表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/31

⑩クヌート

東へゆっくりと馬車が動いてる。

目的地は東の山ーーライザンの麓に建てられたクヌートという名前の町。

同乗してる若い女性から教わったけど、町の大半は鉱夫とその家族が住んでるらしい。

女性は兄とデートした途中ではぐれちゃってて、運悪く人攫いに遭ったと。

この世界では近親相姦はオッケーらしい。

にしてもずいぶん治安のよろしくない町のようだ。

馬車に揺られて少し気分が悪くなった。

気を逸らす為に外の光景を眺める。前の方から山の影が朧気に見えた。

「おねえさん、ライザンってあれですか?」

声につられて、女性も外を見て確認した。

「違います。あれは南に位置する火山ーーシバです。

こっちだとライザンは見えませんよ、お嬢ちゃん

でも、もう少しで町へ着くはずだわ」


「もう着くだって」

寝てる餓鬼のふとももを叩いた。

「うーん? まだ着いてないだろう、寝かせろよ」

餓鬼は気だるそうに、座ったまま目を閉じた。

リナは無言でこっちにゴブリンの肉を差し出してきた。

圧を感じる。

馬車が止まるまで、誰も喋らなかった。


町より先に、壁が見える。

数十メートルの高さはある黒い城壁が見える。

夕日が空を紫色に染めた。

早く寝床を探さないと、、

「行きましょ」

「わかった。」

餓鬼は俺を抱え、あくびをしながらでっかい袋を背負(しょ)って馬車を降りた。

女どもは一斉に町へ駆け込んだ。

泣いた奴もいれば喜んでる奴もいる。

門番はパニックになったようで、ひとりも止めはしなかった。

今だと言わんばかりに、餓鬼は静かに足を速めた。

群れを成して門を潜る女の中、餓鬼はなるべ俯いて被害者の顔をする。

俺は泣いた振りをした。場をよりカオスする為に。

何事もなく町へ入った。


最初に目に入ったのは、裸の男の集団でした。

「裸?」

何故裸?

疑問を持った俺は、すぐに理由を知ってしまう。

町に入った女たちは、男の集団を見て、誰もが服を脱ぎ去り、その中に飛び込んだ。


「儀式なのです。

ああいうのって、よく起こることです。

仕事のせいで偶にしか町へ帰ってこない男たちは、

集団で生活をしてる。家や妻も持たずにね。

外へ出れば、必ず一人や二人が人攫いに遭います。

多くの場合は売られるけど、たまには助かることもある。

しかし助かっても、身を穢れ、精神を病んだ女たちは、自殺しちゃうのです。

それで、親族や親しい人に身を浄化させるのが、'ラン'と呼ばれる古い舞なのです」


同乗した若い女性は俺たちに解説する。

その背後にリナも来てた。


若い女性は言い終わると、すぐさま服を脱いて、男の群れへ走る。

男のひとりが彼女を抱きしめる。

「兄い!」

「サリ!」

兄と会えたみたいで、笑顔になるお姉さん。

待てよ、、、親族に浄化、、兄、、、

まさかな?


予想は的中した。

ランが。いや、『ラン交』が始まった。

さっきまで仲が良かった裸の兄妹二人が、今度は抱き合った。


俺は絶句する。

なんだこの町、原始部族か何かなん?


餓鬼が少しソワソワし始める頃、リナが声をかけてきた。

「うちにきて。」

「いや、いいよ。金はあるから」

餓鬼が遠慮すると、

「シュヴィはあたしの妹でもあります、一緒に住みたい」

無表情で餓鬼の腕を掴むリナ。

餓鬼も善意に対してどうするべきかわからなかった。

俺は少し不安を覚えた。ゴブリン肉を常備する家庭。

どうも嫌な予感しかしない。


南の方へ行くと、

いかがわしい店がちらほらと並んでる。

店の前に服を着ない女性が接客のをしていた。

その一人——赤い髪の女性がリナを見る途端、笑顔で向かいにきた。


「おい。

どこに消えたと思えば、

なんだ後ろの奴は?」


「シャル姉、こんばんは。

あたしの家族です。

今日からウチに住まわせていいですか?」

一見普通の会話が、もの凄く嫌な感じ。

「うん。

何を言ってるの?

悪いに決まってんじゃん。

一日も仕事をほったらして、オバアがもうカンカンだったぞ?

もうてめえの住む場所がなくなったよ?」


そう言われて、ぼうっとした後、リナはお辞儀をして、土下座する。

「申し訳ありません。

でもあたしにはもうここしか住める所がありません。

お願いです。

オバアに合わせてもらえませんか?」

「無理だね、早く消えろ」

シャルという名の女性は足を上げて、

リナの頭上を踏みつける。

リナ、まったく動じない。

蔑まれることに慣れてるね、これは。

傍で見てる餓鬼が舌打ちした。


一旦荷物と俺を地面に下ろし、二人に近づいた。

「脚を退け、おばさん」

「おば、、誰に口を聞いてる、このくそ餓鬼!」

どう見たって三十歳はある、子供におばさんと言われても仕方ないかな。

だが女性は怒っている。

餓鬼も殺す気満々、ちょっとマズイな。

リナを踏みつけたまま、餓鬼に手をあげようとそのとき、俺は泣いた。

大きな声で思いっきり泣いた。


するとシャルは目を開いて、眉を寄せる。

「赤ん坊?アイツもてめえの家族?」

「そうです」

「、、、ちっ。

オバアに言ってくる、ここでクソ餓鬼と待て」

そう言ってタッタッタと、

古い看板の店に入った。


老婆が出てきた、エビが如くひどい猫背の婆さんでした。

「事情は聞いた。よくも仕事放棄しておいて、赤ん坊を連れてくれるわね。

で、幾らならソイツをワシに売れる?」

「売りません。もしそんなことをしたら、あたしもオバアもあの子の兄に殺されます。」

「兄?この餓鬼のことか?」

倫理感えぐい?

こりゃ俺のミスだね、まさかここまで倫理観が欠如した世界とは。

無闇に姿を表すべきじゃなかった。


「はい。この目で見ました。あっという間で数人の山賊を殺しました。

もしシュヴィちゃんがーーー赤ん坊がいなかったら、シャル姉は恐らく死んでいたでしょ。」

餓鬼を死神のように言うリナ。

餓鬼の頬が赤く染まった。

「ウソを言う娘ではないな。

、、、赤ん坊はもう良い、餓鬼を働かせる。

それでいいな?」

「それは、、、あたしより、彼に聞いたほうがいいです」

老婆が目を細める。

「そうかい。なら餓鬼、うちの用心棒にならないか。

あの赤ん坊を育てるでしょう?

大変だよ、子供を育てるのは。」


「そ。」まだシャルのことをじっと見つめる餓鬼。

シャルさん、冷や汗をかいてる。どうもリナの言葉を素直に信用したようだ。

「なるよ、その用心棒という奴。

シュヴィのためにも、まともなご飯と住所は欲しいし。」

「じゃあ今夜でも頼めるかい?

昨日あの娘が不在中、厄介な客が来て、今夜、うちを潰すだってね。

ワシは怖くて震えましたよ、カッカッカッ

で、どうだい?」

近づいて俺のことを見ながら、餓鬼に問う婆さん。

「ああ。」と答える餓鬼。


見られてる。

出荷直前の牛の気分。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ