⑬お仕事(サブイベント)
視点を切り替わる
☆☆☆
ドアが閉じた。
中からはシュヴィの声が聞こえる。
シュヴィから離れるのは、不愉快だ。
適当にあの婆さんから用心棒という仕事を受けたけど、
やる気なんてこれっぽちもなかった。
しかし無理やりここに住まわせて何もしないのも、少し気が引ける。
なぜ僕が下民の用心棒にならなきゃならないのか、リアはちょっと不満を覚えた。
「シュヴィのためだ」それだけ。
なぜそうなったのも、リアにはわからなかった。
階段を降りながらも、頭のなかずっとシュヴィしかいなかった。
その口、その臭い、目と声、髪の毛一本から汗の一滴。
全てが彼のものになった。変な高揚感を感じる。
それはまさしく射○と似た快感であるが、彼はぐっとこらえた。
「がまんだ、まだその時じゃない」
シュヴィに十歳だと思われたリアだが、今年でもう十三歳になる、
夢精も才ナニも経験済み、もちろんオカズはシュヴィである。
階段を降って廊下の右へ進むと、シャルが受け付けのところで三人の男に囲まれてる。
「金がないだと?
もう散々言ったことだろう、店を潰すってよ」
「ですから待ってください、最近売り上げがないのです!
嬢もひとり辞めちゃってて、来月できっと払いますからっ」
「んじゃてめえを売ればいいじゃん。
そんな言い訳、通ると思ったか?」
真ん中の長い黒髪の男が溜め息をすると、前腕より少し長い刃物を取り出した。
険しい空気のなか、リアはゆっくりと前へと歩く。
「シャル、さん、でしたっけ?
何をやってるの?」
気だるさ全開で子供らしく、しかしその場の人全員に違和感を感じさせる声。
真ん中の男はリアに目を向いて、顔をしかめる。
「誰だ小僧、大人の事情に首を突っ込むな」
「まあまあ、どんな事情は知らないが、僕も厄介客としか聞いてないのでな。
取り敢えず、お引き取り願いないかな?」
「小僧、何を言って、、」
「わからないか、消えろって言ってるけど?」
リアはのんびりと笑みを浮かべる。
シャルの前へ、刃物を取り出す男へ一歩踏み込んだ。
男はびっくりした。
生意気な小僧だ、今までこんな子供みたことがない。
しかし切ることもできない。
相手は子供だ、子供を殺したことはまだ一度もなかった。
男は近づいてきたリアの目を見た。
すると、体全体がビクッとした。
「どうした?切らないのか?
こうやって挑発してんのに?」
ガンギマリ。
それは間違いなくヤク中でしか見ることのできない目だ。
男は一歩下がった。
勘でコイツがただの小僧ではないと悟る。
汗が滲んでくる。自分より背の半分もいない子供に圧倒されてる。
「アニキ、この小僧ヤバイじゃない?」
「一旦帰って親分に報告した方がよくないっスか?」
隣りの二人、ガリガリくんとデカブツがそう言った。
どっちも真ん中の奴よりは背が高い。
ガリガリは背が高く体が細い、デカブツは背がでかい上に体がずっしりしている。
けどそれらはあくまでの見せかけ、本人たちはいたって臆病者。
普通ではないにしろ、異常者にもなり損ねた者。
「黙ってろ」
刃物を握りしめ、息を呑んだアニキさん。
まともに使えるのは、男自身しかいない。
たかがボロ娼館の取り立てなんて、
危険な要素一つもいなかったはずだ。
予想外だ。
「お?下がったね、そのまま帰れば僕も助かるがね」
「冗談じゃない、小僧に怖じ気づいて逃げたと知られたら、俺のメンツがまる潰れだ」
リアは一歩近づく。男は一歩下がる。
「逃げないじゃないのか?」
からかうリアに、男は遂にと覚悟を決める。
「金はないと言ったのは本当だな?」
「い、いないです。本当なんです!」
必死に頭を下げるシャルに、リアはあくびをする。
「ならこのことは親分に報告するとしよう、
お前ら、いくぞ」
言って、刃物を仕舞おうとする男。
リアは前屈みした。
それから彼らの反応に及ばない速度で、男の手を蹴った。
チーーんっと、金属が地面に落ちる音。
痛みは遅れて広まる、手の甲から前腕、痺れと痛みが同時に感じる。
「!!!」シャルは青ざめる。
下端ふたりも何が起こったか、まったく見えなかった。
ただ刃物がいきなり飛んで、アニキが「イッテー」と急に言い始めた。
「なあ、その親分ってところへ連れて貰いないか?」
「ぐ、何、をおおーー」
股間に蹴り一発。
膝をつい、奇声を上げるアニキさん。
「理解したよ。君らは別に厄介客じゃないって。
だからさ、一度、きちんと挨拶すべきだと思うんだ。
そうしないと、君ら、店に報復すんだろう?
僕はただ潰しておきたいんだ、
僕の’シアワセ’を脅かすリスクをね」
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