プロローグ【愛が生み出した不条理な怪物】
時間は午前7時10分。
俺はカーテンの隙間から差し込む光で目が覚めた。
自室のふかふかベッドで寝ていた俺は体を起こし、両手を上に挙げて軽く伸びをする。
その後、ベッドから出た俺はカーテンを開けて、外の景色を見るのだ。
そこには綺麗に手入れされた広い庭があり、俺はその庭の草木の上で戯れる小鳥達を見て一日の始まりを感じとる……なんていうのは理想でしかない。
「あばばばばばばばばばぁぁぁぁ!!」
現実はこれだからだ。
俺は庭に仕掛けておいた電気ネットに引っ掛かって感電している馬鹿な幼馴染を見て、深く溜め息を吐いた。
カーテンの隙間から差し込む光で目が醒める?
そんなもんが差し込む前に、変態の奇声がこだまして目が醒めとるわ。
「りょりょりょりょーだくんんん!ばばばやぐ、ごの罠がいじょじでえぇぇぇ!!」
「解除したらおとなしく家に帰るか?」
「そぞそそそればむりぃぃぃぃぃ!!」
「なら解除も無理だ」
「ぞんなあぁぁぁばばばば!!」
俺は開けたカーテンを静かに閉じた。
あの変態は近所に住んでいる幼馴染。
名前は【聖廉寺ユナ】という。
俺とユナは15歳の高校生で同い年……そして同じ病院、同じ日に産まれたのだ。
家が近所という事もあり、親同士が意気投合。
早い話し、俺達は産まれた時からの付き合いという事になる。
「りょーたくん、ちゅき!ゆなをおよめさんにして!」
俺は5歳の時にユナから告白された。
顔を真っ赤にしたユナを俺は今も鮮明に覚えている。
そして、この頃のユナは普通に可愛く見えていた。
だからその告白に俺は「うん、いいよ!」と答えてしまったのだが……今でも死ぬほど後悔している。
何故なら、あれが悪夢の始まりだったからだ。
「りょーたくん!だいちゅきー!!」
ユナは毎回そう言って所構わず俺にベッタリしてくる様になった。
友達と遊ぶ時も、飯を食べる時も、トイレに行く時すらもな。
金魚のフンの如く纏わりついてくるユナ。
そしてそれに耐え切れなくなってきた頃、俺はあいつに告げた。
「お前なんか嫌いだ!!」
これが俺達が7歳の頃。
2年間も耐えた当時の俺を褒めてやりたいくらいだが……これで終わるのなら、今の俺の苦労はない。
「だいじょーぶ!ゆながその分、りょーたくんをだいすきだから!」
当時から日本語がまるで通じていなかった。
そしてこの頃から行動は更にエスカレートし始めたのだ。
朝起きて部屋の扉を開けたらあいつがいる、家に帰って部屋の扉を開けたらあいつがいる、家のトイレの扉を開けたらあいつがいる、そして出かけ先の男子トイレの扉を開けたらあいつがいる……
一時期、俺が開ける扉は全てあいつがいる場所への直通になってるんじゃないか?と錯乱している時期すらあった。
究極のストーカー気質……それが聖廉寺ユナの本質だった。
それが分かってから、俺はユナを遠ざける為にあらゆる事をしたが、そのどれもが失敗に終わった。
そして俺は13歳になった頃、一つの決断を下した。
「今日からお前は俺の敵だ!今後、俺の領分に踏み込んできたら容赦なく攻撃して叩き潰してやるから、覚悟しやがれ!!」
俺はユナに宣戦布告をしたのだ。
これ以上俺の周りをウロチョロするなら、お前を倒す事も辞さない……とな。
正直、これくらいでこいつのストーキング行為が収まるとは思っていない。
俺としても本気で戦うつもりで発言した事だ。
だが、敵とまで言われたら、流石のこいつも何かが変わるんじゃないか?と考えていた。
そして結論を言えば、こいつは変わった。
……悪い意味でな。
「その亮太くんの容赦ない攻撃を耐え切る事が出来れば、ユナの事を愛してくれるって事ね⁉︎分かったわ!!」
日本語が通じていないどころの話しではなかった。
この人の話しを全く聞かない自己中心的な性格、もはや何を言っても意味はない……俺は全てを悟り、覚悟を決めた。
「絶対にブッ倒す!!!」
こうして俺とユナの戦いが始まった。




