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家を出た俺は学校に向かって歩いていた。
時刻は7時55分。
さっきまでとは打って変わり、風が吹き、小鳥が鳴く音以外は何も聞こえない。
強いて言うなら車のエンジン音が聞こえてくるが……こんな音、変態の奇声に比べたら雑音にすらならないな。
なんならオーケストラの演奏の様に聞こえてくるかもしれない……は言い過ぎかもしれないが、それくらい俺にとって平穏なこの時間は有意義なものだという事だ。
俺がそう思いながら鼻歌混じりに歩いていると、後ろからポンと肩を叩かれた。
「おっす、亮太〜!」
「禅輝、今日は歩きなんだな」
「たまには丘の上から見える下界の民を見下ろしながら、学校までお前とデートするのも悪く無いと思ってな」
「そいつは光栄だが、下界の民って言い回しが気に入らないからデートはお断りだな」
「冗談だって〜(笑)」
そう言って俺に笑顔を向ける男に俺はクスリと笑みを浮かべた。
こいつの名前は【流堂院禅輝】
俺と同じ学校に通う、高校一年生。
小学生の時に出会った幼馴染で、その頃からよく一緒につるんでいる男友達。
所謂親友というやつだ。
そしてあの変態とも昔からの付き合いになる。
「今朝もユナの叫び声が聞こえてきてたけど、大丈夫だったか?」
「それはどっちの心配だ?」
「無論、お前(笑)」
俺が心配だと言って笑う禅輝。
俺と昔からつるんできた影響で、禅輝はあの変態の異常性を十分に理解している。
俺が小学生くらいの頃……あの変態に付き纏われ過ぎてそれを気持ち悪がり、多くの友人が俺から離れていった。
そんな中、禅輝は変わらず俺と友人であり続けてくれたのだ。
今では執事の大迫さんと同様、俺の数少ない理解者でもある。
「ユナのやつも懲りずにスゲーよなぁ。これもお前に対する愛がなせる……ってか?」
「背筋が凍りつく様な事を言うんじゃねーよ……」
「悪い悪い(笑)まぁでもお前が鼻歌混じりに歩いてたって事は今日の罠は綺麗にハマったって事だな?」
「まぁそういう事だ。高電圧電気ネットの方はもう少し改良しなければいけないが、超水圧砲の方は十分に効果を発揮してくれていた。あの感じなら、俺が通学するまでは問題なくあの変態を足止め出来ている事だろう」
「こ、高電圧電気ネットに超水圧砲……もはや人間に使う罠じゃねーな」
「バカ言え……あれを人間だと思って戦っていたら、今頃俺の人生は終焉を迎えているんだよ」
「違いねえな(笑)とりあえず今日は穏やかに通学出来るみたいだし、良かったじゃねえか」
「まぁな」
俺と禅輝は笑いながら学校に歩を進める。
穏やかな平和の世界には笑顔がある。
今の俺と禅輝の様子はまさにそれを体現していると言えるだろう。
友人と会話をしながら学校に通学する。
ありふれたそんな日常の1シーンを、俺は何よりも大切にしたい……俺はそう思うのだ。
だが、ご存知だろうか?
平和というのは未来永劫続くなんて事はない。
そして平和というのは前触れなく突如……
「亮太くん!!今行くからねえぇぇぇぇ!!」
終わりを告げるものだという事を。