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氷晶記  作者: TAKA
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青い水晶

 世界屈指の大国、S連邦。その西に位置する小国の西の端にある、とある小さな村で新たな命が誕生した。


「あなた、可愛い女の子よ」


「お前によく似ている。きっと美人に育つぞ」


 女の子はアリスと名付けられ、優しい両親と温厚な性格の飼い犬に見守られすくすくと成長した。


「ウォフ、ふかふかで暖かい・・・」


 アリスは飼い犬のウォフに抱きついて眠るのがお気に入りだった。ウォフは嫌がらずにアリスを受け入れ、起こさぬようじっと動かずにいる事が多かった。


「アリス、3歳のお誕生日おめでとう」


「おめでとう、アリス。お父さんとお母さんからのプレゼントだ」


「うわあ、お父さん、お母さん、ありがとう!」


 アリスが3歳になった夜、アリスは両親から誕生日のプレゼントを貰った。それは両親とお揃いのペンダントで、紐の先に青い結晶が括られていた。


「アリス、この石はこの辺りでは珍しい石だ。人に見せたりしてはいけないよ」


「お金になるからって盗もうとする人も居るのよ」


「お父さんとお母さんと一緒のペンダント、盗られたくない!」


 注意されて不機嫌になったアリスだったが、盗られてしまうかもと言われて誰にも見せないと心に誓ったのだった。


 その頃、S連邦では事件が発生していた。この国はかつて帝国であったが、革命により連邦国となった経緯があった。皇帝家が所有していた財宝は連邦政府が引き継ぎ宝物庫にて保管していたのだが、数人の賊が入り込んだのだ。


 幸い逃走時に1人残らず捕縛する事が出来た為、被害は受けなかった。しかし宝物庫の確認はしなければならない。


「全く、これだけの数を確認しろって言われてもなぁ」


「目録が複数あるから照らし合わせるだけでも一苦労だっての」


 確認を命じられた役人は文句を言いながらも確認作業を進めていった。


「あれ?これは何だ?」


「どうした?不審物でもあったのか?」


「見た目はちょっと青い水晶なんだが、目録にそれらしい物が無いんだよ。ただの水晶がここにあるのも可怪しいしな」


 昔は世界一と言われた軍事力を保有していた帝国の宝物庫に、変哲もない水晶があるのはおかしい。水晶を貶すつもりはないが、宝石としては価値が低い事は否めない。


「色も普通の水晶と違うし、上に報告した方が良いんじゃないか?」


「面倒だなぁ。でも、報告せずに何か問題が起きたらその方が面倒か」


 水晶以外の確認を終えた役人は、その足で上役の所に報告に出向いた。


「変な色の水晶?目録に無いのだな?」


「はい、それらしき記述は目録に記載されていませんでした」


「ならば大した物ではないのか・・・一応科学鑑定をさせておく」


 報告を受けた上役は、念の為科学鑑定をかける指示を出して次の業務に移った。そして些細な問題である水晶の事など忘れてしまうのだった。


 そして1ヶ月が経過し、連邦の最高指導者である書記長の所にとんでもない報告が上がってきた。


「この内容は間違いないのかね?」


「技術部によりますと、その水晶に電気を通す事によりかなりの増幅が成されるそうです。しかしいきなり消滅してしまった為、解析を続けるべきかの判断を仰ぎたいとの事です」


「その水晶は幾つ残っているのか」


「残りは9個だそうです」


 電気を劇的に増幅する水晶を上手く使えば、電気自動車などに使う電池を大幅に小型・軽量化出来るだろう。電力が問題となる空母の電磁カタパルトも実戦配備可能になるかもしれない。


「一旦解析は中止せよ。その水晶の出処を全力で探すんだ。ああ、言うまでもないと思うが極秘裏にな。他国には決して気取られるなよ」


「わかりました。調査に携わった科学者達にも口止めをしておきます」


 国の最高権力者である総書記の判断により、謎の水晶の分析は中断され出処を探る方向にシフトする事となった。


「その水晶を大量に独占出来れば、我が連邦は世界の覇権国家となれる。合衆国も共和国も、我が連邦に平伏す時が来るのだ!」


 自分の命令は全て実行される。故に水晶の確保は確定事項であり、連邦はその力で世界を征する。書記長の中ではそれご確定した未来となっていた。


 その頃、遥か西の小さな村では可愛いアイドルが話題の的になっていた。


「今日もお父さんのお手伝いかい、アリスちゃんは偉いなぁ」


「こんにちは、おじさん。今日もアリスはお仕事なの!」


 小さな両手に野菜が入った袋を持ってトテトテと歩く幼女。その脇には少女より大きな狼犬が寄り添っている。


「うちのバカ息子も見習ってほしいよ。ウォフ、アリスちゃんの護衛頑張ってな」


「ウォン!」


 声を掛けられた狼犬は大きな声で吠えおじさんに応える。まるで言葉を理解しているかのようだ。


「よいしょ、よいしょ。ウォフ、お父さんの所に戻るわよ」


 家につき野菜を倉庫にしまったアリスは伏せの体勢になったウォフの背中にしがみつく。ウォフは揺らさないように慎重に立ち上がり早足でアリスの家の畑に向かって歩く。


 大きな狼犬に乗り毎日お父さんのお手伝いをする少女は村人に注目されていた。そして誰もが少女の愛らしさと狼犬の賢さを称賛するのだった。

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