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墓前を楽しく

「大所帯だ」


「お父さんの人望を誇っていいのよ」


 父さんのお墓に着くと、既に悠仁《ゆうじ》さんと唯《ゆい》さんが居て、お墓の掃除をしてくれていた。


 そこに俺達がやって来て、父さんのお墓の前には七人もの人が集まった。


 だから父さんに人望があったのはわかるけど、それを母さんが誇らしげにするのは違う気はする。


「舞翔《まいと》くん、なんでお父さんとお母さんが居るの?」


 水萌《みなも》が俺の服の袖をちょんちょんと引っ張りながら首を傾げる。


 そういえば水萌には悠仁さんと唯さんが来ることを話してなかった。


「かくかくしかじか」


「なるほど」


「絶対通じてないだろ」


 面白半分で言ってみたけど聞いてきた水萌自身もあまり興味はなかったのか、納得してしまった。


 そしてそれにレンが突っ込む。


「わかるもん。私と舞翔くんはテレパシー? できるから」


「わからない言葉を使うな。馬鹿がばれるから」


「恋火《れんか》ちゃんが酷いこと言った。舞翔くん、やり返していーい?」


「いいよ、優しめのを俺の前でお願い」


「わかった」


「わかるなバカ」


 レンが水萌に軽くチョップをしながら言う。


 この後に水萌が言うことはわかっているので言われる前に水萌の頭を撫でて誤魔化す。


 俺が居ないところならいいけど、正直水萌の刑は目に毒なのでそう簡単にやらせてはいけない。


「ほんとに仲がいいよね」


「うん、俺達の昔を思い出すよ」


「あら、私は除け者ですか」


「うわー、悠仁君が唯さんに酷いこと言ってる。これは大翔《やまと》さんに報告してお説教してもらわないと」


「やめてください。あいつに怒られるとほんとに怖いんだから」


 母さんの言う『大翔』とは、俺の父親の名前だ。


 母さんは基本的に俺の前では父さんを『お父さん』と呼ぶけど、さすがに昔馴染みの前では名前で呼ぶようだ。


「母さん達、仲良いんだね」


「舞翔達には負けるけどね」


「そう? まあ仲がいいって言われるのは嬉しいけど」


 子供目線からでも母さん達は仲がいい。


 そんな母さんに俺達の方が仲がいいと言われるのはなんだか嬉しい。


「私達はあんな新婚さんみたいな空間にはならなかったから」


「見てないからわからないんだけど、普段はどういうことしてるの?」


「実の娘が悲しんでる時に何もしなかった人が何か言ってる?」


「陽香《ようか》さん。それは唯さんにも刺さるからやめてください……」


「あら? 私はまだ二人のしたことを許してないのよ?」


 母さんが笑顔で悠仁さんと唯さんに言う。


 母さんは基本的には優しいけど、怒る時はほんとにやばい。


 それがわかっているのか、悠仁さんと唯さんが小さくなってるように見える。


「母さん、そういうのは俺達と父さんの居ないところでやって」


「あ、ごめんなさい。そうね、後でちゃんとお話しましょう」


「舞翔君に助けられたようで実は首を絞められた?」


 悠仁さんが失礼なことを言うので母さんからのお説教を追加してもらうことにする。


 俺は悪くない。


「ちなみに水萌とレンは悠仁さんと唯さんと話せるぐらいにはなった?」


「昨日の今日じゃ変わらないだろ」


「私は多分舞翔くんのお話ならできるかな?」


「そっか、まあ時間の問題かな」


 別に今すぐ仲良くなれなんて言うつもりはない。


 だけど後悔だけはして欲しくない。


「花宮《はなみや》は両親と仲いい?」


「よくないって言ったら?」


「普通に謝る」


「だよね。いじわる言ってごめんね、別に仲は悪くないよ。まーくんとまーくんのお母さんほどではないけど、仲はいい方かな?」


 思春期真っ盛りの高校生男子なら親と仲が悪いのが普通なのかもしれない。


 だけど俺は母さんを嫌うことなんてない。


 俺が普通と違うのはこういうところもあるのかもしれない。


「まあ今は離れてるんだけどね」


「そういえばそうだったな。こっちでは仲良く?」


「うん、叔父さんと叔母さんと、叔父さんと叔母さんの娘で、僕の従姉妹《いとこ》になる一個上のお姉さんも居るんだけど、みんな優しいよ」


「なら良かった。それでスカートはいつ?」


「覚えてたのね。そんなに見たいの?」


 花宮が頬を少し赤く染めながら上目遣いで聞いてくる。


 これで女子ならどれだけの男子を手玉に取れたか。


「まーくん?」


「なんでもない。見たいのは見たいよ。待ってるから」


「もう、まーくんなんだから」


 花宮が呆れたように、だけど少し嬉しそうに言う。


 そして隣のレンには背中を殴られる。


「え、あの子男の子なの?」


「そうみたい。私も驚いちゃった」


「舞翔君がうちの子に浮気して他の子連れて来たのかと思った」


 うん、やっぱり悠仁さんだけでなく唯さんも母さんのお説教を追加してもらうことにした。


 誰が浮気なんかするか。


「うちの子は一途だから」


「悠仁さんも見習って欲しい」


「いや、俺も唯さん一筋だって」


「いいの? 子供達の前でカミングアウトしても」


「それはやめて。ただでさえ少ない俺の評価が余計に無くなる」


 悠仁さんが慌てた様子で唯さんに言う。


 なんとなくわかるけど、いつか悠仁さんを揺する機会がきた時の為に俺も黙っておくことにした。


「そうだ、そろそろここに来た理由を片付けよう」


「話逸らした」


「しかも『片付けよう』なんて、大翔さんをなんだと思ってるのか」


「どうしよう、ここに俺の味方がいない」


 悠仁さんはなんで口を開くと誰かから責められるのか。


 俺は見てて面白いから援護も何もしないけど。


 そもそも俺も責める側の人間だし。


「でもそうね。大翔さんのお墓参りなのに私達で盛り上がっちゃったら大翔さんが拗ねちゃう」


「あいつはどっちかって言うと喜びそうだけど」


「楽しいのが好きだったもんね。悠仁君に振り回されてる時も嫌な顔しない優しい人だもん」


「振り回してたのは陽香さんだと……なんでもないです」


 母さんの笑顔に悠仁さんが冷や汗をかく。


 これだけは悠仁さんに同情する。


「お掃除は悠仁君と唯さんがやってくれたみたいだから、お花とかお供え物は私達がやるわね」


「お願いします。私達はお線香の準備をしますね」


「ありがとう。それじゃあ始めましょうか」


 こうして俺達は和気あいあいと準備を始めた。


 父さんが少しでも楽しくなれるように。

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