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男女の距離感

「ご機嫌になりました♪」


よりが元気になって良かったんだけど、代償が大き過ぎた……」


 依は満面の笑みで体を左右に振っている。


 それはいいんだけど、代わりにずっと抱きつかれていた花宮はなみやは両手で真っ赤な顔を押さえてうずくまっている。


「いやぁ、可愛くてつい」


「普通逆なんだけどな」


「お兄様、そういう偏見でものを言ったら駄目だよ。今のご時世女の子もガツガツしていかないと」


「それでいたいけな男の子をいじめるんじゃないよ」


 依に俺のお説教は何処吹く風だ。


 依が花宮を好きでこういうことをしたのなら俺は何も言わない。


 だけど違うならさすがに花宮が不憫だ。


「お兄様、今酷いこと思った?」


「真面目な話な。依はもう少し考えてから行動した方がいい」


「うちがいきなり紫音しおんくんに抱きつくのは紫音くんが可哀想って?」


「そう。いきなり依みたいな可愛い子に抱きつかれたら男子は困惑するでしょ」


 花宮は女子に間違われがちらしいけど、心は男の子なわだから依みたいな可愛い子に抱きつかれたら可哀想だ。


 かく言う俺も水萌にいきなり抱きつかれた時は本当に焦った。


 今は慣れたから正直覚えてないけど。


「お兄様がうちに酷いこと言わないのはわかってるけどさ、いきなり褒められると照れるからやめなさい」


「別に褒めてないんだけど? ちゃんと聞いてた?」


「うちが悪かったからそれ以上は喋らないで。今は余韻に浸りたい」


 依が少しだけ頬を赤く染めながら俺に手の平を向ける。


 意味がわからないけど、依がそう言うなら放置することにした。


「花宮は大丈夫?」


「お耳まで真っ赤っか」


「よりって顔はいいからな」


 花宮を任せていた水萌みなもとレンに声を掛けると、水萌が花宮を覗き込むように見ていて、レンが少し離れたところで眺めていた。


 今更だけど、可愛い依に抱きつかれて恥ずかしがってる花宮を可愛い水萌とレンに任せたのは間違いだったかもしれない。


「さりげなくうちが馬鹿にされた気がした」


「でも?」


「れんれんが名前呼んでくれて嬉しい」


 放置するつもりだったけど思わず返事をしてしまった。


 だけど今度こそ自分の世界に入ったようなので放置して花宮の方に向かう。


「だいじょぶか?」


「まーくん……」


 俺が近づくと、花宮がいきなり俺の胸ぐらを掴んできた。


 文字にすると荒っぽいのに実際は涙目で俺の服をギュッと握っているだけだ。


 依の言う通りこれは間違いが起きてもおかしくはない。


「やばい、水萌よりも危険な相手が」


「花宮は男だからね?」


「それをさりげなく聞かされたオレの気持ちがわかるか?」


 面白そうだからとレンには花宮が男子だと伝えてなかった。


 だけどお墓参りに言った時に母さん達が花宮を男子と言っていたのを聞いていたようで、場所が場所なのもあって反応ができなかったらしい。


 だから驚くこともできずに今に至っている。


「花宮さん……紫音くん? それだと文月ふみつきさんと一緒になっちゃうか。ならしーくんだ!」


「いきなりどしたの? それとさりげなく依と一緒の呼び方は嫌だなんて言わないの」


「仲良くなってきたから名字はやめようかなって思って。それと別に文月さんと一緒が嫌とかじゃないよ。どうせならみんなと違う呼び方がいいかなって思っただけ」


 水萌は人見知りがすごいから大抵の相手は名字呼びだ。


 それが慣れてくると呼び方が変わる。


 だけどそれは悲しい現実を突きつけることになる。


「よりが絶望してる」


「だろうね。花宮よりも先に会ってるのに自分よりも先に名前呼び、しかもあだ名で呼ばれてるんだから」


 俺は見えてないけど、背後で依が四つん這いになって落ち込んでいる姿が目に浮かぶ。


 可哀想だけど依は最近水萌と仲がいいみたいだからこれからに期待だ。


 なんとなく水萌が依を名前で呼ぶのは相当後な気がするのは俺だけではないと思うけど。


「それよりも、しーくんはとっても可愛いね」


「とどめを刺すな。まあ確かに男子にしては可愛いとは思うけど」


 俺の胸に顔を埋めている花宮の頭を撫でながらそう言う。


「サキがそんなことしてる時点でそうだよな」


「俺が可愛い子にだけ優しいみたいな言い方して」


「実際サキの周りに可愛い子しかいないだろ?」


恋火れんかちゃんが自分のことを可愛いって言ったよ。恋をすると女は変わるってほんとなんだね」


 レンが余計なことを言う水萌のほっぺたをふにふにする。


 前に約束した『我慢できたらなんでも言うことを聞く』というのはやめたようだ。


 単純に忘れてるだけかもしれないけど。


「お兄様」


「元気になった?」


「少しなったけど、お兄様の答え次第でもっとなる予定」


 水萌からの精神攻撃でダウンしていた依が俺の肩をちょんちょんと指でつついてきた。


 絶対に意味のわからないことを聞いてくるのはわかっているけど、水萌が悪いことをしたのでお詫びに話ぐらいは聞いてあげる。


「紫音くんは男の子なわけでしょ?」


「そうだな」


「つまりさ、うち達女子とできないことがお兄様はできるじゃん?」


「言いたいことがなんとなくわかったけど、それで?」


「大丈夫?」


 真面目な顔で何を言い出すのかと思ったら案の定意味のわからないことだったので、軽くデコピンをしてあげた。


 依達とはできないこととは、例えば一緒の部屋で着替えや、温泉などに一緒に入るとかだろう。


 花宮は男なのだからそんなのできるに……


「ふっ、デコピンされた価値はあったぜ」


「やばい、今度は本気で泣かしたい」


「女を泣かせるなんて男として恥ずかしくないのか!」


「世の中には自業自得という言葉があるし、男女差別は良くないからね」


 そう言って俺は指を構える。


 だけど依に後ずさって逃げられた。


 追いかけようにも花宮が離さないので追いかけられない。


「あいついつか泣かす」


「ねぇまーくん」


「……何かな?」


 もう少し恥ずかしがって固まっていて欲しかった。


 少なくとも今は何も聞かないで欲しい。


 例えば俺と花宮だからできることとか。


「僕とまーくんならできることってなに? 依ちゃん達とはできないんだよね?」


 花宮がさっきまで恥ずかしがってたのが嘘のように顔の赤みが引いている。


 青ざめているとかではなく、普通の色になっているだけだか。


 それだけさっきの依の発言が気になったのだろう。


「依の世迷言だから気にしないで」


「……そっか、僕には言えないことか」


 花宮が何かを察した様子で残念そうな顔になる。


 これは絶対に勘違いしている。


「言っても引かない?」


「僕がまーくんを引くなんてありえないよ」


「だよな。だけど言質は取ったから引くなよ?」


「引かないもん!」


 可愛いをありがとうということで花宮の頭をぽんぽんと叩く。


 ここで謎に笑顔になるものだから問題なのだ。


「俺は花宮を男だと思ってる」


「うん? 僕は男子だよ?」


「うん。花宮はそう言われるの嫌だろうけど、花宮は可愛いだろ?」


「まーくんにならいいよ。まーくんは言葉通りにしか言わないから」


 どういう意味かはわからないけど、花宮が嬉しそうなのでそのまま続ける。


「俺と依は異性だからできないことってあるだろ?」


「お風呂みたいなこと?」


「そう、俺は花宮と一緒にお風呂、まあ温泉って言った方のがいいか、もしも一緒に温泉に行った場合に普通に入れるのかなって」


「……」


 花宮がどうとも取れない真顔になる。


 まあ当然と言われれば当然だけど。


 いきなり同性から「お前は可愛いから一緒のお風呂に入るのが不安」なんて言われたら俺なら引く。


 だから先に言質は取ったけど、これで引かれても仕方ないとは思っている。


「まーくん」


「どんな叱責でも受けるから寛大な処置を希望します」


「……じゃあちょっといじわるしよ」


 花宮はそう言うといたずらっ子のような笑みを浮かべて俺の耳元に顔を近づける。


(まーくんってえっちなんだね)


 花宮にそう囁かれて思ったことは「この子やばい……」だ。


 花宮が男でなければ色々とやばかった。


 依との距離感が普通の女友達とのものだとして、花宮は男友達になるから距離感が近いのはわかる。


 だけど花宮の可愛さもあって、たまに昔の水萌を相手してるようで頭がバグりそうになる。


 花宮の方はすごい嬉しそうだから別にいいのだけど、嬉しそうに「まーくんが健全な高校生してて僕は嬉しい」と言っているのが気になった。

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