⑭異能
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三人衆は店から出てすぐ、道の脇へと歩いた。
子分二人はボロボロなアニキを支え、後ろについてくる'ナニカ'にビクビクしていた。
慕ってるアニキをあんな風に痛めつける奴、本来憎むべきだったはずの相手が、
可愛らしく鼻唄を混じりながら後ろについてくる。
不気味で仕方がなかった。
猫がゴキブリに勝ったとして、それはごく普通なことだが、
もし猫に勝てるゴキさんが現れたら、それはただただ怖いでしかなかろう。
子供と大人の差は、それくらいにある。
それ故に彼ら二人、いや三人ともに、リアーー子供の皮を被った'ナニカ'に恐怖心を抱き始めた。
親分に叱られることを覚悟した上で、彼らはリアの言葉に従った。
それを、リアは見抜いてる。
しかしあまり関心を持たなかった。
一同はさらに風俗街の南へ歩いた。
途中からアニキさんの痛みも緩和して、漸く歩けるようになった。
店がどんどん減っていき、街灯だけが隣り合わせるよう灯ってた。
光が薄くなっていく。
木々の葉っぱが時々おでこに張り付いてくる。しかしまだつかない。
郊外までいくようだ、リアがそう思ったとき、四方から人が近づいてくる。
足音しか聞こえないが、少なくて数十人はいる。
囲まれたな。リアは軽く首を鳴らした。
「結構だ、遊んでやるよ」
「待って!そうじゃない、彼らはここスラムに住んでる物乞いだ!」
「物乞い?」
適当に一人に向かう。
五、六歳の男児が、目をパチパチと光らせ、リアの顔を見つめる。
脅威には見えない。本当みたいだ。
「この辺りはスラムなのか?郊外だと思ったよ」
「もともと公園として扱う予定だった場所が、
たまたま貧しい人たちがここに集まってて、次第にスラムと化した。
俺らも親分も、みんなここ出身なんで」
ガリガリくんがそう言って、彼らに挨拶をかわす。
リアはどうでもいいと思いながらも、剥き出しの殺意を抑えた。
「もう少しで着くから」
デカブツは震えた声でそう言う。
リア頷いて、男児の頭を撫でる。
男児はなんの返事もしなかった。
光が見える。三階建ての建物がそこにいた。
中からは人の影が見える。アニキさんは前に出て、ドアをノックする。
三回、停まって、もう三回ノックした。
ドアが開くと、褐色の髪に濃いクマ、それからタバコを咥えてる若い女性が現れる。
「あら君たち、もう帰ってきたのか。
うん?この餓鬼は何?」
「すいやせん、親分、金は恐らくもう取れないと思います、、、」
アニキさんはドアの前で土下座する。
「「申し訳ございません」」
続け様に、下っ端二人も土下座した。
「それはもういい。で、この餓鬼はなんだ?」
どうやらこの若い女性が親分らしい。
どうでもいい、早く終わって帰って寝るか。
そう思ったリアだったが。
女は立ったまま、腰から妙なモノを取り出した。
ソレに関する知識は、リアが持ち合わせていない。
だからこそ、脅威とも、恐れとも思わなかった。おもちゃのようなモノ。
「異能持ちか、それも結構ヤバイ系、、、仕方ない。
『殺』してから対策するか」
小さな声でつぶやく女。
リアは当然ぜんぶ聞き取れたが、大して問題視にはしなかった。
女はゆっくりと、ソレをリアに向けた。
小さな筒の先が、リアの頭を捉えた。
リアは口を開けてあくびする、恐ろしくノロマ。
こんな奴が親分って、冗談にもほどがある。
つうか、この女、何をしようとしてんだ?
「親分!コイツは、あの娼館が新しい雇った用心棒なんだ。
めちゃくちゃ強くて、アニキも一撃で倒されてて、
それで親分のところへ連れてくれって言われて、
俺ら、怖くなっちゃって、、、本当に、、本当に、申し訳ございません!」
言い訳を並べるデカブツ。
「ハア」
ただ溜め息をする。
「もういいわ、許すよ、あんたらがポンコツってのも一日二日でもあるまいし」
それを言い終わると、女の指が小さく動く。
「あの?」
茶番を飽きたリアは口を効く瞬間。
ゾッとした。
ヤバイ。ヤバイ。
直感で足が動いた。
上へジャンプする。十メートル、二十メートル。
飛ぶように。
が。音はない。何もない。
トリガーは、まだ引いてない。
だがリアはソレが何なのかすら知らない。
トリガーのことも知らない。
迂闊。慢心。
空へ高くジャンプする自体、悪手でしかない。
女はソレを瞬く間に上へ向く、微調整の域。
鳴らす。バン!
音が、ソレを耳したリアは、意識を失う。
それから、空の中、落ちる前に、忽然と消えた。
ピチャっと。
土下座するデカブツの首に、何かが落ちた。
雨かと思った。
デカブツは手で拭きとると、部屋の光を借りて、それが血であることがはっきりする。
地面にも、数滴の血痕が残ってる。
「死んだな。
けど次からはこうはいかない。
まずは住所を変えようか。
ったく、私だけがチートだと思ったのに、どうもこの異世界、変だわ。
電気があるのにスマホがないとか、異能があるのに、魔法のマもないとか。
ハア」
再び溜め息をする女。
「お前ら、早く上がってこい。
いつまでそこにいるつもり?」
☆☆☆