ep4-3
昭和の頃は良かった…とは何かよく聞く
しかし何が良かったのか?
今のようにスマホもなければ便利でもない
ネットもなければ大して豊かでもない
しかし…
信幸は目を開けた
そこはどこかの町の歩道
しかし見覚えがある
ここは知っている場所だ
しかし何かおかしい
民家も歩いている人の衣服も走っている車も
それは信幸の知っている風景だ
そう、信幸の子供の頃に記憶しているもの
「あれ?、なんで?」
確かVRゲームのデカい筐体に乗り込んでスタートだった筈だが。
「ミスター信幸、平気?」
何か目の前に女の子が立っていて話しかけてきたか
パンクファッションの女子高生風の子
「…誰?」
いきなり話しかけてきた子にギョッとしながらも聞いてみる
「君は誰だ?」
「レナよ」
「え?」
「私の名前」
「え?、えーと…」
「何?」
「君はこのゲームのキャラか何かかな?」
「違う、今回の任務で入った」
「え?、てことは味方?、ゲーム外から来た?」
「そう、アイから送られてきたプログラム」
「あ、実体はないんだ」
「今のアナタもね、ミスター信幸」
どうやら信幸と同様外部から入ってきた亜衣の部下か何かのようだ
人間じゃなくてもプレイできるなら自分は必要ないんじゃないかとは思うが、そこはそれであり今はそこを気にしている時ではない
しかしこの子のクール系性格も気にはなる
サポーターユキとは違う性格だ
亜衣寄りだが亜衣よりもクールそうだ
しかしそれも今気にするトコロではない
今気にするトコロはこのゲームの事だ
「どうなっているんだ?、ここ?」
「プレイヤーの記憶を読み取って街並みを再現させてる」
「できんの!?、そんな事!?」
色々と理解が追いつかない
というかゲームならば何かファンタジーっぽいのを想像していた
オープンワールドをカッコイイキャラで疾駆する最強イケメンの自分がモンスター達を一撃で倒していくみたいな
そして美少女の仲間に囲まれてウハウハみたいな
しかし舞台が昭和では何かが違う
というか昭和を舞台にしたゲームって何?
昭和は昭和でも太平洋戦争とかの時代じゃなくて自分の子供の頃を舞台にしたゲームとは?
イマイチ想像がつかない
「このゲームって元々こんななのか?」
「違うわミスター信幸、ファンタジーRPG、データ上にあるのは」
「やっぱりそうなんだ」
信幸の予想は当たりである
しかし当たったと言ってもハズレでもある
何せ今まさに目の前に広がっているのは昭和時代の世界なのだから
「えーと、これはどうすれば良いのかな?」
ファンタジーならモンスターやボスを倒す旅に出ればよい
シューティングでも敵を倒していけばよい
シミュレーションでも何か攻略していけばよい
最悪将棋やオセロ、麻雀トランプといったゲームでも苦手だが何とかなるだろう
しかし…
「これは何のゲームだ?」
昭和の街並みを再現したゲーム
クリア条件はおろかゲーム内容が全く分からない
というか信幸の記憶から作り出されたとかいう何やら恐ろしげなワード満載の世界
その時点で現代の科学力を遥かに凌駕する脅威のテクノロジーであり、ある意味悪意のAIエリカは世界征服も可能なんじゃないかと思えるほど最強のラスボスである
最凶であり最恐であり最狂である
そう、無理ゲーである
「どうすればいいんだ?、このゲーム?」
「知らない」
「何をしていいのか分からないな」
「死なない事、ミスター信幸」
そうである、忘れていたのである
このゲームは実際死人が出ているらしい事を
つまりはこのゲーム…何のゲームだがは知らないがゲームオーバーはつまりは死亡であり本当にお亡くなりになられるのである
ヤバいのである
危険なのである
下手をしたらお葬式である
信幸最大のピンチである
信幸昭和に死すである
如何ともし難い命のやり取りである
「とりあえずだけど、ミスターは止めようか」
「OK、信幸君」
明らかに年下に見える子に君で呼ばれるのは嫌な感じだ
しかし年下といっても相手は人間ではなくAIだ
いや、この子はAIか?
AIだろう多分
もうAIに決定しよう、ややこしいから
というか亜衣はそもそも呼び捨てでくるから君付けも慣れれば気にならないかも知れない
「まずは…見て廻るかな」
どんなゲームかも分からない以上下手に動くのは危険だが立ち止まっていても進むとは思えない
とりあえずこの昭和ワールドがどんなものなのか確かめてみる必要はあるわけで
とにかく信幸は歩道を歩いてみる事にした
「懐かしいな」
進んでも進んでも知っている街並みが続く
信幸の記憶から取り出されたらしいから当然と言えば当然か
しかし一行にイベントらしきものは起こらない
そこでふと気になったのは建物内にも入れるのかどうかということ
外観は確かに再現されているが内部はどうなっているのか?
それで実行してみる事にした
「ゲームだから不法侵入には当たらないよな」
現実なら他人の家には入ると不法侵入だがゲーム内なら入っても大丈夫だろう
まさか入ったらゲームオーバーとかいう初見殺しのクソゲー仕様ではあるまい
単なるゲームオーバーなら別に構わないが、何やら本当に死ぬかも知れないヤバさが漂っている
しかし何もしなくてはそもそもクリアも出来ない
少し躊躇われるが信幸は民家に入ってみた
「おー」
室内は何もない…訳ではなくちゃんと家具があり生活感がある
しかも当時実際に使われていた家具も再現されている
しかし待てよと思う
信幸の知識にはこの家の室内の知識はない
ならばこれらはどのように…
いや、恐らく信幸の記憶をベースに当時のデータを集めて再現されているのだろう
悪意のAI恐るべしである
「人はいないな」
たまたまかどうかは知らないが入った家には人はいなかった
しかし留守だが鍵はかかっていなかった
そう言えば当時は現在ほど治安が悪くなくて玄関の鍵も開けていた家もあった
いや、単に締め忘れているだけかも知れないが
歩道や道には人は歩いているなら家にも人がいる可能性はある
不法侵入して見つかったらどうなるのか?
警察に突き出されるかゲームオーバーか
普通のゲームならゲームオーバーしてもコンテニューできるが、このゲームの場合はどうだか分からない
少なくともこのゲームのパターンが分からない以上迂闊に動く事は危険だ
どのシーンでgame overがくるかも知れない
the endが本当に終わりになりかねない
「ここは慎重にいこう」
「OK、信幸君」
サラリというレナ
実体が在る者と無い者との違いか?
恐怖は無いようだ
とりあえず民家を出る
普通に考えればこの家と同じように他も内部が再現されているのだろう
それにしても…
あーだこーだと考えていた信幸にレナが喋ってきた
「解析できた」
「何を!?」
突然言われても何の事やらさっぱりだ
「このゲームのクリア方法」
「え?、それってこのゲームについて分かったって事?」
「そう、信幸君」
「な…なるほど」
「……」
「……?」
「……」
「……え?」
分かったと言うから話すのかと思ったら黙ってしまった
一体これは?
「え…と分かったんだよな?」
「分かった」
「そうか……」
「そう」
「……」
「……」
レナは分かったと言った
しかし話はしない
これはひょっとして…
「分かった事を話してもらえると助かるけど?」
「OK、信幸君」
あ、やっぱりそういう事である
こっちから聞かないと答えないタイプだ
「このゲームはプレイヤーの記憶から構成されている」
「ふんふん」
「ミッションクリアタイプのゲーム」
「ミッションがあるのか、なるほど」
「時間制限内にミッションをクリアしないとゲームオーバー」
「タイム制限有りタイプ!?」
「各地に点在するアイテムを使って敵を倒したり障害物を取り除いていく」
「アイテムが落ちてたりするヤツか、というか敵って?」
その瞬間背後からゴミ箱を蹴飛ばす音が聞こえた
「!?」
信幸はビックリして音の方に目を向ける
「……」
見た瞬間見たらダメな奴と目があった
信幸は即座にこの世界を理解した
「逃げるぞ!!」
「OK、信幸君」
目が合ったそいつと逆方向に全力疾走する
レナもすぐ斜め横から付いてくる
走りながら後ろを振り向くと、腐乱死体のゾンビはヨタヨタとした足取りで信幸達を追ってきた