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浮気の自覚

「あ、まーくんの連絡先欲しい」


「すごい唐突だな。別にいいけど」


 拗ねる文月ふみつきさんを無視して、俺の足の中で嬉しそうにしてる水萌みなもの頭を撫でていると、花宮はなみやがいきなりスマホを取り出しながら言うので、確かベッドの上に放置してあるはずのスマホを探す。


「なんで携帯を携帯してないの?」


「逆に、使わないものを常に持ち歩く必要ある?」


「まーくんって普段なにしてるの?」


「水萌とレンと話す?」


 手探りで見つけたスマホを操作して花宮と連絡先を交換しながら自分のほとんど新品同様のスマホを眺める。


 最近の高校生はスマホが無いと生きていけないと言われてるらしいが、俺の場合は特に困ることがない。


 水萌とレンは何も言わなくても毎日うちに来るから連絡の必要がないのだ。


 だから今回、文月さんから連絡が来たのは久しぶりに俺がちゃんとスマホを使った時だった。


「スマホってアラームだろ?」


「それを実際に言う人初めて見た。ゲームをしたりとか、動画を見たりとかしないの?」


「特に? 暇な時は勉強してるかボーッとしてるだけだし」


「差よ」


 ずっと拗ねていた文月さんが呆れたように突っ込んでくる。


 そんなことを言われても、やることなんて勉強ぐらいしかないのだから仕方ない。


「お兄様って少しだけアニメ知識ない?」


「小さい頃は見てたから。最近はわざわざテレビなんてつけないし」


「現代っ子め」


「逆につけるの?」


 昔はそれこそ意味もなくテレビをつけて無駄に電気代を使っていたけど、今はテレビをつけるのもめんどくさい。


「ニュースを見ろ」とか常識人っぽいことを言ってくる奴もいるかもしれないが、そういう奴は見てたとしても、内容なんて一切覚えていない。


 見てもすぐに忘れるのならいちいち見る必要性を感じない。


「僕もつけないかな。昔はなんでも面白くて見てたけど、スマホばっかり見ちゃう」


「うちはつけるよ。リアタイしたいし」


「りあたい?」


「リアルタイム。放送してる時間と同じ時間で見ることらしいよ」


 俺でもそれぐらいのことは知っている。


 本物のオタクは放送時間に合わせてアニメが見たいから寝不足が多発することも。


「俺ってそういうの詳しくないけど、文月さんって肌綺麗だよね」


「脈絡が無さそうでありそうなことは言わないでくれるかな? いきなりで恥ずかしいのと意味がわからないのでごっちゃになる」


「夜遅くまでアニメ見てるのに、くまもないし、肌も綺麗じゃない?」


 俺には寝不足でどれだけ肌が悪くなるのかわからない。


 水萌もレンも早寝で、肌が綺麗だから比較対象にならないし。


 花宮も顔立ちは可愛いけど、そもそも男だから比べられない。


「一応乙女のはしくれなので、色々としてるんですよ」


「そういえば学校では隠してるつもりだったんだっけ?」


「いや、隠してるから。気づいてるのお兄様と森谷もりやさんだけだから」


「あれで?」


 正直文月さんがオタクなのを隠してることを聞いた時は普通に驚いた。


 俺達の前では気が抜けるようだけど、あれで他の人にはバレてないなんてどれだけ文月さんは周りから……


「お兄様、言っとくけどうちは別にぼっちとかじゃないからね?」


「うん、知ってるよ。大丈夫」


「強がりじゃないからね? 普通に学校でグループを作らせらてもすぐに作れるから」


「やば、リア充かよ」


 学校でよく作らされる『グループ』。


 ほんとにあれの必要性がわからない。


 なんでわざわざ自分がクラスで独りなことを実感しなければいけないのか。


「俺、リア充って嫌いなんだよね」


「拗らせてるな。うちのことは好きでしょ?」


「好き」


「おい、そこは『好きだったけど今嫌いになった』って冗談を言うとこだろが!」


「そういう反応が好き」


 レンもだけど、こうしてからかうといい反応をしてくれるから話していて楽しい。


 水萌には似たようなことを無意識で言われて困るけど、多分レンと文月さんは同じ気持ちなんだろう。


 わかっていてもやめられないのだから仕方ない。


「ほんとお兄様っていい性格してるよね」


「ありがとう」


「褒めてないからね?」


「知ってるけど?」


「ほんとさぁ……」


 文月さんがすごい呆れたような顔をする。


「二人ってすごい仲良しだね」


「お兄様はうちをからかって遊んでるだけだから」


「まーくんが人をからかってるって時点で仲良しだよ」


「否定できない……。まあうちもお兄様と仲良しなのは嬉しいからいいんだけどね」


 呆れ顔の文月さんに花宮がニコニコ顔を向ける。


 なんだか俺が馬鹿にされてるような気がするけど、文月さんに悪いことをしてる自覚はあるので何も言えない。


「まーくんと文月さんが仲良しなのはわかったんだけど、森谷さんとはほんとに尋常じゃないね」


「うん、落ち着くんだろうね、あの森谷さんがうちに何も言わないんだから」


 花宮と文月さんが俺の足の中で俺にもたれかかられている水萌に呆れたような顔を向ける。


 形的には俺が水萌に後ろから抱きついているような感じで、水萌はジェットコースターの安全バーを持つように俺の腕を持っている。


「そういえば、まーくんって好きな人がいるんだよね?」


「ん? うん」


「その人って前に公園で一緒に居た女の子?」


「そうだけど、急になに?」


 そういえばレンと初めて会った時、レンは男のように振舞っていた。


 そこまで本気で隠してたわけではないけど、初対面の人には性別がバレたことがないと言っていたのを思い出す。


 今ではこうしてみんなにバレてるのに。


「まーくんって、浮気性?」


「真顔で失礼なことを言うな」


「でも、好きな人がいるのに他の女の子とそんなに密着する?」


「お兄様と森谷さんは兄妹なんだよ」


 そういえばそんな設定もあった。


 最近は水萌とレンしか話し相手がいなかったから忘れてた。


「兄妹?」


「正確には義兄妹なんだって。だからって距離感バグってるのはそうなんだけど」


「……兄妹?」


 文月さんの発言に花宮がすごい不思議そうな顔をしている。


「何か?」


「うんとね、いくら兄妹でも距離感近いとは思うんだけど、高校生の男女で義兄妹の二人が同じ部屋で暮らしてるって仲良すぎじゃない?」


「同じ部屋……そういえばお兄様と森谷さんって部屋同じなの? 軽くしか見てないけど、他に部屋って一つしかなかったように見えたけど」


 勘がいい。


 確かにこのアパートはファミリー用ではあるけど、部屋自体はそんなに多くはない。


 それこそ、俺とほとんど使われてなく物置になっている母さんの部屋の分しかないぐらいに。


(さて、どう返したものか)


 正直この二人になら本当のことを話してもいい。


 俺と水萌がただの同級生で、今の状況は友達の距離感がお互いにわかってない結果だと。


 だけど俺はひねくれてるからそのまま伝えるのがなんかやだ。


 そんなことを考えていると、先に水萌が口を開く。


「一緒のお部屋使ったら駄目なの?」


「駄目じゃないよ? だけど、今まで赤の他人だったのに兄妹になったらその距離感になれてすごいなって思って」


「だって舞翔まいとくんのこと大好きだもん」


「俺も水萌のこと好きだからこの距離感に違和感なかった」


 多分無意識だろうけど、俺と水萌が兄妹のままで話が進みそうなのでそれに乗っかることにした。


「それって人として? 異性として?」


「男の子として!」


「俺は友達として」


 後のことなんて何も考えてない水萌は手を挙げながら堂々とそう宣言する。


 俺はその手を下ろしながら素直に答える。


「なんか、すごい複雑なんだね」


「そう? 私は舞翔くんのこと好きだけど、舞翔くんと恋人さんになれなくてもいいって思ってるよ?」


「そっか、血の繋がりはないから結婚とかも普通にできるんだ。でもいいの?」


「うん。私は舞翔くんと恋火れんかちゃんが恋人さんになったのを隣で見てるだけでも嬉しいの。それに恋火ちゃんなら私と舞翔くんがどんなことをしてても許してくれるって言ってたから」


 多分言ってない。


 だけどレンならため息をつきながら今の状況も許しそうだ。


 水萌だからと。


「あれだね、お兄様が一途すぎて他の子に見向きもしないから」


「まーくんって森谷さんにそういうことしててドキドキしないの?」


「普通にするよ? だけどレンへの気持ちが揺らいだことはないかな?」


 説得力なんてないんだろうけど、俺がレンを好きな気持ちは一度も揺らいでいない。


 確かに水萌に抱きついているのはドキドキするけど、それはそれ……


「なるほど、確かに俺は浮気を疑われても仕方ない」


「今更気づいたんだ。でも気づいたからって離れないっていうね」


「水萌が腕を離してくれない」


 ちょっと自分の行動を見直そうと思って離れようとしたら、水萌が俺の腕を強く抱きしめて離さない。


「や!」


「や、じゃないの。後で構うから今は離して」


「じゃあ()()()一緒に寝ようね」


「やっぱり一緒に寝てるんだ」


 花宮が少し呆れたように笑う。


 だけどそれは別にいい。


 問題なのは、水萌がすごい笑顔で、嘘なんて言ってないだろうことだ。


 つまりこの子は今日うちに泊まろうとしてる。


(水萌さん、泊まる気ですか?)


 俺は水萌に耳打ちで聞くと、いい笑顔で頷き返された。


 母さんからは水萌ならいつでも泊まることを許されている。


 なぜかレンは事前に許可を必要とされたけど。


「今から楽しみだなー」


「そうですね……」


 腕が解放されたので水萌の隣に座り直す。


 色々と考えようとか思ってたけど、そんなことができる状態ではなくなった。


 色々と考えていたら、文月さんと花宮が帰る時間になり、二人は俺を心配しながら帰って行った。


 長い夜が始まる。

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