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「禅輝、走れええぇぇ!!」
「くそおぉぉぉ!!なんで俺がこんな目に!」
あの変態が解き放たれてしまった事を知った俺達は、学校に向かって全力で走っていた。
当然ながらここは公道、罠なんて何処にも仕掛けてはいない。
もしこのタイミングで捕まろうもんなら、俺は骨の髄まであの変態にしゃぶりつくされる事だろう。
それだけは絶対に避けなければならない。
「つ、つか俺が走る必要はなくない⁉︎ユナの狙いはお前だろ⁉︎」
「あっ、てめえ!親友を1人置いて安全地帯に逃げるつもりか⁉︎見損なうぞ⁉︎」
「親友を巻き込んでるお前を見損なうぞ⁉︎」
文句を言い合いながらも全力で学校に向かう2人。
ちなみに2人はそこそこ運動は出来る方で、体育の成績は悪くなかったりする。
だが聖廉寺ユナという化け物には遠く及ばない。
「亮太くうぅぅぅん!!今すぐ、追いつくからねえぇぇぇ!!」
とんでもない勢いと速度で走るユナは、みるみるうちに2人と距離を詰めていく。
その表情、その走る姿勢はもはや獣そのもの。
求愛するメスとは、ここまで恐ろしいものなのか?と亮太を1番はじめに戦慄させたのは、他らなぬ彼女だ。
そして学校までの距離は約1km。
彼女の瞬足を考慮すれば、到着前に捕まってしまう可能性はかなり高いといえる。
だが、学校に入る事さえ出来れば彼らは確実に救われるのだ。
「や、やべえぞ亮太!このままじゃ……はぁはぁ」
「な、泣き言いう暇があったら走る方に力を回せ!が、学校にさえ到着さえすればあの変態も手出しは出来……はぁはぁ……」
息を切らし、汗だくになりながらも一歩、また一歩と足を進める亮太と禅輝。
2人が慌てて学校に向かうのには理由がある。
それは学校が「安全区域」だからだ。
「で、でもユナがあんな取り決めを守るだなんて……はぁはぁ……正直意外だったよな」
「はぁはぁ……守らないと別の学校へ強制的に転校させられる訳だからな当然だろ……まぁ俺としてはそっちの方がありがたいが……」
中学時代……ユナが亮太と同じ高校に進学を希望する際、亮太絡みで問題ばかり起こしてきた彼女に対して重く見た高校側が入学する事と引き換えに、いくつかの条件を提示してきた。
そのうちの一つが安全区域。
それは高校の敷地内にいる間は、ユナは亮太にいかなる場合でも手を出してはいけないというものだ。
これを破られた場合、速やかに系列の別の高校に転校させられる事が決まっている。
これはユナの両親も了承して誓約書に判を押している……即ち、逃れる事が出来ない高校側との契約なのだ。
だがしかし……これは一見、亮太をしっかり守ってくれる様に見えるが必ずしもそうではない。
この契約にはいくつか抜け穴が存在しており、それが今の亮太と禅輝の状況だ。
「てゆか、通学まで契約条項に盛り込んでおけよ……そうすりゃこんな目に遭わねえってのに……はぁはぁ」
「ま、まぁお前はあの【有明】の御曹司だからな……まさか徒歩で通学してくるとは思ってもみなかったんだろ」
「ちゃ、ちゃんと説明しときゃ良かった……」
今になって自身の甘さを嘆く亮太。
だが、甘さを嘆いている時間は今の彼にはない。
「見えたぁぁぁ!亮太くうぅぅん!!」
脅威はもう目の前にまで迫っているのだから。