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⑲黒瀬 学

☆☆☆

西暦2000年七月に、とある男の子が産まれる。

それはひどく不細工な子でした。


顔のパーツが左右非対称も甚だしく。

その皮膚や唇の青さを見た看護師や医者は、

異様に緊張していた。

奇形児である。

しかも高い確率で厄介な病気を患っている。


検査を受ける。


骨格はもちろん、血管、頭蓋骨、気管といった重要な部位は、みな奇形でした。

その中でも一番ヤバイのは血管で、

いわゆる完全大血管転位症と言う病気が発覚した。

本来血液は右心室から肺動脈を伝って肺に潜り、

肺で酸素交換を行い、肺静脈を通して左心房に、

左心房からは左心室に、最後は大動脈へ流れるものだが、

この病気はこの二つの重要な血管ーーー大動脈と肺動脈が逆になったわけだ。


生まれて早々手術をする羽目になるが。

このとき、病院に駆けつけた父が我が子を一目見て、

顔を顰めてこう言い放った。

「なんだこの気持ち悪いのは」

学の父は三十半ばのイケメンである。

目は鋭く、顔もかなり整っていた。まさしくイケメンであるが。

中身は紛れもなくゴミ人間。

彼はすぐに治療を承諾する一方、妻の不倫を疑った。

自分の子供がこんなに気味悪いな訳無いとな。


さて、ジャテン(Jatene)手術ーー完全大血管転位の根治手術に関しては、

見事に成功しました。幸い学の家庭事情はかなり裕福で、そこだけは本当に運が良かった。


(まなぶ)が記憶を持つときから、父と母は日々喧嘩をしていた。

どうでもいいご飯の味から、歩くときの歩幅までけちをつけて、喧嘩する。

なかでも、学のことで、喧嘩することが多かった。

そうだけども、夫婦は離婚することはなかった。


そんな学の趣味は、意外なことに本だった。

ただ別に知識が好きとか、物語が好きとかじゃない。

本のページを捲って読む、それだけだ。

それだけで、母さんに褒められるから。


彼はあんまり頭がよくない、

絵本を理解するにも四苦八苦している様に、ずっと演じていた。

それもこれも、すべてが母に甘やかされるが為に。

実際のところ、絵本どころか、大人さえ難しいと感じる本も、

五つのときに理解できるようになっていた。

認知能力だけは、尋常ではなかった。


けど馬鹿のフリをし続ければ、母に愛される。

歪んでいる。彼自身も理解していた。

しかし、父親の虐待からひと時の休息は、母とのやりとりしかいなかった。


十歳のある日、学は既に何回も読んでいる絵本を持って、

親の部屋を開ける。

しかしそこには、酒瓶を片手にする父と、ベッドで気絶してる母が目に映った。

血が、ベッドに血が。

「あかあさん、、、?」

学は絵本を捨て、逃げた。

自分の部屋へ、自分だけの部屋へ、逃げ込んだ。

ドアに背を向けて、座り込む。

見つめる。窓の外を。空を。

彼はひたすら見つめていた。

どんよりなその非対称な目で、見つめることしかできなかった。


学校はある。彼もそこへ通っていた。

授業は簡単、小さい頃から本を呼んでるおかげで、そこまでむずかしくはなかった。

でもいい点を取ることは御法度。

母にバレるから、ぎりぎり合格で通してる。

授業以外は、とてもつまらなかった。


そんな陰鬱な彼の目と、何をされてもダンマリな彼の態度が、みなに嫌われていた。

だから当たり前とも言うべきか、彼はイジメられていた。

逃げず、抵抗せず、かと言って泣きもせず、無機物みたいに。

まあ、いじめと言っても、子供の嫌がらせなんて、大したことはない。


集団リンチ。


学を椅子に縛って、数人の男の子が順番で彼の腹を殴る。

それを週に一、二回の頻度で行われる。大体は金曜日か月曜日。

彼らはこれを「マモノ退治」と呼んでる。

ラノベの読み過ぎだ。


だが別に友達がいたことがないでもない。

三年生のときに、学には男の子の友達がいた。

名前は井上律という、可愛らしい男の子でした。


「はじめまして、りつといいます」

ぺこりとお辞儀をする。

周りがどれだけ「やめなよ、あんな子と話すの」と忠告するも、

学には普通に接していた。凄まじくいい子である。

そんないい子で、顔も可愛いゆえに、男の子にも女の子にも、モテてた。

当然学もそうでした。

一目惚れ。そうとしか言えなかった。

まだ男女の差があまりない年頃でした。


けどあるときを境に、律は変わった。

リンチを遭わせる学を、律は見てしまった。

見られてしまった。

当然、学のことを助けようとした。

でも多勢に無勢、律は殴られた。学と一緒に殴られた。


顔がボロボロで、泣きっ面に血が滲み、彼はやめて、僕を殴らないでと願った。

そしたらイジメ集団のリーダーの子がこう言った。

「じゃあ、君も俺たちと一緒にマモノ退治、しようぜ?

そしたらもう君を殴らない、どう?」


躊躇した。一瞬だけ。すぐに頷いた。それも思いっきりに。

痛みは人を変える。痛みは彼を、学の唯一の友達である律を、赤の他人に変えた。

律は泣きながら学を殴った。


痛くない。

学は律の顔を見つめる。

鼻水が垂れてる、ひくひくしている。

「綺麗だ」

学は律に向かって、笑った。

初めてだ。

こんなにいい気分だ。

それは、学が、彼が、生まれて初めて、

この世に、美しいと感じた瞬間だった。


そのときを境に、

律は友達ではなくなった。

「天使だーーー」


それは崇拝と言っても差し支えないモノだった。

「もし生まれ変わるならーー」

オレだけのモノに。


そう思うことすらあった。

しかしシアワセは続かなかった。

中学になった頃、天使は引っ越した。


その日以降。学はひどく退屈になった。

退屈しのぎに、自分がイジメられたところを隠し撮りして、

それを証拠に、いじめてた学生を次々と強迫し、

自殺で死んだ奴までいたが、自業自得としか言えない。



死んだその日までに。

天使とは、二度出会えなかった。

☆☆☆


みーつけた

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