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初めての夜

「じゃあ一緒にお風呂入る?」


「律儀に目を瞑ってたサキが入れるわけないだろ」


 レンからの最後の隠し事(予定)を聞いた後にレンが上半身裸の状態で抱き合った。


 今はもちろん服を着ていて、離れる時はちゃんと目を瞑っていた。


 レンには耳元で「サキならいいよ?」と言われたけど、色々と無理だった。


「ヘタレー」


「一回レンを力づくで好き勝手やっていい?」


「ヘタレのサキにできんの?」


「はい、怒った。レンは今日俺の抱き枕な」


「期待して損した。サキと水萌みなもってそこら辺ほんとに小学生だよな」


 レンがはにかんだように笑う。


 どうしたものか、無性に可愛い。


「とりあえず抱きしめていい?」


「小馬鹿にしたはずなのになんで好印象なんだ?」


「レンが可愛いから?」


「答えになってないし。ほれ」


 レンが両腕を開く。


 おかしい。


 少し前まではこんなに素直ではなかったはずだ。


 このままでは俺が負け続ける。


「それはそれでいいか」


「何がだよ」


「なんでもない」


 俺は誤魔化しながらレンの背中に腕を回す。


 レンも腕を回してくれるけど、腕の長さ的にギリギリ腕が回っている。


 水萌もだけどこういうところも可愛い。


「今、水萌のこと考えたろ」


「嫌?」


「ちょっと。さすがに水萌のことを考えるなとは言わないよ。だけどオレのことを抱きしめてるのに他の女のことを考えるのは減点かな?」


「減点方式か。ちなみに上がることは?」


「絶賛爆上がり中」


 レンがまたもはにかむように笑う。


 この笑顔だけでなんでもできるような気がしてくる。


「今までも可愛かったけど、急に可愛くなり過ぎでは?」


「ずっと水萌とサキをくっつけようとしてたし、サキに告白されてからは一歩引いてたからな。今はそういうの全部無しだから」


「つまり可愛いに全振りしてると。道理で可愛いしかないわけだ」


「多分今日だけだから存分に楽しんどけ」


「なぜに?」


「今はドーパミン? オキシトシンだっけ? そういうのがあるから大丈夫だけど、明日には羞恥心がきて無理」


 いつものレンで助かった。


 さすがにこれを毎日続けられたら俺が恥ずか死ぬ。


「あ、そういえば俺も嫉妬していい?」


「脈絡……ないこともないか。なに?」


「結局レンがあの公園で遊んでた子って誰なの?」


 名残惜しいけどレンから離れながら聞く。


 あの公園とは俺が花宮はなみやと昔遊んでいた……のかは覚えてないけど、出会った公園。


 そして花宮と再会した公園だ。


 あの公園で休憩をしてた時に、レンが昔誰かと一緒に遊んでいたと言っていた。


 女子とは言っていたけど、詳しく聞いておきたい。


「それな。正直全然思い出せないんだけど、確かオレのことをサキみたいに『レンちゃん』って呼んでた気がする」


「そうなの? レンちゃん」


「絶対言うと思った。オレが名前嫌いだからって言うとみんな『レン』って呼ぶみたいだな」


「ひらがなで『れんれん』とかもいいじゃん」


「どこのパンダだよ。それはいいとして、オレがそいつのことを『より』って呼んでた気がするとこまでは思い出した」


「より? どこかで聞いた気がしなくもない」


 なんだか最近聞いた気がする。


 そこまで出てきてるような気がするのに思い出せない。


「あ、確か眼鏡掛けた女の子だった」


「他に思い出したことある?」


「オレが人の弱点を狙うようになったのは多分そいつのせいで、オレが父さんの仕事を暴力団だって思い込んだのもそいつが原因だと思う」


「理由だけ聞こうか」


「なんか人の弱点が好きな奴だったんだよな」


「どういう奴だよ」


 確かに小学生の中には『ドュクシ』の使い手とかもいるし、そういうのが好きなのがいてもおかしくないけど、女子となると少し珍しい。


「詳しい事情とか知らないけど、とにかくそいつに人の痛がるところを教えられて、たまに家に来る父さんの知り合いで試してた」


「よくできたな」


「変な人が多くて、多分オレに構いたかったんだよ。それでたまたま試す機会をくれたからやってみた。そしたらなんかそれが恒例みたいになったんだよな」


「可愛い女の子から急所を攻撃されて悦ぶへんた……口が滑るところだった」


「全部言ってるんだよな。とにかくそれで気がついたらオレは無意識に人の急所を狙うようになったと思う。知らないけど」


 いやまあ、護身術だと思えば良かったとも言えるけど、俺もたまに受けるから素直に喜べない。


「それとそいつが言ったんだよな『レンちゃんのおうちはぼうりょくだんなの?』って」


「絶対意味わかってない言い方じゃん」


 とある人に変なことを吹き込まれた水萌のような言い方だ。


 だから絶対に意味もわからずに、聞いたことをそのまま聞いているような。


「今思うとそうなんだろうな。だけどその頃はオレもまだ小さかったから勘違いしたんだと思う」


「ほんとに君達は一回ちゃんと家族で話そうね」


「善処する」


 最近俺達の中(俺とレン)で流行っている『善処する』。


 絶対にやらないのがわかるから逆にわかりやすい。


「まあ他所様のことに部外者の俺が首を突っ込むのもあれか」


「部外者じゃないだろ」


「と言うと?」


「うわ、わかってるのに聞いてくるやつだ。つまりオレの一方通行だったってことか。悲しいなぁ……」


 レンの顔がしょぼんとする。


 可愛いです。


「いつか言うよ」


「それはそういう意味で捉えていいんだな?」


「いいよ」


 ちゃんとした言葉はちゃんとした時まで取っておく。


 その時までレンを大切にする為に。


「いや、無くても大切にするけど?」


「サキの一人劇場がまた始まったよ。つーかもう暗いけど?」


 確かに気づけば辺りは薄暗くなっていた。


 レンとの時間が楽しくて気がつかなかった。


「先にお風呂にする?」


「一緒に?」


「入ってやろうか?」


「んー、それは今度でいいや。今日は別々の方が都合がいいし」


「と言うと?」


「秘密」


 レンはそう言うと立ち上がり自分の荷物を取りに行った。


「オレが先でいいの?」


「いいよ。どうせ湯船溜めてないし」


「おけ」


 レンはそう言って部屋から出て行った。


 なので俺も立ち上がりキッチンへ向かう。


 晩ご飯の準備をしていると、リビングの扉が開く。


 レンが帰って来ると思っていた俺は固まった。


 そこには可愛い白いにゃんこが居た。


「ど、どう?」


「可愛い」


「即答かよ。でも良かった」


 猫の皮を被った天使の微笑みを見て動ける人類はいるのだろうか。


 いるわけがない。


「水萌からの?」


「そう。白って派手じゃないか?」


「ん? でも天使って白のイメージだし」


「余計なこと言った。水萌には黒犬あげれば良かったか」


「黒は俺の担当だからいいよ」


「サキにはうさぎのパーカーをプレゼントしてあげよう」


「なんで?」


「うさぎって寂しいと死ぬって言うじゃん」


 納得してしまった。


 確かに俺はレンと水萌がいないと寂しくて死ねる。


 もしかしたら俺の前世はうさぎなのかもしれない。


「サキってそういうからかいほんとに効かないよな」


「なんかごめん」


「それがサキだし。それよりも、晩ご飯食べたらどうする?」


「え、寝るんじゃないの?」


 水萌がうちに泊まった時は晩ご飯を食べて少し話したら寝た。水萌が。


 そもそも俺達は一緒に居ても話すぐらいしかやることがないんだから他に選択肢なんてないはずだ。


「これはオレが色々と教えないといけないの? なんか面白そうだからいいけど」


 レンが悪いことを考えてそうな表情になる。


 お風呂上がりで赤かった顔も既に引いていて、結局可愛い。


「今日の夜から試してみるか」


「何をだよ」


 レンは楽しそうだけど、俺には意味がわからないのでレンを無視して晩ご飯の準備を進める。


 そして二人でそれを食べて、俺はお風呂に入った。


 レンの後のお風呂……なんていう煩悩はレンを考えて消した。


 可愛いレンを考えていれば他のことなんて何も頭に入ってこない。


 そうして俺はお風呂を出てレンの待つ俺の部屋に向かう。


 そして部屋の扉を開けると……


「おかえりなさい。お風呂にする? ご飯にする? 両方終わってるから……オレがいい?」


「じゃあレンで」


 ちょっと可愛いが過ぎたのでベッドの上で女の子座りわしているレンを抱っこしてベッドに引きずり込んだ。


 さっきの約束通り抱き枕になってもらう。


 なのにレンは顔を真っ赤にして固まってしまった。


 電気を消してないけど、レンを抱きしめていたら急に眠気がきた。


 水萌もこんな感じだったのだろうか。


 そういえば俺が頑張ったご褒美を貰い損ねたけど、今の状況が十分にご褒美だからいいことにした。


 そして俺は眠りにつく。


 寝る直前に「ばか」と、聞こえ、ほとんど寝ていたからわからないけど、どこかに懐かしい感触を感じた。


 起きたら隣に本物の天使が居たので全部忘れたけど。


 こうして俺とレンの恋人関係は始まった。

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