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「え……い、今ユナの声が聞こえてこなかったか?」
「い、いやいや、流石に早すぎる……予想では最低でも後20分は動けない筈だ。ありえない」
俺の家から聞こえてきた声に、俺と禅輝は表情を強張らせた。
あの変態の肉体データと成長可能性を事細かに計算して仕掛けた今回の罠。
特に超水圧砲に関して言えば、いかにあいつといえど脱出するには相当困難な筈だ。
データ的には最低でも20分は動けないと結論付けたが、これはあくまで「最低でも」の数字。
俺としては今回は抜け出す事が出来ず、俺が学校に着いた後に大迫さんに連絡して罠を解除させるつもりだったのだが……計算が狂っていたのか?
俺が頭をフル回転させて考えていると、ポケットに入れていた携帯が鳴り始めた。
相手は……大迫さん?
「大迫さんからの電話だ」
「とりあえず早く出てみろ!状況の確認だ」
「そ、そうだな……」
俺は携帯を取り出し、禅輝にも聞こえるようにスピーカーにして大迫さんからの電話に恐る恐る出た。
「亮太様、申し訳ありません!超水圧砲の圧力に壁が耐えきれず崩壊し、その勢いで超水圧砲が暴走!屋敷は大惨事に!そしてユナ様が脱出し、そちらに向かわれてしまいました!!早く、お逃げくださ……ゴボボボボ!!」
ツーツー……
……なるほどな。
あの変態の肉体強度ばかり考えて、壁が超水圧砲に耐えれるかどうかまでは考えていなかった。
「あいつの肉体強度は壁よりも高い……か。これはA+からSに上方修正しないといけないな」
「言ってる場合かぁぁ!!大迫さんは大丈夫か⁉︎その超水圧砲に凄い勢いで流されていくような感じだったけど⁉︎」
大迫さんの命からがらの電話に焦る禅輝。
大丈夫か、大丈夫じゃないかと言われたら、間違いなく大丈夫ではないだろう。
あの変態と違い、大迫さんは肉体的にはごく普通の人間だ。
ごく普通の人間があの超水圧砲を受けたらひとたまりもないだろう。
おまけに屋敷は大惨事……状況はすこぶる悪いと言っていい。
だが、こういう時だからこそ冷静になる必要がある。
「禅輝、落ち着け……とりあえず状況を整理するぞ」
「あ、ああ……」
「現状、超水圧砲から脱出したあいつはこっちに向かってきている。そして屋敷は壁が崩壊し大惨事になり、大迫さんは水に流され行方不明……ここから導き出される俺の結論はこうだ」
「だよな、それじゃ早速お前んちに帰……」
「とりあえず、学校に行くぞ」
「大迫さんは⁉︎」
俺が導き出した結論に禅輝は驚きの表情を浮かべていた。
確かに、普通に考えたら大迫さんを救出しに行くのも一つの手かもしれない。
だが、俺達が戻っても恐らく出来る事は何もない。
超水圧砲が暴走し、屋敷が崩壊していく様を眺める事くらいしか出来ない筈だ。
それに加えて、あの変態も自由の身になってしまっている。
即ち、屋敷の人間を救助する際にも俺にベッタリしてくるに違いない。
そうなるとどの道、救助活動は非常に困難な状況になる筈だ。
俺達が行く意味は何一つとしてない……それが俺の考えだ。
「禅輝、冷静になれ!超水圧砲で屋敷は大惨事、そしてあの変態が野に解き放たれてしまったんだぞ?その状況で家に戻って俺達に一体何が出来る⁉︎」
「そ、それは……」
「大迫さんは最後に言ってたよな?「亮太様、お逃げください!」……と。お前は大迫さんの思いを無碍にするつもりなのか⁉︎」
「……」
亮太の強い言葉に禅輝は口を紡いだ。
禅輝は有明亮太について後にこう語っている。
亮太のやつは基本的に優しくて悪い奴じゃないんだけど……
そこそこイカれてるんだよな……