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水萌の葛藤

「ただいまー、って言っても私一人だから返事はないんだよなぁ」


 舞翔まいとくんのおうちから帰って来た私は、いつものように『ただいま』を言うけど、反応が無いことに少し寂しさを覚える。


 舞翔くんと仲良しになる前まではそもそも『ただいま』なんて言わなくて、返事がないのが当たり前だったのに。


「これからはこういう日が多くなるのかな?」


 私が告白をしなかったから、舞翔くんは恋火れんかちゃんと恋人さんになるのは確定だ。


 つまりは二人の時間が増えて、私は一人になるかもしれない。


 多分二人は優しいからそんなことにはならないんだろうけど、二人が仲良しなところを見てるのは私が辛い。


「諦めないつもりだったけど、せっかく恋人さんになれた二人を引き裂きたくないよ……」


 恋火ちゃんが舞翔くんと恋人さんになったとしても、それを無視して舞翔くんと恋人さんになるつもりだった。


 もちろん無理やりじゃなくて、舞翔くんに私を好きになってもらう努力をしようって。


 だけどいざそういう状況になったら怖くなった。


 舞翔くんを奪った私を恋火ちゃんがどう思うのか。


 恋火ちゃんとの間に割り込んでくる私のことを舞翔くんがどう思うのか。


 わかっている。


 二人は私に酷いことは言わないし、私が悪いことをしたとしても許してくれる。


 だけど、今まで通りの関係では無くなる。


「それは嫌だもん」


 私は帰って来たそのままの格好で自分の部屋に行き、枕元に座っているねずみ色のわんちゃんマイトくんを抱きしめながらベッドに倒れ込む。


 ちなみに隣には灰色のにゃんちゃんマイトくんが座っている。


 そっちは恋火ちゃんのだから抱きしめるの禁止だ。


「私ってずるいよね。告白しなかったのって、二人の関係を壊したくなかったのもあるけど、私が選ばれなかったって現実から逃げる為でもあるんだから」


 私は恋火ちゃんと舞翔くんが恋人さんになることを応援した。


 多分そういう風に見えているかもだけど、半分は自分が舞翔くんに選ばれなかったっていう事実が怖かったのがある。


 恋火ちゃんは気づいてたと思うけど。


「私達なら『みんなで仲良く』ができるんだろうけど、いつか私がそれを壊しちゃう」


 私は自分が思ってた以上に舞翔くんが好きで、今でも関係を壊したくない自分と、壊してでも舞翔くんと恋人さんになりたい自分がいる。


 今はまだ舞翔くんと恋火ちゃんを応援できると思うけど、隣で仲良しな二人を隣で見ていたらどうかるかわからない。


「私がいなくなれば……」


 私が二人の関係を壊すなら、私が二人から離れればいい。


 まあ、二人が私を一人にすることは絶対にないから離れるなんてできないんだけど。


「一人だと暗いことしか考えられないよ。明日にはいつも通りって恋火ちゃんと約束したんだから、暗いのは今日だけ。つまり今日は暗くてもいいのだ」


 誰に言い訳してるのかわからないけど、私はマイトくんを抱きしめる。


「そうだ、暗い時は楽しい時のことを思い出そ」


 私は起き上がって同じくベッドの枕元にある舞翔くんからのプレゼントを手に取る。


 黒い悪魔(舞翔くん曰く小悪魔)の羽の形のネックレス。


 ちなみに入れ物は最初だけラッピングの箱をそのまま使っていたけど、それだと私が破いたところが嫌だったので恋火ちゃんと一緒に買いに行った。


 二つ入れられるようになっていて、中ではハートの形になっている。


 私はそのネックレスを両手で優しく包み込んで抱きしめる。


「元気充電」


 落ち込んだ時は舞翔くん関連のものを抱きしめると元気なれる。


 舞翔くんのパーカーにはすごい助けられた。


 恋火ちゃんには多分バレてないけど、今思うとすごいことをしていた。


 私って実は変態さんなのかもしれない。


「だって好きなんだもん。むぅ、元気を充電中に違うこと考えちゃ駄目!」


 自分で自分に怒り、ネックレスを丁寧に戻す。


 そしてまたマイトくんを抱きしめる。


「どうすればいいのかな。舞翔くんと恋火ちゃんには嫌な思いはして欲しくないけど、私だって舞翔くんと恋人さんになりたい。私が舞翔くんと恋人さんになろうと色んなことをしても二人はなんだかんだで許してくれると思う。そうなると私がやり過ぎる可能性がある。それともしも本当に舞翔くんが私を好きになったらなったで……」


 一番いいのが『私が我慢する』なのはわかっている。


 だけど我慢できないのが私で、多分我慢してたら二人にバレて怒られる。


「じゃあどうすれ、ばぁ……」


 一つ解決策を思いついた。


 だけどそれはやりたくない。


 正確には()()()を頼りたくない。


「背に腹はかえられぬってやつかな。あんまり恋火ちゃんに近づけたくないんだけど」


 私があの人を好きになりきれない理由は恋火ちゃんを取られるのが嫌だから。


 今は舞翔くんも含まれてるけど、恋火ちゃんが一番の理由だ。


 恋火ちゃんは忘れてるけど、あの人と恋火ちゃんは小さい頃に会っている。


 恋火ちゃんが変な知識を覚えてきたのはあの人と出会ってから。


 あの人が覚えているかはわからないけど、もしも恋火ちゃんのことに深く巻き込んで思い出されたら嫌だ。


 だから恋火ちゃんには会わせないようにしていた。


 だけどあの人の無駄な知識は私の足りない知識を埋めてくれる。


「いや、恋火ちゃんが舞翔くんに夢中の今なら大丈夫なのかな? そもそも今更なのかな、舞翔くんが恋火ちゃんのこと相談してるわけだし」


 前に舞翔くんが恋火ちゃんのことをあの人に聞いたと言っていた。


 あれは恋火ちゃんが逃げちゃったせいだから舞翔くんを責められないけど、聞くなら私にして欲しかった。


 色んな意味で。


「でも今更頼るのは自分勝手……じゃない!」


 そういうことにした。


 そもそも私としか話そうとしなかった恋火ちゃんとちょっとの間で仲良しになるあの人が悪い。


 私には恋火ちゃんしかいなかったのに。


「だけど今までのことはちゃんと謝らないと」


 いくらあの人が全部悪いとしても、ずっと話しかけてくれていたのに無視していた私も悪い。


 それだけは謝らないと頼るなんてできない。


「そもそもいつ会えるかわかんないけど」


 私はスマホを持っていないから、謝るとか頼るとか以前にこの夏休み中にまたあの人と会えるかわからない。


 なんとなく会う気はするけど、いつになるかは知らない。


「早く会いたいなんて初めて思ったかも」


 とりあえず会えたら相談ということにした。


 それまでは私が我慢する。


 次にあの人と会うまでに私が爆発するまでがタイムリミットだ。


 とりあえずはそういうことにしてマイトくんを強く抱きしめる。


 前向きにはなったけど、今日のことを思い出すと暗くなってしまう。


 この日はその後何もしないで眠りについていた。


 朝起きたら枕が濡れていたのは冷房をつけ忘れたせいだろう。

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