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いつもの悪い癖

「さて、ご飯も終わったのでお渡し会を始めようか」


「サインでも貰えるのかな」


 より花宮はなみやが実はダークマター製造機の可能性に少し期待したけど、そんなこともなくとても美味しいご飯を食べ終えた。


 そして片付けを終えて俺の部屋に全員が集まると、みんなが袋を持ってきた。


「お兄様、お渡し会は物品を貰えるだけでサイン色紙が貰えるものじゃないよ」


「サイン付きの何かが貰えたりしないの?」


「それはあるかな。その場合は『サイン、お渡し会』になるだろうけど」


「なるほど」


「いや、それって今重要じゃないだろ」


 俺の悪い癖。


 関係ないことに興味を持って本題に入れない。


 それをしていたらレンに呆れられた。


「れんれんが嫉妬してる」


「物理的に黙らせてやろうか?」


「そんな! お兄様という人がいるのにキスして口を塞ぐなん……落ち着け。とりあえずその手を下ろすんだ」


 レンが慌てている依に真顔で近づく。


 その右手はグーパーしてウォーミングアップ中だ。


「仲良しさん達はほっといて私達だけで始めよ」


水萌みなもちゃんって結構ドライだよね。まあ僕もほっといていいと思うけど」


 水萌と花宮はそう言って俺の隣に座る。


 少し離れたところではレンに襲われている依が悲鳴をあげているが、傍から見たら仲睦まじい関係にしか見えないので放置だ。


「それで二人は何かくれるの?」


「もちろん!」


「僕はあげるとは違うけど、まーくんの喜んでくれることをするつもり」


「楽しみ」


 美味しいご飯を用意してくれただけでも満足なのに、プレゼントまで貰えるなんて。


「ちなみに陽香ようかさんからは何か貰ったの?」


「貰ったよ。今までは俺に物欲が無さすぎてお金だけ貰ってたけど、今年はこれ貰った」


 母さんは毎年俺にプレゼントをあげたいようだったけど、俺の物欲が無さすぎて毎年困っていた。


 だから最終的にお金をくれていた。


 だけど今年は真面目な顔で一冊の本をくれた。


「これを読んで異性の気持ちをわかる人間になれって」


「……」


「『異性の気持ちがわからない君へ! 私もわからないから一緒に勉強しよう!』ってすごい題名だね」


「母さん曰く、これを書いてる人は結構信用できるんだって」


 母さんも昔同じ人が書いた本を読んだおかげで父さんとの関係を維持できたらしい。


 本当かどうかはわからないけど。


「ところで水萌ちゃんはどうしたの?」


「知らない」


 水萌が俺の出した本を見た瞬間から固まっている。


 正確に言うなら戸惑っているように見える。


「より」


「そだね。うちは適当だったけど、まさかここで伏線回収になるとは」


「回収されてんのか?」


「されてるってことでいいんだよ。深堀りするとよくないでしょ?」


「浅くも掘らなくていいんだけどな」


 さっきまでじゃれあっていたレンと依が何やら意味のわからない会話を始めた。


 すると水萌が気まずそうな顔になっていく。


「れんれん、これ以上は水萌氏に被害が出る」


「オレは別にそれでもいいけど」


「いいのか? きっとお兄様に甘えるぞ」


「なるほど、やめよう」


 またも二人で意味のわからない会話を初めて二人で納得して終わる。


 二人は幼なじみなわけで、仲がいいのは全然いいんだけど、ちょっとモヤモヤする。


「良かったねれんれん。お兄様が嫉妬してるよ」


「ほんとサキって独占欲強いよな」


「だけどそこが?」


「好きだな」


「あっさり認めやがった。聞いてるこっちが照れる」


「そろそろやめてあげなよ。まーくん寂しがってるから」


 花宮がそう言って俺の頭を優しく撫でてくれる。


「サキは普段からオレの前でやってるんだけどな」


「今もね」


「まあ嫉妬されて悪い気はしないからいいけど」


 レンはそう言うと花宮に「代わってもらっていい?」と聞いて場所を代わる。


 そして俺を抱きしめて頭を撫でる。


「寂しかったな」


「ままぁ」


「誰がママだ!」


 ふざけたらレンに頭を叩かれた。


「実家のような安心感」


「実家だからな」


「レンは俺の実家」


「ここがだ馬鹿」


 またもレンに叩かれる。


 こう言うと変に聞こえるだろうけど、レンに叩かれて嬉しく思う。


 物理的距離が近いのもあるのだろうけど。


「お熱いカップルはほっといて準備しようか」


「うん、二人は水萌ちゃんに任せよう」


「ということでお兄様、うちと紫音しおんくんは準備してくるから人には見せられないイチャイチャしてていいよ」


 依はそう言うと花宮を連れて部屋を出て行った。


 そしてレンが俺を解放する。


「人には見せられないイチャイチャってどんなの?」


「サキにはまだ早いからいいよ」


「私が恋火れんかちゃんにやってたみたいなやつ?」


「お前はほんとに黙れ」


 レンが水萌をジト目で睨む。


 確かにあれは人には見せられない。


 隣で見てた(視線は外してた)俺にもやばさだけは伝わってきた。


「確かにあれは俺には早い」


「つまりいつかは恋火ちゃんと……」


「水萌、間にサキがいるからってあんま調子乗んなよ?」


「恋火ちゃん怖い……」


 水萌が泣き出しそうな顔で俺に抱きつく。


 演技なのがわかっていても可哀想に思ってしまうのが水萌のすごいところだ。


「サキは水萌を見てるから変な女には引っかからなそうだよな」


「変な女って?」


「サキが絶対に関わりたくないって思ってるクラスの奴みたいな女」


 そう言われて頭に浮かぶのは水萌と依以外の全員だ。


 特に水萌の周りでワイワイしてるうるさい人達は嫌だ


「基本的に女は男を下に見てるからな」


「全員が全員じゃないでしょ」


「男の方は女にいい格好したくて上に見てるから仕方ないんだよ」


「それが『普通の高校生』なの?」


 そんなのが普通なら俺は普通じゃなくていい。


 俺はみんなと対等でいたい。


「まあオレの独断と偏見なんだけど」


「なんだよ」


「でも、水萌以外で水萌みたいにベタベタしてくる女子って嫌いだろ?」


「嫌い」


 水萌だからいいけど、もしもクラスの女子に水萌と同じ距離感で接せられたら普通に嫌だ。


 ありえないことだけど。


「私はいーい?」


「もちろん。だけどすごい今更なこと聞いていい?」


「なーに?」


 水萌が俺に抱きつきながら首をコテコテさせる。


 見たことないけど赤べこみたいで可愛い。


「水萌ってもう金髪碧眼じゃなくていいんじゃないの?」


 水萌の髪と目の色は色々なすれ違いが重なった結果起こったもので、そのすれ違いも解決したから水萌が髪を染める理由もカラーコンタクトを付ける必要もないはずだ。


 だけど水萌は未だに金髪碧眼で生活している。


「……」


「別に俺は水萌の好きな方でいいと思ってるよ? 今更髪を黒に変えたら学校でめんどくさいだろうし」


「サキだよなぁ。ちなみにサキは『どっちも』は無しでどっちの水萌が好き?」


「正直黒髪黒目の今の水萌を見てないからなんとも言えないけど、髪が長いなら金髪の方が元気な水萌っぽいかなって思う」


「短いなら?」


「それなら黒かな? 完全な俺の趣味って言うのかわからないけど、なんとなくそう思う」


 水萌は人見知りさえしなければ元気なので、それなら黒髪ロングよりも金髪ロングの方がそれっぽい。


 もしも短めの髪なら金髪よりも黒髪の方が似合う気がした。


 完全なオタク脳かもだけど。


「まあ水萌が可愛いことに変わりないけど」


「良かったじゃん」


「……うん」


 俯いているからわからないけど、いつの間にか抱きつく場所が俺の体から腕に変わっていた水萌が抱きつく力を強めた。


 多分喜んでいる。


「どういう──」


 意味なのか聞こうとしたら部屋の扉が勢いよく開いた。


 そしてそこには執事服を着た依が堂々と、メイド服を着た花宮が恥ずかしそうに立っていたのだった。

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