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「そろそろ学校に行くとするよ。ユナのやつは今どうしてる?」
「ユナ様でしたら5分程前に電気ネットを抜け出した後、一階にある談話室の窓から侵入し、只今部屋に仕掛けておいたトラップに引っ掛かっております」
大迫さんはタブレットを取り出し、電源をつけて動画を流し始めた。
「ゴボボボボ!!りょ、りょぼたぐん!!たずげ……ゴボボボボ!!」
そこにはとんでもない量の放水を一身に受けるユナの姿があった。
これは一階のとある部屋に設置してある監視カメラの映像だ。
写っているこの部屋には窓を外側から開けて侵入したら反応し発動するトラップ「超水圧砲」を設置してある。
この超水圧砲の威力は、消防車の放水圧の約40倍。
正面から受けてしまえば壁に叩きつけられ、腕一本動かす事も出来ない程の圧力に晒される。動きを完全に止めるにはもってこいの罠だと思い海外から高額で購入し、設置した訳なのだが一つ想定外の事が起きていた。
「ゴボボボボ!!い、いぎがでぎな……ゴボボボボ!!」
水圧で息が出来なくなる事までは考えていなかったな。
はっきり言ってあいつは異常だ。
これまであらゆる罠を試してきたが、あいつは尽く乗り越えてきた。
電撃、炎は勿論、並の刃物では肉体に刃先すら刺さらないという程頑丈だ。
故に俺は忘れていたのだ
あいつも「一応」生物だという事を……
いかに人間離れした強度の肉体を持つ変態でも、生き物である以上は酸素を取り込めなければひとたまりもない。
流石にここは助けに行くべきか?と考えたのだが……
「ゴボボボボ!!ごのみずばりょぼだぐんの愛の量、ごのみずばりょぼだぐんの愛の量!」
うん、やっぱりやめておこう。
これだけ喋れているなら、まだ余裕がある筈だ。
そもそもあいつ、新しい罠にハマった直後は毎回苦戦するんだけど、罠にかかってる内に体が慣れてきて最終的には攻略してくるんだよな。
今回も体が慣れてくる数十分後には抜け出してくるだろうと俺と大迫さんも予想している。
と言っても、あれでも「一応」生物だ。
酸素が必要である以上、万が一の可能性は否定出来ない。
「大迫さん、映像を確認して本当にやばそうなら助けてやってくれ。ただし、気を失ってる事を確認してからでお願いするよ」
「かしこまりました。念の為に部屋の前に人員を送っておきます」
そう言って大迫さんは携帯を取り出し、使用人達に連絡していった。
断っておくが、俺はあの変態を憎んではいるが殺したい訳ではない。
そんな事をしてしまったら犯罪になってしまうならな。
罠はあくまで撃退or足止めの為のものだ。
そこは勘違いのないようにとだけ言っておこう。
「んじゃ、俺は学校に行ってくるから後の事はよろしく頼むよ」
「かしこまりました。亮太様、行ってらっしゃいませ」
俺は靴を履き、扉を開けて家を出た。
ちなみにだが俺が朝、まともに家を出る事が出来る確率は約72%
この数字を高いとみるか低いと見るかは人それぞれだと思うが、この数字は俺と大迫さん……そして他の協力者達が日々研鑽している結果だという事を忘れないでいただきたい。