ロイ1
ロイはずっと好きだった女性がいた。リナ・ブラウン、結婚後は、リナ・ノアという女性だ。
少し前までこの国は、王都騎士団と辺境騎士団の仲は最悪だった。
国一丸となって戦わなければならないのに、お互いがお互いの足の引っ張り合いだ。
ロイはうんざりしていた。
父親にも、辺境騎士団にも、王都騎士団にも。
学園でも辺境派と王都派対立している。
ロイとリュカとリナは同級生だ。リナはブラウン家は中立でどちらの派閥にもついていなかったため、ノア公爵家との婚約がまとまっていた。
王命による政略結婚だ。リュカは割り切っていたし、リナとの仲も悪くはなかった。
ただ、リナだけが恋愛感情を持っていたのだ。
ロイは表立ってはリュカとは関わらなかったが、裏庭で偶然会ったり、街のお店で偶然会ったり、トイレで偶然会ったり、学校でよくすれ違ったり、「俺たち偶然しすぎだろ!w」と実は仲良くなっていた。そんな中で、リナを紹介された。
ミルクティー色のふわふわの髪で、ブラウンの瞳をした可愛らしい女性だった。その見かけによらず気が強く、女性騎士を目指していた。そして、リナはほかの女性と違い、ロイのことを怖がらなかった。ちゃんと目を見て話してくれる女性だった。
正直言って一目惚れだった。可愛らしい姿に反して、気が強く、曲がったことが大っ嫌いで、正々堂々としていた姿にも好感を覚えた。でも、リナはリュカの、親友の婚約者だ。王命だし、リナだけが今はリュカを好きと思っていても、夫婦になればリュカもリナのことを好きになる、大切にしてくれる。この気持ちは持っていてはいけないものだと分かっていた。でも、どうしても恋心を捨てきれなかった。
卒業後18でリュカと結婚し、リナ・ノアとなった。
「リナを絶対幸せにしろよ」リュカにそう伝えた。もしかしたらリュカは俺の気持ちに気付いていたかもしれない。
「あぁ、まかせろ」
リュカは言った。
ただ、リナとリュカが結婚しても、ルイスが生まれた後も、だれにも恋愛感情を誰にももてずにいた。リナを忘れられずにいた。
翌年自分の縁談話はあったが、辺境という過酷な場所に嫁ぐということの他に、顔がこわく怯えられてるのもすぐ伝わり、断られることが多く、自分の結婚には結びつかなかった。結婚自体あきらめていた。
自分は結婚しなくても将来は弟か妹の子を養子に・・・なんて、考えていた。
しばらくして、急にリナの訃報が届いた。急だった。リュカの代わりに領地へ向かう途中賊に襲われたようだった。リナも戦い、護衛も戦ったが、護衛はすべて殺された。そして、リナは自決を選んだ。
「リナを幸せにするんじゃなかったのかよ。お前の代わりにリナは死んだんだ」八つ当たりだった。リュカはロイの拳をすべて受け入れていた。
それからリュカとは連絡を取らなくなった。自分は辺境伯騎士団、リュカは王都騎士団、もともとすむ場所が違う。
久しぶりに再会したのは、妹が幼児誘拐事件にかかわった時だった。




