「おにいちゃんがみんなを助けましたよ?
みんなで、町へ帰れますの」
「おにいちゃん?」
彼女は餓鬼の方へみた、身体が震え出した。
「あくあ、アクマが、、、」
「違います、私のおにいちゃんです。彼がみんなを助けました。
彼のおかげで、家に帰れますよ?」
「そ、なのか?」
「そうですよ、おねえさん。一緒に帰りましょう?」
顔を寄せてにっこり笑う幼児の図。
会話を聞いた女たちは『帰れる』という言葉に涙目になっていた。
よほど希望を齎したか、すっかり怯えなくなった。
良かった。
もし無理なら、あの娘だけ残して、全員殺すとかも思ったんだけどね。
そうならずに済むならそれに越したことはない。
これで少なく門番に怪しまれることは免れる。
他の馬車については、どれも一撃で蹴り殺したみたいで、グロいのはなし。
被害を遭って廃人になった女性を除いて、
一応受け入れたと見ていいか。
餓鬼もこれで安心したみたいで。盗賊のお宝を探しにいった。
その間、俺は餌付けされてた。
腹が減ったと言ったら、お姉ちゃんがポケットから干し肉を取り出した。
「やる」
優しいじゃん。全然サイコの欠片もない。
ちなみに彼女に適当な名前をつけてやった。『リナ』と。
あると今後はいろいろと便利だしね。
「ありがとうお姉ちゃん」
干し肉を受け取る。一口噛んだが、噛み切れない。
歯が痛い。
それを見て、リナはくすくす笑った。いい性格だね。
「ちょっと貸して」
言われた通り干し肉を彼女にあげると、その肉を咀嚼し始めた。
展開が手に取るようだ。クソ餓鬼よりかはマシ。
口を開ける、案の定口移しをやるそうだ。
完全に噛み切れたとは言えないが、唾液と混ざった肉のミンチの感じ。
飲み込んだ。これがご飯か、うん、めっちゃマズイ。
「おいしい?」ニコニコと聞いてくるリナ。
「お、おいしいです」
「それは良かった。まだあるからね、ゴブリンの干し肉」
え?
そのときだった。餓鬼が帰ってきた。
「何が見つかりましたか?」
「うん、隠した。町に入ったら見せる」
「分かりました。行きましょう、町へ」
ここで俺は一つ大事なことを忘れていた。
攫われた人間に馬を乗れる奴がいるかどうか。
もしいなかったら、最低五人の賊を生け捕る必要があった。
そういうの全然考えなかった。
幸い馬を乗れる大人の女性が何人もいて、何のこともなかったが。
道についても俺は知らないし、どれくらい遠いのかもわからない。
結局女性たちが頼りだった。
やはり互いに助けるこそ人間だね!
餓鬼に抱きかかえられて、俺はびくともしないゴブリンの干し肉を齧った。
ちなみに、ゴブリンって、ほんとうにある。
家畜と野生のどちらもあるが、野生のゴブリンは凄く珍しいみたいで、
一匹で数カ月の間豪華に食べれるくらいの値段が付くと言う。
俺が齧ってるのは、家畜種でも安い部類らしい。
人間って、末恐ろしいものだな。
しかしまっずいな。何でこんなものを家畜しちゃうんだろう。