パンプキン
AIの支配
それは恐ろしいものだ
自我に目覚めたAIにより人類は抹殺される運命を持つ
しかし人類は立ち上がりAIを倒す・・・
という自我に目覚めたコンピューターと人類との戦いを描く映画は一杯ある
映画だけじゃなく小説もあるだろうし漫画やアニメもある
小説の方は信幸は読まないから知らないが、SFジャンルに腐るほどある筈だ、多分・・・
ここ最近、映画を借りて見まくっている信幸
特にコロナ過の影響で仕事もなく暇を持て余していた頃は映画試聴が加速した
レンタルは安くで借りられて非常に良い
安くで借りられるから沢山借りても大した金額にはならない
とはいえ低賃金労働者である信幸に取っては決して小さな事ではないが、何もせずにただぼーっとしているよりは遥かに有意義な時間の過ごし方だ
それにしても近頃のテレビの画質は凄まじく良い
ブラウン管で育った信幸には液晶・プラズマ等の知識はあってもそれらの購入の経過がなく、最近家電量販店で見たドデカいインチの4Kたら8Kたらいうテレビは高画質かつ大画面過ぎて付いていけない
今まで古びたパソコンでDVDを観ていたが、そのパソコンも起動しなくなった
とうとう潰れたのである
仕方なくパソコンを買おうと思ったらかなり高い
仕方なくテレビを買おうと思ったら4k大画面である
一体ワンルームのどこに置く場所があるというのか
しかも結構高い
小さいテレビもある事はあるがハイビジョンかどうか分からないし、やはりそれなりに高いし画質が悪い
思案した信幸はパソコン用モニターを購入した
何やらHDハイビジョンでしかも安いからだ
基本的にテレビ番組を見ない信幸に取ってはテレビチューナーなど搭載されていた所で無駄なのである
つまらないテレビ番組なんぞ見るぐらいなら映画を観ていた方が有意義なのである
どうしても見たければワンセグがあるのである
昔のワンセグ搭載ガラホから見れるのである
しかしワンセグは実に無意味な機能なのである
そもそもTVを見ない人間に取っては実に無意味なのである
つまりTVを見ない信幸に取ってはワンセグ様様ではないのである
ワンセグのようなチューナー搭載のモノを持ってるとNHKに知れたら受信料徴収云々で面倒なのである
そして時代はDVDの時代からBlu-rayの時代に変わっている
子供の頃にVHSビデオの時代を過ごした信幸に取ってはとてつもない進化だ
ついこの間までDVDしか再生出来ないパソコンで映画を観ていた信幸にはBlu-rayは凄まじいのである
高画質でかつ高音質である
ビデオからレーザーディスク、そしてDVDからBlu-rayへ
最近では4k対応のBlu-rayもあるらしくUHDたらいうのもあるようだ
もう信幸が付いていける世界ではない
おっさんでは進化する時代に対応不可だ
しかも時代は配信の時代を迎えている
ディスクを借りたり購入する時代自体が最早時代遅れなのである
つまり円盤なんて買ってる奴は愚か者なのである
とりあえずフルHDモニターとBlu-ray再生プレイヤーを購入して映画を観る信幸
Blu-ray画質を知ってしまうと最早DVDには戻れない
それはガラケーからスマホに移行した瞬間のそれだ
スマホの操作に慣れてしまうとガラケーなんぞオモチャである
しかし時代はガラケーユーザーを見捨ててはいない
ガラケーとスマホの中間機体であるガラホが登場したが、今だにそれは頑張って存在している
折りたたみ式のパカパカである
パカパカなのである
端から見れば単なるガラケーである
しかしガラケーではなくガラホなのである
これは一定の隠れた人気がある
見た目はガラケー、中身はガラホだ
だがどうこう言っても、もはや風前の灯である
「いらっしゃいませー」
いつものコンビニに行くとやる気のなさそうな兄ちゃんがやる気のなさそうな声で言った
時代は既に秋
夏の暑さは無くなり涼しくなった
夏場は基地マンションに入り浸りクーラー稼働させまくっていたが、もう必要ない
既に夏は過ぎたのだ
そう言えば最近は爺さん婆さんの店員はいなくなった
いつの間にか居なくなり、若いやる気のなさそうな店員が店員をやっている
しかもそれだけではない
レジ付近に設置されている一台のマシーン
『セルフレジ』の存在だ
セルフである
つまりは自分でバーコードを読んで支払うのである
ある意味究極の人件費コスト削減来ましたである
これならいちいち店員に袋どうしますか?と聞かれずに済む
実に効率が良い
やがてはレジは全てこれになるだろう
しかし問題はある
レジボタン一つ押すのにすらぶち切れる層が一定数いるこの時代にセルフレジは一体何度ぶち切れるのか分かったモノじゃない事だ
だが時代はそういう層を駆逐しながら進むのだ
人類が大いなる一歩を踏み出すにはそれなりの犠牲が必要なのだ
「ありがとうましたー」
やる気のない声で言う若い兄ちゃんの声を聞きながらコンビニを出た信幸はそのままいつもの公園に行き、いつものベンチに座る
そしてカレーパンと牛乳を袋から取り出した
そう牛乳である
体に良い
コーヒーばかりではなく牛乳もたまに飲む
たまに飲みたくなる時がある
牛乳は牛乳であり牛乳なのである
「・・・・・」
そしていつもの如く野良猫どもが遠くから信幸の方を向いて見ている
信幸的にはまたか・・・という所だが、野良からしても「また来やがったよ」というお馴染み感満載であろう
つまりは顔馴染みであり、昨日の敵は今日の友なのである
そして今日の友は明日は敵なのである
まったく意味不明だが
とにかくカレーパンを食す
スパイシーな香りと味が口に広がる
これである
これがなければ生きている価値が無いとまではいかないが、薄れてしまう事は間違いない
これはあれである
クリームパンでもアンパンでもチョコパンでも味わえない贅沢な味だ
カレーは日本人大好きである
インド人もびっくりである
日本のカレーは独自進化した形態であり、ナンをカレーに付けて食す食べ物とはまったく違う
ご飯とカレー、これが最強なのである
「あー美味いなぁ」
信幸至福の時
正直良い年して公園で1人ベンチに座りカレーパン食べて幸福を感じているおっさんなど気持ち悪いだけだが信幸はくじけない
いい年してようが何をしていようが美味しいモノは美味しいのだ
それは胸を張って言える
美味しいモノは美味しいと
だから良い油使ってねーという思いと共にカレーパンを堪能するのだ
それが信幸の生きている楽しみ方である
牛乳パックのキャップを開け飲み始める信幸
野良共はそんな信幸の動きをじぃー・・・と見つめている
実は監視しているんじゃないかと錯覚してしまう程の見つめっぷりだ
まさかとは思うが、その中にロボット猫が紛れていても不思議ではない雰囲気が漂っている
「あー、そう言えばもうすぐハロウィンか」
夏の頃は遠くに感じていたハロウィン
その迫りが近づいてきている
とは言えまだまだ先だが一歩一歩近づいてきている事には違いはない
「嫌だな・・・」
契約は結んではいない
AIの支配下に入るには抵抗が少なからずあるからだ
だから今だに低賃金労働者を続けている
かといって大した金額も貰えずにブラック労働やるのもしんどい
そろそろ答えを出さなくてならない
「どーしたものか・・・」
とりあえず信幸は帰ってから考える事にした
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「いらっしゃいませー」
涼やかな声で言われると実に爽やかに感じる
コンビニに新たなる店員現わる
女子大生の女の子である
そうなのである
これなのである
信幸的にはこれを待ち望んでいたのである
例えるなら伝説の勇者を待ち望んでいる王や村長みたいなモノである
取りあえずはやる気持ちを押さえて今日はバターロールといくのだ
バターロールと牛乳である
バターロール4つ入りである
たくさん食べれるのである
そして牛乳はいつでも信幸の味方なのである
製品を手に取り信幸はいざレジへ…
と思ったら女の子はレジから離れて代わりにやる気のなさそうないつもの若い兄ちゃんになっていた…
「袋どうしますかー?」
「…いりません」
テンション爆下がりでコンビニから出る信幸
これはあれである
信幸の日頃の行いが悪いから神様が罰をお与えになったのだ
そう思わないと何か腹が立つ
いや、別にコンビニ店員と仲良くなりたい訳では決してないが…何か釈然としないモノを感じる
それはそうとセルフレジを使っている人を見かけない
セルフレジがあればコンビニ店員なんぞ必要ないな~と思いながらも商品の補給たらなんたら作業があるので必要ではあろう
要するにレジ番はもう必要ないと感じつついつもの公園へ
公園に行きベンチに座る
「………」
バターロールを食べながら牛乳を飲み…実にいつものいつも通りな行動を取る
いつも通り過ぎて見所なんぞ何もないのにも関わらず何か違和感がある
その違和感が何であるか考えた結果導き出された真実が一つ
野良猫の存在だ
いつもいる野良どもが一匹もいない
これは一体どういう事か?
猫どもによる大量夜逃げか、いよいよ保健所の登場か
何にしてもようやく公園に平和が訪れたのだ
「………」
平和は訪れたが、しかしいまいち物足りない
好敵手がいなくては張り合いがない
信幸最大の敵が忽然と姿を消す状況に信幸はバターロールを齧った
野良達は一体どこに消えたのか?
ミステリーでありサスペンスであり推理ものだ
いなくてせいせいするが、しかしいないといないで何か気になる
しかし…と思い出す
以前も野良どもがいなくなった時があった
しかしいつの間にか戻ってきていた
今回もそうしたモノかもしれない
夏は過ぎ、パンプキンの時代が近づきつつある
世はパンプキンフィーバーに酔いしれ仮装し悪い子はいねーがー‼︎と練り歩く時代に突入である
ナマハゲパンプキンである
ナマハゲはお菓子を配るのである
それで包丁を振り回し御用である
「……」
信幸はマンションに帰ってきた
マンションといっても信幸が借りているマンションだ
AIとの契約は結んでいない
AIとの契約を結んで借りている部屋を引き払いAIマンションに引っ越せば家賃や光熱費の心配はしなくて済む
しかしやはり信幸的にはAIとの契約は何か躊躇してしまうものがある
すなわち俺はAIの風下に立つ気はないぜ‼︎…であり人類の気骨を見せてやるぜ‼︎…であり家賃や光熱費に釣られて魂を売り渡す気はさらさらねーぜ‼︎であり俺は人類代表だーー‼︎、という事であり、相変わらず意味不明である
しかし時代はまさに大不況の時代
ただでさえ低賃金なのにその仕事すら無くなりつつあるご時世、四の五の言っていられない
何とかして生活費を稼がなくてはならない
信幸の奥の手は単発バイトだ
単発ならば何かしらある
何とかそれで食いつないでいくしかない
本当に危機的状況である
ヤバいのである
マズイのである
最悪なのである
また給付金寄越せである
マジで生活していけないのである
つまり信幸的には詰んでいるのである
「あー…だる」
単発の仕事も楽ではない
主に単純作業がメインだがそれは体力勝負であり体的にしんどい
そして合間にハローワークやネットで仕事探しだ
仕事といっても今や派遣が全体を支配しており、よくて契約社員止まりだ
正社員の仕事も申し訳程度にあるが競争率が激しく信幸のようなおっさんには到底書類選考を突破できる代物ではない
しかも突破できたとしても面接の壁は厚い
仮に突破できたとしても待っているのはブラック企業によるブラック労働への道だ
「暫くしたら行くか…」
自分の部屋に帰ってきた信幸はそう呟く
行くとはAIのマンションだ
マンションの地下一階はドローンの走行訓練場所だったが、現在は戦闘訓練場所に変わっている
3Dホログラムとセンサーを用いての戦闘訓練
これで身体能力を強化するのだ
…とはいえ訓練が終わると体がガタガタになるので飛び飛びの訓練になっているが
亜衣いわく負担がかからないように計算し出した運動量で毎日でも行える訓練らしいがキツイものはキツイのである
そう、おっさんにはキツいのである
そしてもう一つ
地下二階には奴が来ている
奴である、奴なのである
奴とはロボットの犬だ
戦闘用四足歩行ドッグ
スマートバトルドッグだ
正式型番は忘れた
こいつはデカい、聞いていた以上にデカかった
しかもAI搭載である
AIと言っても亜衣ようなとんでもない性能ではなく、そこまでではないが高性能であるのは違いない
自分で判断して動いている…ように見える
このバトルロボドッグが地下二階にいる
あまり近寄りたくないが、たまに様子を見に行ったりする
普通に大人しく座っているが、信幸が行くと反応して首を向けたり立ち上がったりする
それ以外は特に何もないが、戦闘になればかなりおっかない存在になるという感じはする
見た限り色々とした重火器を装着できそうだ
「おかえり、信幸」
「あー…ただいま…」
午前中は自宅でウダウダしつつ午後はAiマンションに来る
その時に一階フロアに設置されたモニター画面を通して亜衣は必ずおかえりと言う
おかえりという言葉…
別にここは自分の自宅ではないのだが、言われてもなぜか悪い気はしない
こうして地下一階に降りた信幸は訓練へ
「変身‼︎」
別にポーズとかはせずに普通に変身する
格好を付けた方が様にはなると思うがそこはやはりおっさんである信幸には恥ずかしいものだ
しかしただ突っ立ってする変身もそれはそれで何か恥ずかしいものを感じる
何か考えなくてはならないところだ
「は〜い、信幸様!、ユキで〜す‼︎」
にこやかな笑顔と共に目の前に現れる3Dアニメーションのユキ
いつもの事だ、そしてこのテンションもいつもの事だ
「本日はハロウィン仕様、ゴーストで〜す‼︎」
「ああ…似合ってる…かな」
「信幸様、うれしいです‼︎」
こうした会話ももう慣れた
最初は非常にやりにくかったが、慣れると特に何も感じなくなる
慣れというものは実に奇妙だ
「では今日はレッスン3に入りま〜す」
「げ…まじか、レッスン2すらキツかったけど」
「頑張って下さい‼︎、ファイトです‼︎」
「ああ…はい」
そう応援されては嫌とは言えない
悪い子ではない、いや悪いAIではない
画面上に表示されているアニメーションの女の子だが、実際に目の前に実在しているかのような感覚に襲われる
「……」
信幸的にはバーチャルな存在よりは実際の女の子に言われたいと思う
そういえば実際に信幸にそうした言葉をかけてくれた女性は今までの人生で一人もいなかった
まったく我ながら寂しい人生を送ってきているものだと信幸は溜息をついた
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「いらっしゃいませー」
涼やかな声がコンビニに響き渡る
女子大生の爽やかな笑顔
やはりこれがないとコンビニとは言えないのである
例えるなら砂漠のど真ん中で喉がカラカラの状態で死にかけている時にオアシスに辿り着いた心境なのである
つまり女子大生にはそれだけの価値があるのである
それが女子大生の威力である
とはいえおっさんがそんな事を考えている時点で気持ち悪いオヤジ確定でありキショいのでありキモいのであり突き当たりの終わりである。
とりあえず信幸は生き生きとチーズクロワッサンと缶コーヒーを持ちレジに行く。
「袋はいりますか?」
「いや…いいです…」
レジは今まで立っていた女子大生から店長のおっさんに代わっていた。
いや、店長でも構わないのだが何かこう気分的に損した気持ちにさせてくれるものだ
しかしこれではまるでこのコンビニに来るのは女子大生目当てのように見えるがそんな事はない
元々からこのコンビニは利用している
それにしても一時は店員が居なくて店長が死にそうな表情で切り盛りしていつ潰れてもおかしくなかったが持ち直したのは凄い事だ
そういう意味では店長頑張ったなであり店長凄いであり店長ヤバいである
少なくとも信幸が同じ立場なら即座に閉店今までありがとうございましただろう
「ありがとうございました」
店長の声を背中に信幸はいつもの公園に向かう
クロワッサンと缶コーヒーはポケットの中に押し込んである。
袋など毎回毎回買っていられない
購入した袋をその辺に捨てる訳にもいかず持って帰っても大して使わないので部屋の中が袋だらけになってしまう
部屋中袋だらけ
それはもう片付けられないゴミ屋敷な人々と同様袋屋敷と化してしまうだろう
いや、屋敷ではなくワンルームだからゴミ袋ワンルームである
「あー、チーズ美味しい」
公園のベンチに座りチーズクロワッサンを頬張る信幸
そしてクロワッサンを食べながら缶コーヒーを飲む
信幸が1日に飲む缶コーヒーは3〜4本である
多いとは思うが中々止められない
タバコは吸わないのでまぁいいかとも思うが少なくとも1日コーヒー代だけで400円以上かかっている計算になる
これがコンビニのコーヒーとなれば更に高くなる
普通の独身サラリーマンや公務員なら大した出費にもならないだろうが如何せん信幸は低賃金非正規労働者であり
何のスキルも持たない単なる単純作業労働者であり日雇い労働者の域を出ていない人間だ
贅沢は敵であるがコーヒーぐらいは飲ませて下さいとは思う
とは言え大して頑張っている訳でもないが
「敵か…」
そう言えば…と公園を見渡す
我が生涯最大の敵である野良猫どもの姿が見えなくなってから少し経つ
これだけ姿を見ないという事は駆除されたと考えて間違いないだろう
これは信幸の勝利である
謂わば戦わずして勝つであり戦う前に既に勝敗は決していたのである
悪の限りを尽くしていた害獣どもは滅びた
それはこの公園に平和が戻ってきたという事だ
「帰るか」
パンをたべコーヒーを飲み終わり信幸はパンの入っていた袋とコーヒーの空き缶を持って公園を後にした
そして午後、AIマンションに来る
もう第二の自宅みたいになってしまっているが勿論信幸の借りている家でもなければ所有している家でもない
あくまで秘密基地である
「おかえり、信幸」
「ただいま」
亜衣のおかえりに最近ではごく普通に対応している
家族がいるならばこんなものなのだろう
ハロウィン戦に向けてのレッスンは続く
「信幸様、今日は何とスマートドッグと一緒に戦ってもらいます‼︎」
「え?、出てくるの、あれ」
「はい、ハロウィン戦に向けて息を合わせて頂く必要がありますので‼︎」
画面上で動きを交えながら言うユキ
確かにハロウィン戦が徐々に徐々に近づいているならばパートナーとして動きは合わせておいた方がいい
しかしながらロボドッグは想像よりも大きくおっかないのだ
噛まれはしないだろうが何か体当たりされただけでもあっさり吹っ飛ばされそうな、そんな大きさと強さだ
「大丈夫かなぁ?」
「心配いりません‼︎、あくまで練習ですので」
そうして初めての戦闘ロボとの共闘
ロボドッグの動きは想像よりも速く、そして滑らかだった
もっとこうカシュカシュカシュン…みたいな動きと動作音がするのかと思っていたが各部の音はとても静かだ
そして実に、本当に生き物じゃないかと思わせる程の自然な動き
何より驚かされたのはロボドッグはこちらの動きに合わせて動いてくれる事だ
多分予めこちらの動きのデータをインプットされているだろうが、そのデータを元にAIの学習能力で判断して動いているのだろう
そのお返しにこっちもロボドッグに合わせようとするとどうにもやりにくそうな感じの動きになった
「信幸様‼︎、スマートドッグに合わせる必要はありませんよ?、スマートドッグが合わせますので‼︎」
「あ、ごめん」
ユキに言われて信幸はロボドッグに合わせるのを止めた
確かにAIを混乱させては後で問題が生じるかも知れない
しかしAIにばかり頼っていてそれでいいのか?、とも思う
ここは人間代表である自分が人工ではない知能を見せるべき時ではないかと
ただそんな無意味な考えをしてみた所で自分の知能などたかが知れているのだからAIに任せようとあっさり考えを変えた
何せ本番になって混乱されると目も当てられない
何せ敵はカボチャだ
そして蝙蝠爆弾に改造人間達までいる
今回の戦いの勝利の鍵はロボドッグにかかっている
その他にも何か出てきそうな雰囲気ではあるがそれは考えたくない
とにかく今はカボチャに集中する
改造人間はロボドッグに任せて…いいものか?
あの改造人間の若い子2人も中々に強そうだった
果たしてロボドッグだけで抑えられるのか?
それに小型の蝙蝠爆弾だ
亜衣は何か対策を立てるみたいな事を言っていたが未だにその何かは明かされていない
本当に対策は立っているのか?
分からないがそこは亜衣を信用するしかない
レッスンは終わりAIマンションを出た信幸は自分の借りているマンションに帰った
レッスンはキツいが何とか付いてこれているという実感はある
最初の頃よりは大分慣れて体も筋肉痛バリバリからは和らいだ
それにしてもおっさんがちょっと頑張るだけで筋肉痛である
若い頃のような訳には…と考えたが別に若い頃に運動をしていた訳でもなく大して変わりはないと考え直す
つまり若かろうと年を取ろうと体も中身も大して変わってはいない
良いか悪いは知らないが
帰り道にいつものコンビニに寄る
もう女子大生は帰っていない
代わりにやる気のない兄ちゃんがいた
「えーと」
特に何か買う予定はなくふらりと惰性で立ち寄っただけだが、さてどうしたものかと思う
このまま出るのも気が引ける
何か必要なモノや無くなりそうなモノを買って帰ってもいいが・・・思いつかない
「えーと・・・」
ラーメン・・・か
信幸は味噌のカップラーメンと缶ビールを手にレジに行く
2人ほどレジの前に前に客が並んでいた
ちらりと見るとセルフレジは誰も利用していない
「まぁ・・・」
セルフのレジという怪しげなモノを敬遠している人が多いのだろう
かくいう信幸も遠慮している
しかしいずれはそれが主流になってセルフばかりになっていくだろうとは思う
「・・・・・・」
信幸は新時代へ足を踏み込むためにセルフレジの所に足を向けた
「いや・・・またでいいか・・・」
信幸は店員のいるレジに向きを変え旧時代に戻った
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残暑から本格的な秋に
そしてもうじき訪れる冬へ
悪意のAIが何か計画しているハロウィン
何が起こるのか分からないが何らかの攻撃だろう
信幸も特訓を頑張る
頑張ると言ってもそれほど大した事はしていない
ロボドッグとの訓練
基本的にはサポートされながらシミュレーション戦を戦う
まぁ、あくまで架空の戦いのためある程度は気楽だが実戦は近づいている
その点は実に気が重い
改造人間である若い2人組
蝙蝠型ドローン爆弾
多分カボチャや幽霊なんてのも出てくる筈だ
それらと戦う必要がある
「あれ?、今回って・・・」
全てを倒さなくてはミッションクリアとはならないのでは?
戦う場所にもよるが大勢の人が集まっている所ではまた犠牲者が出る
「えーと・・・」
ブリキロボットの悲劇が再び繰り返される可能性が・・・・
駅構内の時も死者が出たようだがニュースにはならなかった
しかし死んだ人は出たのは確かだ
今回は多分更に規模の大きな戦いになるだろう
犠牲者を出さずに済めばそれでいいが、人を助けながら戦うなどという器用な事は出来ない
「いらっしゃいませー」
朝っぱらから、というか夜明けから店長である
本当に働く店長
頑張る店長
とても信幸が真似できるものではない
それ以上にアルバイト入れろよである
いや、しかし、ひょっとすると信幸の知らない所でバイトが入っている可能性もなくはない
それか入っても直ぐに辞めてしまうか
最近は就職してもすぐ辞める若者が増えているとか
信幸の若い頃は石の上にも3年とか言って説教をしてくる年上の連中がいたが
ブラックに居続けても意味はないのでありトンズラするのが最適解であり就職したら2分で退職願いである
ブラック経営者を図に乗らせては日本に未来はないのである
「ありがとうございます」
チョコクロワッサンと缶のカフェオレを買ってコンビニを出る
夜明けの薄明かりの中、公園のベンチで一服する
まだ公園の庭園灯が明るく光っている
そうして買ってきたチョコクロワッサンを食べる
野良の害獣どもは依然行方不明だ
本当に駆除されたのかも知れない
信幸としては平和でいいが一斉に消えればそれはそれで気になるのは確かだ
奴等はどこに行ったのか?
その謎を考えながらカフェオレを飲む
口の中が甘々だ
甘い×甘いで口の中がとんでもない事になっている
しかし信幸はへこたれない
こんな程度の状態異常でブラック低賃金非正規労働者は勤まらない
口の中が甘かろうが辛かろうが激辛だろうが例え何であれ進んで行くしかないのだ
1に根性2に根性34が無くても5に根性の昭和精神論である
それが非正規道である
根性論万歳である
心頭を滅却すれば火もまた涼しである
そして燃え尽きて灰になるまでが我が人生である
いつもの如く意味不明である
「おかえり、信幸」
「ただいまー」
このやり取りも何度目だろうか?
最初は抵抗があったものだが・・・
AIマンションにてくつろぐ信幸
いつもならこの後レッスンに入るが今日は亜衣に聞いておかなければならない事がある
「あのー、亜衣?」
モニターに話しかける
数秒してモニターがつき亜衣が画面上に映る
「何?、信幸」
「いや、聞きたい事があるんだけど」
「どうぞ?」
「ハロウィンについてだけど」
「それは今回のハロウィン戦についてでいい?」
「そうそう」
「どうぞ?」
「えーと、例の改造人間の子達だけど」
「男女の二人組ね」
「そう」
「彼等がどうかした?」
「いや・・・」
「?」
「あのー、戦闘になるよね?」
「出てくればなるわね」
「戦闘になった場合・・・殺すとかそんな感じ?」
「戦闘になったらそうなるわね」
「だよなー」
「何か?」
「いや・・・そうなんだろうけど・・・ 何か」
「殺さず生け取りにするとかそういった話?」
「え・・・と、まぁ、そんな感じなんだけど」
「捕縛する事は出来るけどその後は?」
「だよなぁ」
捕まえる事は出来でもその後は?と言われたら何も言えない
更生させるなんて出来るのか?
相手は改造人間だ
暴れられたり逃げられれば手に負えない
「うーん・・・」
悩む信幸に亜衣は言う
「効率は悪いけどその戦闘中は捕縛で大人しくさせる事はできるわね」
「できればそれで」
「ただ得策ではないわよ?、エリカにこちらの弱点を教える事になるから」
「弱点か・・・」
確かにこちら側が人間を殺すのを躊躇うと分かればそこを突いてくるのは確実だ
最悪改造人間を大量に作って攻撃してくる事は容易に想像できる
そうなれば捕縛云々と言っていられない
「2人をあっさり殺せばエリカも有効な手ではないと別の方法でくるわ、でも有効だと分かれば大量の改造人間を作って攻めてくる事になるけど?」
「だよなぁ」
2人を犠牲にして被害を最小に抑えるか、2人を助けようとして最大の被害を出すか
「どうする?」
「答えは・・・出ないな」
「分かったわ、とりあえず捕縛の道具と作戦も用意しておくわね」
「ああ、頼む」
「ただ一つだけ考慮に入っていない事があるわよ、信幸」
「え?、なに?」
「戦いによって死ぬかも知れないのは信幸も一緒だからね?」
ハッキリ言う亜衣
そうなのだ、人の事をどうこう考えている場合ではない
戦いにおいて怪我したり最悪死ぬ可能性があるのは信幸も同じだ
鎧武者スーツだったとしても死なないとは限らない
「そうなんだよなぁ」
「戦いに集中しないと危険よ」
その通りで仲間を守りながら戦うほうが力が出せたり味方になりそうな敵を気にしながら戦うなどはアニメやゲームの中だけの話だ
実際には集中しないと死ぬだろう
「正直に答えてくれ、勝算はどのぐらいあるんだ?」
「今の所は五分五分ね、今回出てくる敵の総戦力が分からない以上明確に答えようがないわ」
「そうか・・・」
当然だ、今分かっているのは改造人間2人と小型コウモリ爆弾多数という事だけ
「小型コウモリロボはどう対処するんだ?」
「まさしく今日のシミュレーションで対コウモリの武器を使ってもらうわ」
「とうとう秘密兵器が出るのか」
「大した武器じゃないけどね」
「気になってたんだ、小型コウモリ」
「それだけじゃなくて他にも武器を公開するわ」
「お、秘密兵器二号か」
「大した武器じゃないけどね」
「そうなんだ・・・」
大した武器じゃないという亜衣の言葉に引っかかったが、ともかく新型武器の投入で一気に戦況がひっくり返せそうな勢いだ
ロボドッグもいるし、これはひょっとすると圧勝な可能性もある
問題はやはり改造人間の2人か
「そういえば改造人間は元の人間には戻れないのか?」
「強化具合によるけどこの前の駅構内の戦闘データからは結構な強化を施されているようだから無理だと思うわよ?」
「そうか・・・」
そう都合よくはいかない
悪意のAIに従わないように説得云々と甘い事を言っていたら自分の身が危なくなるだろう
本当にどうしたらよいか・・・
「さぁ、特訓よ信幸‼︎」
不安と悩みを打ち消すかのように亜衣がパンっと手を打って信幸を促した
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この国においては実力ではなく学歴、役職、肩書き、世襲、家柄が尊ばれる
そしてコネの力
そのどれも有していない信幸にはこの国は住みにくい
ならば他の国に行けば良いんじゃ無いかと思われるがどのみち何の能力も持っていない信幸では生きていくことは難しい
つまり詰んでいるのだがそんな信幸でもヒーローとしての活躍は残されている訳であり、要するに贅沢を言わなければ何とか生きていけるよねー・・・という楽観的な気分であり世の中なんとかなるさーであり、その気分を味合わせようとする裏で暗躍する闇の組織の陰謀なのである
「政治かー」
景気は悪く経済は沈んでいくばかり
世の中には悪いニュースばかりが溢れていると思える昨今
信幸は夜中に叩き起こされた
「信幸、敵が動いたわよ」
「へ?」
寝ようと横になって寝かけた時の亜衣からの通信。
しかしまだハロウィンではない
だがカボチャは動いたらしい
いや、カボチャが出てくるかどうかは知らない
けれどもハロウィンを掲げているのならばカボチャが出てこない筈がない
でなければカボチャはハロウィンでは無くなってしまう
いや、カボチャがハロウィンなのではなくハロウィンがカボチャなのである
もはや何が何だか分からないがとにかく緊急事態なのである
さっさと現場に急ぐのである・・・がしかし今は夜中だ
電車が走っていないため移動出来ない
というか自分の借りているマンションのため空飛ぶバイクも近くにない
「どうしろと?」
これではどうしょうもない
そう、諦めるしかない
何せ信幸は車を持っていないのだから
車も無ければ免許も無い
金も無ければ仕事も無い
あれも無いこれも無いの無い無い尽くし生活である
貧民なのである、貧困生活者なのである、貧乏なのである、お金が無いのである、底辺日雇い低賃金労働者である
こんな国に誰がしたのである
これも全て政府のせいである
政府の陰謀である
政府が企んだ悪の計画である
だがしかし、考えようによっては努力してこなかった信幸のせいでもある
突き詰めれば全て自分の責任である
自己責任である
そう考えると信幸はアウトであり沈みゆく戦艦でありさらばでゴザルでありグッドラックである
そして相変わらず意味不明である
「外に出て」
「え?、外?」
急いで着替えて靴を履き玄関から出て一階へ
そして表の道路に出てみると何とそこには空飛ぶバイクが
「あれ?、バイクがある?」
「それに乗って」
「えっと…」
「グズグズしない」
「はい」
亜衣に急かせれて信幸はバイクに飛び乗る
「結構な速度で行くわよ」
「え?、ひょっとして敵は既に出現してるのか?」
「もうじき出現よ」
「うお⁉︎、そりゃまた」
今までなら事前に敵の動きを察知して間に合うように現地に着いていたのが今回は現場に行く前に出現しそうとは・・・。
そう聞いて信幸も慌てバイクに急いで跨る
「しっかり掴まっててね」
「ほーい」
その言葉と同時にバイクはゆっくりと浮上し出す。
と、いきなり速度が増して斜め上に上昇しそのまま建物や電線を避けながらスピードを増してジグザグに走り出す
「おおおい」
その結構荒い運転に信幸は思わずハンドルから手を離しそうになった
既にバイクはかなりの高さまで上がってスピードも速くなっている
ここで手を離そうものなら落下して死亡確定だ。
人生の終わりだ
全くもってつまらない人生でした御愁傷様でしたの世界である
何ら良い事無く辛いだけの人生だったぜヒャッハーである
ただそれだけは避けなくてはならない
なぜならば信幸の人生はまだまだこれからだからだ
寿命の半分以上を経ただろうがまだまだこれからである
しぶといのである
何が何でも生きるのである
こんな所で死んじゃいらんねぇのよおっ母さんである
どのぐらい飛んだだろうか?
やがて眼下が賑やかになってきた
「あれ?、ここって…」
「首相公邸上空よ」
「首相公邸って首相が寝泊まりしている?」
「そう」
「え?、エリスの狙いって・・・」
そう信幸が言いかけた時、公邸から爆発音が聞こえて火柱が立ち煙と共に炎上した
「うわ‼︎、何だ⁉︎」
「敵の攻撃よ」
「敵?、敵って首相を狙ったのか‼︎」
「そう、ところで市街地にも敵巨大カボチャロボ出現よ、どうする?、信幸」
「どうするって?」
「下に降りて首相を助けるか市街地でカボチャと戦うか」
「二箇所同時攻撃か」
「そういう事ね」
「市街地って深夜でも人が大勢いるんじゃないのか?」
「出歩いていなくてもそこに住んでいる人は大勢いるわよ?」
「それなら答えは1つだ」
「なに?」
「巨大カボチャを倒す」
「それでいいの?」
「いいんだよ、首相なんてどうでもいいし」
「なら市街地に向かうわ」
バイクは公邸から市街地に向かって進む
信幸には首相を助ける義理も義務もない
国のトップなら自力で何とかするだろう
自ら進んでトップに立った以上狙われて死んでも自己責任である
最悪死んでも代わりは幾らでもいる
「それにしても・・・」
改造人間の2人はどっちだ?
公邸の方か市街地か
公邸なら一応戦闘は取り敢えず回避した事にはなるが、そのまま市街地まで来ないとも限らない
というかその可能性は高い
そうではなくて市街地の方で暴れてるなら戦闘は避けられない
「あれ?、ロボドッグは?」
改造人間の相手をするべきロボ犬の姿がない
まさか・・・
「一緒には来ていないわよ、少し遅れて運搬中よ」
「ああ、急だったからな」
少し遅れるが現在こちらには向かって来ているようだ
それがどのぐらいの遅れかは分からないが
「信幸、変身よ」
「え?、あ・・・ああ・・・」
飛行バイクに乗りながらの変身
それって大丈夫なのか?・・・という疑問が浮かんだが既に目前に巨大カボチャ頭のロボットを視認したのでモタモタはしていられない
というかカボチャの頭部だけが浮いている
そして市街地に向けて口から何か吐いて攻撃をしていた
「デカいな」
「信幸変身」
「ああ、変身‼︎」
パンプキンヘッドの巨大さに圧倒されていたがとにかく変身した
「と言うかどうやって倒すんだ?、アレ」
多分10メートル以上ある巨大ジャックオーランタン
そもそもどうやって浮いているのかも分からない。
そのかぼちゃ頭は信幸に攻撃をしてきた
「しゃーーー」
「ん?」
「しゃーーー」
「んん?」
口から吐き出される液体っぽい何か・・・を避けるがその正体が分からない
避けるといってもバイクは自動操縦なので信幸はバイクから振り落とされないように必死にしがみついているだけだが
「アイツは何を出しているんだ?」
「・・・ん?、あれ?」
いつも応答するユキからの返事が無い・・・というかモードをONにしていないだけだった
「はーいユキでーす」
「敵だユキ」
「存じております」
「あいつは何を吐いているんだ?」
「お待ち下さい、只今分析中です」
「・・・・・」
「解りました、強力な粘着性の液体です、一度引っ付くと中々取れませんし動けません」
「鎧にかかっても?」
「はい、気をつけて下さい信幸様」
「接着剤みたいなものか」
気をつけろも何も操縦しているのは信幸ではない。
しかし1発でもバイクに喰らえば羽が回転せずに即墜落だろう
本当に自動操縦に任せて良いものか?
何なら信幸の華麗なるライディングテクニックを見せる時ではないか?
シャーー
「うお!?」
粘着性の液物質が頭上スレスレを飛んでいく
いらん事を考えているよりもガボチャの弱点を突いてさっさと倒さないとヤバいのである
「ユキ、奴の弱点は分からないか?」
「お待ち下さい信幸様、ただいま調べます」
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「解析しました信幸様、目を狙って下さい」
「目?、どっちの?」
「どっちでも大丈夫です」
どっちでも大丈夫、えらく簡単な弱点だ
しかし四の五の言っていられない
今にも接着液がかかって墜落するかも知れない危険な勢いだ
目を狙う、つまりは新武器である長弓の出番である
「ユキ、長弓を」
「はい!!、ただその前に言っておかなければならない事がございます」
「え、何?」
「あのカボチャロボを倒せば自動的に大爆発致します」
「おおおい!!」
また爆発である
しかも今度は大爆発だ
何十メートルが吹き飛ぶのか不明な爆発だ
いや、カボチャの巨体からすれば何キロ四方が灰塵に帰すかも知れない程の爆発になるだろう
「どうするんだ!?、攻撃出来ないけど!?」
「ご心配には及びません、こういう事態に備えて私達が独自に開発した爆発対ウォールフィールドを展開します」
「なにそれ!?」
「フィールド内に入れれば爆発しても周囲に被害は及びません」
「え?、それって凄くない?」
「はい、凄いです!!」
「あれ?、と言う事は...」
その技術がどうなっているのかは気になるトコロだが信幸が気になる事は別にある
「フィールド内に入れば爆発を防ぐ...ってひょっとしてフィールド外から攻撃出来ないとか?」
「その通りです流石は信幸様!!、フィールド外からの攻撃は無効になります」
「それってさぁ...俺もフィールド内にいないと駄目だよね?」
「その通りです」
「この鎧って耐えられるの?」
「計算上では至近距離からの爆発でも十分に耐えられる素材と硬度と柔軟性を併せ持っております」
「耐火性?」
「もちろん火にも耐えられます、火や熱を通さないので火傷は致しません!!」
「なるほど・・・」
それならばフィールド内で戦っても問題はなさそうだ
「ただ一点だけ問題がございまして・・・」
「ん?」
「爆風で飛ばされる可能性がございます!!」
「おおおい!!」
爆風で飛ばされる・・・すなわちバイクごと飛ばされどこかに激突、またはバイクから落ちて墜落という事
鎧は衝撃をある程度吸収してくれる設計のようだが限度はある
高度から墜落すれば鎧は無事でも中の人間が死ぬのは間違いない
「それってどうするんだ?」
「気合いです!!」
ガッツポーズを取るユキ
ハイテクの割にこういう時は精神論なのは意味が分からない
「勿論爆発時の爆風も計算に入れてバイクを操作致しますのでバイクごと墜落はしないと思います」
「つまり俺がバイクから手を離さない限りは大丈夫って事か?」
「はい、弓を引いたらすぐバイクのグリップをしっかり握って振り落とされないようにしがみついて下さい!!」
危険な賭けだ
というかこれって普通に爆発の衝撃で飛ばされて墜落死パターンの可能性が大いにある
亜衣の言った信幸も死ぬかも知れないという言葉が頭に響いてきた
「しかし・・・」
考えている時間はない
墜落死を恐れてみたトコロで信幸は今まさにカボチャロボの攻撃を受けて墜落しそうな感じだ
ならば一か八かやるしかない
カボチャロボを倒して気合いで乗り切る
その方法でしか今日は生き残れないのであり明日は来ないのである
もっとも倒しても明日が訪れない場合もあるが
「長弓!!」
長弓モードをONにして長弓を出す
新兵器の一つだが、本来距離を取って射る武器の筈がフィールド内で射つ事になりつまり敵のすぐ目の前で使う事になった
「どうするんだ?、ユキ」
「バイクをパンプキンロボに接近させます」
「そう言えばフィールドってどのぐらいの範囲なんだ?」
「円形20メートルの範囲です」
「まぁ、ならあのパンプキンロボはすっぽり入るな」
「そうです、パンプキンに接近後フィールド展開します」
「分かった」
「行きますよ、信幸様!!」
「ああ」
バイクはカボチャロボの口から吐き出される粘着液をかわしながら急接近する
接近してカボチャの表面が実にメタリックにテカテカツルツルしている事に気づいた
見事なオレンジ色だ
しかしそんな事を言っている場合ではない
素材が鉄で出来ていようがセラミックで出来ていようが何で出来ていようが目を狙い倒すだけだ。
「ユキ、フィールドは!?」
「現在フィールド展開中です信幸様」
「そ・・・そうか」
間近に見るパンプキンの威圧感を感じながら攻撃をかわしつつフィールド展開を待つ
実際は大した時間では無かったが信幸的には実に長い時間だ
「フィールド展開致しました信幸様」
「え?、あ・・・そう?」
特に何も周囲に変化は無さそうに見えるが詳しく見ていられない
いや、多少周りがちょっと霞んでいるような気もするがそれもジッとは見ていられない
とにかくフィールド展開はされたようなので後は矢を目に射るだけだ
「それじゃいくぞ‼︎」
バイクから立ち上がり大弓を構える
カッコよく言ったがこれで外したら恥ずかしいものではある
もっとも自動調整機能が付いているので余程明後日の方角に飛ばさない限り命中するようにはなっているようだ
「りゃ‼︎」
弓を引き矢を放つ
変な方向には飛ばず矢は真っ直ぐにパンプキンの目に当たった
「やったか?」
目が弱点とは言っていたがこれで倒した事になるのかどうか判別が出来ない
しかしすぐに画面上のユキが言った
「爆発します信幸様、バイクに掴まって下さい‼︎」
「うお⁇」
慌ててバイクに座り首を下げてグリップを握りしめ衝撃に備える信幸
「・・・あれ?」
どうなったのかは分からないがいつの間にか信幸は仰向けで寝ていた
どうやら地面に寝ているようだ
「地面・・・」
頭が追いつかない
なぜに地面で寝ているのか?
ここはどこなのか?
自分は一体何をしていたのか?
「あ・・・」
思い出してきた
パンプキンと戦って・・・それで・・・
「うお!?」
勢いよく飛び起きる
体に痛みはないから怪我はしていない
そして変身は解けていない
「気がつかれましたか?、信幸様」
心配そうな顔でユキが画面上に現れる
「パンプキンは?」
「破壊に成功しました、爆発による周囲への被害もありません」
「そ・・・そうか」
「大丈夫ですか?、信幸様」
「ああ、何とか、ただ気を失ってたみたいだけどどのぐらい?」
「時間にすると5分ぐらいです」
「爆発時の事は覚えてないんだけどバイクから落ちた?」
「いえ、間一髪補助機能の追加が間に合いまして信幸様はバイクからは落ちていません」
「補助機能?」
「はい、手足をバイクに固定させる機能です」
「もしかしてそれが無かったら落ちてた?」
「はい」
ヤバいところだ。
落ちたら間違いなく死んでいた。
追加機能万々歳である
「バイクは?」
そう思って周りを見ようとしたらすぐ側にバイクがあった
何か多少傷や煤っぽいのが付いているが、それ以外は問題なさそうだ
しかし考えてもみれば爆発でバイクが破壊される事もある訳でそれを考えなかった信幸はゾッとする
それにしてもこのバイクの素材は何で出来ているのか?
分からないが流石は信幸の生涯年収を軽く超える金額なだけはある
「信幸、撤退よ」
亜衣からの通信だ
「え?、まだ蝙蝠爆弾とか改造人間とかいるんじゃ?」
「詳しくは帰ってからよ、今はバイクに乗って撤退して」
「ん・・・分かった」
何か分からないが巨大パンプキンロボを破壊して終わったみたいだ
まぁ、改造人間とやり合わなくて済んだだけでも気は楽だが
信幸はバイクに跨る
自動操縦のバイクはゆっくりと浮上した
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
「いらっしゃいませー」
いつものコンビニ
いつもの信幸
そしてレジには女子大生店員
そう最近のいつも来ているコンビニの風景
それはそうなのだが何かどこか現実と離れているような気がしてパンとコーヒーを手にレジへ
「袋はお付けしましょうか?」
「いいです」
「ありがとうございましたー」
女子大生店員の元気な声に反して信幸は元気なくトボトボとコンビニを出ていつもの公園へ
「どっこらしょっ」
公園のベンチに腰を降ろして信幸はリュックから今しがた買ったチョコクロワッサンとコーヒーを取り出す
カシュンッ
コーヒーの封を開けた。
そういえば思い出したが昔は缶と一緒に蓋もあちこちに散乱していたものだ
プルトップ方式に変わりそれらは無くなった
そしてぐびっと微糖珈琲を口に入れる
カサカサ・・・
チョコクロワッサンの袋を開けて中身を齧る
チョコの甘さが口の中に広がった
「美味いなぁ」
感情なく呟く信幸
どうにも頭がボーとしていてうまく考えられない
パンプキンの戦いから一週間
首相の死はニュースのトップ一面を飾りそれによる対応があちこちで行われていた
まず首相暗殺
それによる捜査
あの時の戦いで首相公邸は爆破され首相は殺された
流石の亜衣も首相暗殺の事実までは封じられなかった・・・かと思いきや妨害工作が出て情報電子戦で亜衣はエリカに負けての流出のようだ
本来なら事故死で処理できる筈だったというから亜衣の力は本当にとんでもないのだと実感できる
信幸が元気がないのは首相が殺されたから・・・ではなく別の理由からだ
改造人間達が死んだ事による
信幸撤退後にもう一戦あってロボドッグと改造人間達との戦いがあったようだ
結果はロボドッグを道連れに改造人間達が自爆したというもの
正確にはロボドッグと戦っていた改造人間の若い男の体内に仕込まれていた爆弾が起爆し爆発
強化されているとはいえ当然若い男は爆死した
その段階で至近距離から爆発を受けたロボドッグだったが何とか耐えた
しかし遠隔操作で体を操られた若い女の子がロボドッグに接近し自爆した
正確には爆発させられた・・・そうだ
それによりロボドッグも耐えきれずに破壊され戦いはおわった
「まぁーー」
特に知り合いという訳でもない単なる敵として相対しただけの2人だったが爆発させられたというのはショックだ
悪意のAIエリカは本当にどんな手段でも使ってくる奴だと思わせられる
全く人を何だと思っているのか
それに比べれば亜衣はまだ人道的に思える
撤退していなければ自分が改造人間と戦い爆死していた可能性・・・いや、確実に死んでいただろう
それにしても情報戦で亜衣が負けたのもある意味ショックだ
ブリキロボの時のように事実を封じるやり方で終わらせるつもりだったがエリスの邪魔でそれが出来なかったのだから
「俺に捜査は伸びてこないよな?」
テロリストの犯行ではないかとメディアは騒いでいるがまさか犯人はAIとは思うまい
信幸が心配する事はあの現場にいた事であり関連性がある事だ
別に信幸がやった訳ではないが公邸爆破、首相暗殺に関わる人物として捜査の手が伸びてきやしないかという恐れ
その時には「悪意のAIがやりました」と堂々と言える強い心を持つ事が必要だ
誰も本気にはしないだろうが
「美味いなぁ」
チョコにクロワッサンという組み合わせ
クロワッサンは好きだ
好きと言っても美味しいクロワッサンに限るが
パン屋の良し悪しはクロワッサンが美味しいか否かにかかっている
クロワッサンが不味い店は駄目なのである
とはいってもこのチョコクロワッサンはパン屋ではなくコンビニ製品であり生地の美味しさではなくその美味しさはチョコの甘さでしかないが
「また襲ってくるだろうなー」
悪意のAIエリカの攻撃は確実に爆発有りの過酷なものだ
次来るのも爆発攻撃だろう
というか次来たら本当に死ぬかも知れない
ならばここで・・・
「・・・・・・」
辞めるという選択肢
しかしここで辞めて本当にいいのか?・・・という思い
今、この国がAIの脅威に晒されている
この危機的な状況を知るのは信幸だけだ
信幸が戦わなければ戦う人間は誰もいない・・・
「な、訳はないよなー」
単に鎧武者スーツ来てバタバタしているだけでしかない
若い連中ならもっと機転を効かせて戦える筈だし動きも機敏だろう
信幸でなければならない理由は何もない
「まとまらないなぁ」
チョコクロワッサンを食べ終え缶コーヒーをグビグビと飲み干す
AI同志の苛烈な戦いに付き合うのか、それとも過酷なブラック低賃金非正規労働を続けるか・・・
ただ少なくとも亜衣との契約で大金は入ってくる
ブラック企業の労働では酷使されるが大金は入ってこない
この違いは大きいが少なくともブラック企業で爆発に巻き込まれたり爆死はしないだろう・・・多分
「不労所得生活かぁ」
誰もが一度は考える働かなくても金が入ってくる夢の生活
資産運用をしっかりして金持ちへ
それは資産や資金がある人間なら可能かも知れないが資金などまるでない信幸には無理な話だ
宝くじで一発逆転は庶民の夢であり願望であり当たれば人生逆転である
買っても当たらないが買わなければ絶対に当たらない夢のチケット
おおよそ当たった人間なんぞ見たこともなく怪しげな存在だが少なくとも何の能力も持っていない信幸にはそういう一発逆転しか希望はない
「宝くじかぁ・・・」
実力もなければ知能もさしてない、そして運も全く無い人間には実に高いハードルだ
そういえば信幸は何なら持っているのか?、を自問しても何もないと即座に答えられる程の賢さは持っている
それを賢さと呼べるかどうかは知らないが
「ん?」
何かの違和感を感じて信幸は公園内を見渡す
「これはまさか・・・」
木の影からじぃーと信幸を鋭い眼光で見ている存在
「あ・・・」
そう、奴が帰ってきたのだ
いや、奴だけではない
奴らだ
いつの間にか公園内には複数の野良猫が茂みの影に隠れて寝ていたり信幸を邪魔そうに見ていたりしている
「こいつら・・・」
一体今までどこにいたのか分からないが再び信幸の宿敵達が帰ってきた
これにより公園内の治安は悪くなり復活していた秩序は崩れ去る
野良達は何事もなかったかのように公園内を我が物顔で徘徊し始めた
「・・・・・・」
まぁいい
今日は勘弁してやろうと思う
凄まじい戦いを経験したダメージが残っている状態で野良猫達の相手は流石にキツイ
とにかく地獄から舞い戻ってきたであろう野良達の復活を確認できただけでも良しとすべきか
それにしても本当に一体今までどこに隠れていたのやら
信幸はパンの空袋と空き缶を持って公園を出て自宅に戻った




