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氷晶記  作者: TAKA
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冬の訪れ、そして雪どけ

「アリスちゃん、今日もお手伝いして偉いね。うちの坊主にも見習ってほしいものだ」


「もうすぐ冬だから、お父さんか拾ってきてって言ったの!」


 枯れ枝を数本纏めて腕に抱えたアリサは声をかけてきた農夫に元気よく答えた。その隣には大きな狼犬が寄り添っている。


「ウォフもアリスちゃんの護衛してて偉いな。オジサンからご褒美だ。お家に帰ったら食べなさい」


 農夫は腰につけていた小袋を外すと袋ごとアリスに渡そうとした。しかし、アリスは両腕で枯れ枝を持っておるので受け取れない。


「ああ、両手が塞がっていたな。じゃあウォフに渡しておこう」


 農夫はウォフの鼻先に袋を差し出すと、ウォフは器用に袋の紐を咥えて受け取った。


「ありがとうございます!」


 笑顔でお礼を言うアリスと頭を一度下げたウォフに農夫は手を振って別れた。


 その頃、遠く離れたS連邦の首都では最高権力者である書記長にとある調査報告書が渡されていた。


「ふむ、帝政時代に滅ぼした王国からの戦利品か」


「はっ、当時は滅ぼした国の数も多く、戦利品も膨大な数となっていました。普通の水晶と思われたあれはぞんざいに扱われていたようです」


「宝物庫に紛れ込んでいたが、そのままでも問題ないので放置されていたという訳か。それで今まで気付かれなかったのだら僥倖と言うべきか」


 書記長の言葉を部下は受け流し無表情を貫いた。下手に相槌を打って書記長の考えに背く形となってしまったら、その時は色々な意味で終わりか来るのだ。


「で、産地は確定出来ていないと。絞り込めたのは西方諸国のどこか、という事くらいか」


「申し訳ありません。戦利品を得た時の記録が大雑把でして」


 精度の低い情報だが、調査した者を責めるのは酷というものだった。氷晶の記録は古い戦利品一覧に載っていただけで、いつ何処から奪った物かの記載がなかったのだ。


 調査員達は同じ記録に載っていた宝物から何時の戦争で得たのかを特定し、その際に滅ぼしたのが西方の国だと突き止めたのだった。


「では、西方に調査員を派遣して至急産地を特定せよ。ただし極秘裏にだ」


「はっ、すぐに手配いたします」


 こうしてS連邦から西方の国に向けて調査員が派遣されていった。彼等は身分と目的を隠し割り当てられた地域の調査を行う事になる。


 これから雪に閉ざされる大陸での調査は困難を極めるだろう。しかし彼等には書記長に命じられた任務を拒否する事は出来ないのだった。


 時は流れ冬に差し掛かると、灰色の雲から純白の雪が舞い降りるようになる。その量は段々と増していき、世界を白銀一色に染め上げる。


 遥か西方の小国では小さな少女が大好きなお母さんに抱きついて眠りについていた。その隣の部屋では父親と狼犬が暖炉の炎に照らされている。


「アリスは大きな魔力を持っている。初代と比べても遜色が無い・・・もしかすると初代より大きいかもしれん」


「先祖返りという奴か。それでアリスにとってマズイ事はあるのか?」


「いや、強力な氷晶を作れるというだけだろう。それも現代ではあまり意味がないがな」


 当たり前のように狼犬と話す父親。彼の家系では10歳になると幾つかの秘密を教えられる。これもそのうちの一つだった。


「明かすのは慣例通りで構わないか?」


「多分、な。何事も無ければそれで良いだろう」


「いつも側にいるウォフが話せると分かったら、アリスは驚くだろうなぁ」


 その時のアリスの顔を思い浮かべ頬が緩む父親と、それを見つめる狼犬。母の胸でぐっすりと眠るアリスは隣の部屋でこんな会話が為されているとは夢にも思っていないだろう。


 そして厳しい冬が続き天から舞い降りる雪の量が次第に減っていく。凍えるような冷気は収まっていき、誰もが待ち望んだ春がやって来る。


「漸く雪溶けか。これでやっと調査が出来る」


「学生さん、災難だったな。しかし教授さんも冬に遺跡の調査なんて無理だと思わなかったのかねぇ」


 とある小国にある街の宿で宿屋の主人は笑いながら食堂に座る学生の背中を叩いていた。彼と連れはS連邦で有名な大学の学生で、教授に滅んだ国の歴史を課題に出されたそうだ。


 すぐに準備をして旅立ったのだが、現地に着いた時には既に雪が舞っていた。攻め滅ぼされた王城を調べる間もなく雪が積もり、彼らは街の人達に聞き込みをしていた。


「そう言えば店主さん、ここらで水晶が掘れる鉱山はありませんか?」


「いや、聞いたことは無いな。鉄鉱山ならあるが・・・そんな歴史があったのか?」


「いや、昔水晶が特産の王国があったらしくてね。ここがそこだったら鉱山も調べないとレポートが不可になるかもしれないから」


「それで単位を落として卒業出来なかったら大変だな。多分ここじゃないから安心しな」


 店主は大きな声で笑いながら厨房に戻って行った。周囲の客もレポートの為に頑張る学生を温かい目で見守っている。


 食事を終えて部屋に戻り、荷物を纏めた二人は宿から出て今は廃墟と化した旧王国の王城跡へと向かう。


「さて、ハズレの可能性が高いが調べるか」


「万が一見落としなんてあったら書記長に首を切られるからな」


 学生のフリをした調査員は雪解け水でぬかるんだ地面を踏みしめて歩き廃虚を探索する。手掛かりを見落として物理的に首を切られないように・・・

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