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集会の理由

「まーくんごめんって。まーくんが変なこと言うから楽しくなっちゃって」


「いいんです、悪いのは俺なので……」


 花宮はなみやにからかわれた俺は絶賛花宮から慰められ中だ。


 さっきまでと立場が逆転しているが、すぐに立場が変わるなんて俺達らしいとも言える。


「私も舞翔まいとくんになでなでしたい!」


「一緒にやる?」


「やる!」


 こうして俺は花宮と水萌みなもから二人がかりで慰められる。


 これを役得と捉えるか、それとも拷問と捉えるのか……


「れんれん」


「別に気にしてない」


「うちと以心伝心だね」


 少し離れたところでは呆れた様子のレンと楽しそうなよりが話しているし。


 少し嫉妬。


「なるほど。浮気現場を目撃しても、当の本人が彼女と同性のうちが話してるところに嫉妬するから気にならないのか」


「サキは愛が重いから」


「れんれん的には?」


「一途って意味だから嬉しいよ」


「おにいさまー、冷房の温度下げていーい?」


 俺のレンと仲良く話してる依の言うことなんて聞く気はない。


 だから無視をしていたら勝手に冷房のリモコンを操作していた。


「勝手にやるなら聞くなよ」


「ずっと思ってたんだけどさ、この部屋って冷房の温度高いよね。暑いってほどでもないけど、二十七度って光熱費意識してるのかな?」


「そう思うなら勝手に下げてやるなよ。それと光熱費とかじゃなくてサキが冷房苦手なんだよ。つけないと暑いからつけてるけど、サキは二十七度が限界みたい」


「それを先に聞きたかった」


 依はそう言って冷房のリモコンを操作する。


 俺が冷え性なのか知らないけど、どうも冷房がついていると体が冷えて好きじゃない。


 だからスーパーなんかに行くと寒いのを我慢しながら買い物しなくちゃだから長袖必須だ。


「別に暑いなら下げていいよ。俺が毛布に包まればいいだけだから」


「うちはそこまで図々しくなれないよ。それとも冷房下げてうちが暖めてあげようか?」


「それって結局依は涼しくならなくない?」


「マジレスすな!」


 依のおかげで話せるぐらいには回復してきた。


 持つべきものは空気をぶち壊せる友達だ。


「絶対うちを馬鹿にしたよ」


「褒めた」


「嘘つきには紫音しおんくんが罰を与えるよ」


「花宮を使わなくても依が同じことをするだけで俺にダメージは入るよ?」


「どうせ返り討ちに遭うんだからやるわけないでしょ」


 依が真剣な表情で答える。


 まるで俺がおかしいみたいな言い方はやめて欲しい。


 少なくとも依だっておかしいんだから。


「というかそろそろ本題に入ろうよ」


「そういえば今日ってなんの集まりなのか聞いてなかった」


 水萌とレンがうちに来るのはデフォルトとして、花宮が来るまでは偶然で済むけど、そこに依まで来るとなるとさすがに何かあるはずだ。


 うちに集まるのが当然になってるから全員集まることが無いことも無いんだろうけど、実は真面目な依が連絡も無しに来るのは少し変だ。


「お兄様さ、うち達に何か言うことない?」


「え、さすがに依が髪切ったとかわからないよ?」


「なんでわかるんだよ……」


 よくあるテンプレを言ってみただけだったけど、どうやら本当に髪を切っていたようだ。


 言われてみたら前に会った時は耳が少し隠れていたように思うけど、今は赤い耳が見やすくなっている。


「というかそうじゃない!」


「違うのかよ。じゃあメイクの種類変えたとか言い出す? 余計にわかるわけないじゃん」


「だからなんでわかんだっての。そもそもこの中でメイクしてんのうちだけなんだから『達』にはならないでしょ!」


 まさかのまたも正解。


 もしかしたら俺は依のことをちゃんと見てるのかもしれない。


 だけど依の求める答えがわからない。


「依ちゃん、まーくんは絶対にわからないから依ちゃんが照れちゃうだけだよ」


「ほんとになんで人のことはなんでもわかるのに、自分のことになるとてんでわからなくなるのか」


「それがまーくんだから」


 なんだかよくわからないけど、さりげなく俺を馬鹿にするのはやめて欲しい。


 俺は赤の他人に興味はないけど、自分にだって興味はないのだから仕方ない。


「まあそれがお兄様のいいところだからいいんだけどさ。それよりもお兄様は八月の十五日がなんの日か知ってる?」


「八月の十五? わかるけど?」


「じゃあなんの日?」


「父さんの命日」


「それはうちが初耳なんですけど?」


 依がレンの方を向く。


 そのレンが少し気まずそうに視線を逸らした。


「ごめんは同情してるみたいで嫌だけど、ごめんなさい」


「ほんと真面目な。それよりも他に何かあった?」


「れんれん、大丈夫なんだよね?」


「多分。サキの母さんの陽香ようかさんに言われたことだし」


 どうやら母さんが一枚噛んでいるらしい。


 つまり俺に関することで、レン達にして欲しいこと。


 それは……


「わかんないから教えて」


「えっと、お兄様の誕生日だよね?」


「あぁ、そうだね。そういえばそっか」


 俺の誕生日は八月の十五日で、父さんの命日と同じ日だ。


 だから母さんはその日は絶対に仕事を休む。


 昼は父さんのお墓参りに行って、夜は俺の誕生日をお祝いする為に。


「俺の誕生日って母さんに祝われて終わりだったから記憶に無かった」


「人のは散々言ってきたくせに」


「そりゃ、水萌とレンが生まれた日だよ? 祝わない理由無くない?」


「サキだもんな。だけどそれをそのまま返してやるよ」


 レンが言うと、隣の依と俺の隣に居る水萌と花宮も頷いた。


 なんだろう、なんだか嬉しい。


「お、泣くか?」


「泣きはしないけど、ありがとう」


「まだ何もしてないんだけどな」


「よし、盛大に期待しよ」


「みんな、お兄様がハードル上げてるよ。お兄様のことだからうちらが飛ぶ瞬間に下げてくれるだろうけど」


「それは逆に危ないだろ」


 比喩にマジレスしても仕方ないけど、高いハードルを急に下げたら危険だ。


 知らんけど。


 だから俺はそんなことはしない。


 と、思う。


「サキのハードルって元々低いじゃん」


「なんでも喜ぶよね」


「まーくんは優しいから」


「舞翔くんだもん」


 褒められてるのはわかるんだけど、チョロいって言われてるみたいで複雑だ。


 まあレンの言葉を借りるなら、そっくりそのまま返すけど。


「当日避けたのって母さんに譲ったの?」


「いや、サキが教えないから誰も知らなかったんだよ。当日に聞かされても準備なんてできてるわけないだろ」


「そもそもうちの場合は紫音くんから次の日に聞いたし」


「ごめんね、僕もまーくんにどんなお祝いしようかでいっぱいだったから」


「紫音くんは悪くないよ。事前に教えなかったお兄様が悪い」


 なぜかレンと依にめちゃくちゃ責められる。


 確かに誕生日を教えてなかったけど、誕生日を自分から教える人なんているのか。


 話の流れとかならわかるけど、自分で「俺の誕生日はこの日!」なんて言ったらお祝いを要求しているみたいで嫌だ。


「一つ言っとくけど、俺は水萌には八月が誕生日って言ったからな?」


 全員の視線が水萌に集まる。


 俺は一度、水萌とどちらが誕生日的に年上なのかを知る為に水萌の誕生日を聞いた。


 だから俺は水萌とレンの誕生日を知っていたけど、その時に俺の誕生日の月だけは水萌に教えている。


「さっきから水萌が静かなのってそれか」


「水萌氏……」


「も……水萌ちゃん」


「舞翔くん、みんながいじわるするからなでなでして」


 水萌がそう言って俺に頭をこすり付けてきた。


 別に水萌には非はないんだから責めなくてもいいのに。


 俺はそう思いながら水萌の頭を撫でる。


「サキ、甘やかすな。水萌のことだから忘れてたフリして自分一人だけサキのお祝いしようとしてたけど、ほんとに忘れたってこともあるんだから」


「そうなの?」


「……そんなわけないよ」


「だそうです」


「自白をありがとう」


 今のは誰がどう見ても認めている。


 水萌は嘘が苦手だから仕方ない。


 だけどそんな水萌にレンが「サキと近づくの禁止」という罰? を与えた。


 水萌は絶望した顔でレンによって引きずられて行った。

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