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氷晶記  作者: TAKA
2/5

プロローグ 迷い人

 深い森の中に佇む青年。隣には大きな狼が座っている。ぐるりと周囲を見回した青年は深いため息をついた。


「なあ、ここはどう見てもヴァルト城じゃないよな?」


「幻覚魔法にかかっているので無ければ、ここが城内とは到底見えないな」


 呆れた様子で答えたのは、青年の脇に座る狼だった。狼は立ち上がると顔を上げ周囲の匂いを確認する。


「血の匂いがしない。かなりの距離を飛ばされたか・・・」


「まずいな、一刻も早く戻らねば。我軍が優勢だったとはいえ楽観視出来る戦況ではなかったからな」


 青年は革鎧を着込み金属製の長剣を腰に吊るしている。先ほどまでどこかの戦場に居たようだ。方針を決めた青年は森の中を歩き出す。


「魔王軍の転移トラップに掛かったのか・・・フェル、トラップの兆候に気付かなかったか?」


「全く分からなかった。急いでいたとはいえ、神獣である我が気付かないトラップとはな」


 どうやら青年のお供をしている狼は普通の狼ではないらしい。人の言葉を話している時点で普通ではないのだが。


「やっと抜けるか。結構広い森だったな」


「そうだな。あそこに家がある、村じゃないか?」


 神獣に言われた方向を見ると、青年にも小さく建物の屋根が見えた。漸く飛ばされた場所が分かると自然に足早になる二人。


「待て、血の匂いがする」


 村に近付くと、神獣が青年を制止した。二人は慎重に村に近付くと柵の隙間から中を除いた。


「助けなんか来やしない。素直に食料と女を差し出せ!」


 中央の広場で金属鎧を着た兵士らしき者がうずくまる老人に剣を向けている。その刃は赤く濡れており、老人の左肩が赤く染まっている。


 同じ鎧を着た者が他に二人居たが、剣を抜いた兵士を咎める事もなく下品な笑みを浮かべて事の次第を見守っていた。


「これはどこぞの兵士が略奪をしている現場だと解釈して構わないよな?」


「それが妥当だろうな。力量が分からぬが、我らならば後れを取る事もあるまい。我が向こうから仕掛けよう」


 神獣は柵に沿って走り去り、青年は剣を抜いて飛び出す体勢を整えた。少しして広場を挟んだ反対側から神獣が音もなく走り寄り老人に剣を向けていた兵士の首筋に噛み付いた。


「うわっ、何だこの狼はっ!」


「ちっ、獣なんて切り捨てろ!」


 神獣に気を取られた兵士は青年に背中を向ける格好となった。隙を見せた兵士に青年が駆け寄り鎧の継ぎ目を目掛けて剣を突いた。


「何だお前は!うぐっ!」


 標的となった兵士は突かれる直前で青年に気付いたが、突きを躱す事は出来ずに下腹部を貫かれて倒れた。


「こっ、こいつ!」


 仲間を刺されて憤った兵士が剣を振り上げるが、青年は難なく躱す。そして無防備になった足に神獣が噛みつき振り回した。


「ぐっ、がっ、や、止めてくれ!降参、降参する!」


 振り回された勢いで剣を手放し反撃の手段を失った兵士は戦意を喪失し降参した。咥えていた兵士を下腹部を貫かれた兵士の脇に放り投げた神獣は青年の脇に寄り添う。


「フェル、あのご老人を頼む」


「治癒魔法はあまり得意でないのだがな」


 兵士に斬られていた老人の方を向いた神獣が淡い光に包まれる。次の瞬間、その光が伝播したかのように傷付いた老人も光り出した。


「痛みが・・・これは神の奇跡じゃなかろうか!」


「ただの治癒魔法だよ。掛けたのが神獣だから神の奇跡と言えばその通りかもだが」


 深く切られた痛みが消えた事に驚く老人に冷静に突っ込みを入れる青年。青年の常識では、治癒魔法は使い手が多くないもののそう珍しい魔法ではないという認識だった。


「皆の衆、神様の奇跡じゃ。神様の御使い様がお救いくださったぞ!」


 老人が大声で叫ぶと、少しの間を開けて周囲の家々から人が恐る恐るといった風情で姿を現した。


「兵士は御使い様が倒して下さった。儂の傷も神獣様が奇跡で治してくださったのじゃ!」


「村長、本当かい?」


「ああ、見るが良い。痛みなぞ無くなっておるわ」


 村長と呼ばれた老人は服をはだけて切られた筈の肩を見せる。裂かれて真っ赤に染まった服が間違いなく切られていた事を物語っていたが、村長の肩には傷跡一つ残っていなかった。


「御使い様、神獣様、ありがとうございます!」


「村長を助けていただき、心から感謝致します!」


 集まってきた村人達は、口々に村長を助けた事への感謝を告げてきた。しかし感謝の念を捧げられている青年は浮かない顔をしていた。


「村長さん、お聞きしたい事があるのだが・・・」


「何でもお聞き下さい。儂が分かる事ならば何でもお答え致しますぞ!」


 青年はこの国の名前や付近の国の名前を聞き、大きな都市の名前を聞いた。村長が言うにはこの国は小さな国で隣国に侵略されつつあるという事だが、隣国の名は有名で子供でも知っているとの事だった。


「これはとんでもなく遠くに飛ばされたか・・・」


 青年と神獣は、国どころか世界を越えて飛ばされた事にまだ気付いていないのであった。

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― 新着の感想 ―
エピソード1と2が内容と逆に並んでいるので違和感がとても強く感じられます。せっかくの文章の味わいを損なうのでご注意ください。
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